グローバル時代の企業の海外進出
デザインが切り拓く未来

政治経済学部経営学科
岩谷 昌樹 教授

 経済のグローバル化が進むなか、企業の海外進出が加速している。ただ、海外で事業展開するということは異文化との衝突ともいえる。異文化に戸惑う企業は少なくないが、どう向き合い、どう対応すればいいのかなどを研究した国際経営論が注目されている。一方で米アップルのiPhoneなど優れたデザイン性を持つ商品がヒットする時代でもある。企業にとって最後の経営資源だとされるデザイン。今、注目される国際経営論とデザインマネジメント論を専門とする政治経済学部経営学科の岩谷昌樹教授に日本企業の針路などを聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 立山清也】

--専門の国際経営論について教えてください。

 私は学生時代から個別の企業に興味があり、その企業が海外に出て行った際に直面する課題を丹念にみてみたいと研究を始めました。グローバル企業が異文化とどう向き合い、どう対応しているのかを個別の企業を通してみていくのが私なりの国際経営論です。

--具体的には授業でどう教えているのですか。

 例えば、ディズニーランドやマクドナルドが異文化にどう対応したか。世界には米国2カ所、日本、パリ、香港にディズニーランドがあり、日本では大成功していますが、パリではオープン当初は不人気でした。アメリカ企業が勝手にやってきて何をやっているんだというアンチアメリカニズムから反感を買ったわけです。フランスが米国の農業政策を嫌っていた影響も大きかった。米国は自分たちの農産物は売るもののフランスの物は買わないため、「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」となったわけですね。さらに欧州には本物の城がたくさんあるのに、どうしてお金を払って眠れる森の美女の城を見に行かないといけないんだと。だから、オープンしてしばらくは赤字。そんな時にディズニーがとった打開策はソフトパワーです。「ノートルダムの鐘」といったフランスを意識した映画を作ったり、米国では禁じているアルコールを解禁したりして人気を得ていったわけです。後に再びフランスを舞台にした「レミーのおいしいレストラン」も作りましたよね。

 次はマクドナルドですね。インドに進出した際に直面したのが食文化の違いでした。牛は神聖で牛肉がタブーのヒンズー教徒が多いため、羊肉を代用したマトンバーガーを提供してインドの食文化に対応したわけです。

--授業でほかに取り上げたテーマはありますか。

 例えば、英国のインターブランド社という格付け会社がグローバル企業のブランドを数値化して上位100社のランキングを出していて、学生も興味があるだろうと取り上げています。2014年の1位はアップル、2位がグーグル、3位がコカ・コーラで、9位にマクドナルド、13位にディズニー。日本企業では8位のトヨタ自動車がトップですが、実はアジア1位ではないんです。サムスンが7位とトヨタよりも上で、トヨタはここ数年サムスンに負けています。ほかに日本企業だとホンダは堅調ですが、ソニーはどんどん落ちている。あとはキヤノン、日産、パナソニック、任天堂ぐらいしか入っていません。日本企業は水準的にはもっとグローバルブランドに入ってきていいはずなのに、こんなに少ないのはブランド作りが下手なのではないかとか、いろんな課題がみえてきます。

 ランキング入りした海外の企業も丹念に取り上げていて、例えば、ファストファッションのH&Mは21位、ZARAは36位で、99位のGAPよりなぜ上位にランキングしているのか。これは、GAPは大量生産で作り置きしているためトレンドから外れたものを売ることもあり、若者が「GAPはずれている」と離れていく一方、H&MやZARAはその時のはやりを追っていて売り切れたら作らないからです。また、任天堂が落ちてきたのはスマートフォンのゲームが伸びているからで、これからはスマホとどう連動していくかが課題だとか、ソニーがサムスンに水をあけられるのはなぜかといったことも説明します。

--国際経営論ではランキングの裏にある企業の課題も浮き彫りにするのですね。

 個別企業を分析していくのも国際経営論の手法、スタイルなんです。例えば、コカ・コーラは作った親、名付けの親、育ての親が違う。米国の薬剤師が頭痛薬を作ろうとして調合を間違えてたまたまできたシロップがコカ・コーラ。薬局の経理担当者がコカ・コーラと名付けてロゴも考えたんです。薬剤師は自分の仕事もあるし、売れば売るほど赤字だったので権利をレシピごと売ることにし、青年実業家が買い取って彼が初代社長として育ての親になりました。これをドラマに仕立てて説明しています。

 安く買ったレシピがコカ・コーラ社を1990年代にブランド1位を獲得する企業へと成長させたわけですが、その一方でコカ・コーラ社は何度も転売されて社長が代わるおもしろい企業でもあるんです。コカ・コーラにはペプシというライバルも登場したんですが、コカ・コーラのカラーが赤色なのに対し、ペプシが青色。世界では広く赤がチャンピオンの色で、青はチャレンジャーの色になっているからです。ボクシングの赤コーナー、青コーナーがおなじみですよね。それでペプシは常にチャレンジしていて毎年おもしろい味のペプシを出してコカ・コーラと戦っているわけです。それは競争戦略のコンセプトでもあり、ライバルとは違うことをいかにやるかということが理解できます。

--もう一つの専門であるデザインマネジメント論について、教えてください。

 最終的に消費(購入)を決定させるのは商品の色形、つまりはデザインです。経営に必要な最後の経営資源がデザインであり、それをどう戦略的に活用するかがデザインマネジメント論です。

--なぜ、デザインマネジメントに興味を持ったのですか。

 大学院時代にソニーで「ミスターウォークマン」と呼ばれた黒木靖夫さん、ホンダの四輪デザインに携わった岩倉信弥さんの2人が客員教授となり、2人に共通していたのは芸術学部系出身でそれぞれ取締役となったということでした。他にデザイナーでトップマネジメントに入ったのはシャープの坂下清さん。当時の大手企業ではその3人でしたが、デザイナーがトップマネジメント入りするメリットは、いいデザインにはすぐゴーサインが出せるということ。確かにソニーもホンダもシャープもいいデザインの商品を出していましたし、授業を聞いているうちにデザインの重要性を認識させられました。米アップルや英ダイソンの商品がデザインも機能もよくて売れているのをみると、デザインセンスにたけていることが経営の条件だと痛感させられます。

 デザインはグループワークでないとできないので、デザイナーにはチームワークが求められます。アップルが成功したのはデザインを理解していたスティーブ・ジョブズとジョナサン・アイブが、マネジャーとデザイナーとして組んだからです。だからこそ、iPadやiPhoneが出てきたわけです。最近ではサムスンがデザインを重視していて、点在していたデザイン部署をソウル本社に集めましたし、チョン・グクヒョンというデザイナーをマネジメント層に入れました。それがサムスンの勢いにもつながっているのだと思います。

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