今求められる「食の安全」とは
水産物で幅広い対応ができる人材を実践教育

海洋学部 水産学科 食品科学専攻
山本茂貴教授

 日本のどこかで、毎週のように起きている食中毒。食品が大量生産・大量消費され、生産物の流通が広域化し、国境を越える現代社会で、食品の衛生管理、食の安全確保は、なくてはならない社会インフラ技術になっている。水産物を中心に、微生物の食品衛生管理を専門として、国の各種の指針づくりにも関わってきた東海大学海洋学部水産学科食品科学専攻の山本茂貴教授に話を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 松沢敬介】

--これから夏に向け食中毒が増える季節になります。食中毒とはどのようなものなのでしょう。

 原因物質は、細菌、ウイルス、寄生虫、カビなどいろいろです。カビはカビ自体でなく、カビが出す毒が原因物質になります。さらにキノコやフグなど魚介類の自然毒。魚が持っている脂分も、食べ過ぎると下痢の症状を起こすものがあり、販売禁止措置が取られている深海魚もあります。アレルギーを起こす化学物質が、意図せずに混入してしまった場合も食中毒となります。つまり、食べたり、飲んだりして病気になる、これが食中毒です。

--ひとたび食中毒が起きると、行政機関の立ち入り検査があり、営業停止処分がくだされるなど大きな影響が出ます。

 食中毒の場合、診断した医師は24時間以内に保健所に届け出ることが法律で定められています。食中毒にかかった人が直接、保健所に届け出るケースもありますが、端緒は、基本的に医師となります。保健所への報告がないと調査が始まらず、食中毒の統計に入ってきません。

 50人以上になると大規模食中毒になります。食中毒は、地方自治体単位で扱われるのですが、県をまたいだり、全国にわたるケースでは、厚生労働省による調査が行われます。統計は、厚労省の医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報管理室という部署でまとめられ、厚労省のホームページで閲覧ができます。

 食中毒の統計は1〜12月の年単位でまとめられていますが、実際に統計に反映されるのは、実際におきた食中毒の10分の1だったり、100分の1ほどだったりするのではないかと推定されています。

 一方で、感染症法に基づくによる統計があり、国立感染症研究所への届け出を基に、厚労省健康局結核感染症課が、O157などで知られる腸管出血性大腸菌などの病原菌に基づく食中毒の統計をまとめています。腸管出血性大腸菌は、ヒトからヒトへの感染に加え、食品を介しての感染も起きます。

--現状ではどのくらいの被害があるのでしょうか。

 昨年、食中毒は900件、患者数は2万人ほどです。ノロウイルスが猛威をふるう年には患者数が3万人を超えます。戦後、統計上の人数の変動はあまりないのですが、原因については変動があります。過去に多かったのは、卵で発生することが多いサルモネラ属菌や、魚介類を原因とする腸炎ビブリオ。気温が30度を超える夏、卵にサルモネラ菌が入っていた場合、室温に置いておくと爆発的に増えるため2日で食用できなくなります。腸炎ビブリオは、夏場の食中毒の典型で、刺身など生魚を食べることで起こります。腸炎ビブリオの中で病原性を持っている菌は、日本では通常1万個に1個の割合だといわれており、10度以下の低温流通で対処することで食中毒はある程度防ぐことが可能です。近年、冷蔵保存などの対策を取ったことで、サルモネラ菌や腸炎ビブリオ菌による食中毒の患者は減っています。

 依然として多いのは、黄色ブドウ球菌とノロウイルス、それにカンピロバクターによる食中毒です。カンピロバクターを保菌している動物は、ウシ、ブタ、ニワトリと多岐にわたり、日本のニワトリは6割以上が保菌しているといわれています。トリ自体には病気を起こさないので、生産者側はあまり気にしないのですが、ヒトには影響するので、これをどのように制御していくかが課題になっています。

 またトリやウシは、生食をするケースがあり、これが食中毒の発生源として問題になっています。ウシは、レバーの生食用販売を禁止した結果カンピロバクター菌による食中毒の発生が減少しました。

--食中毒が身近で起きた場合の留意点は?

 下痢の症状がひどいなどの場合の対処療法としては水分補給がありますが、まずは医療機関に行くことが重要です。食中毒にかかった場合は、立っていられないぐらいの症状を伴います。治った後も保菌が続くことがあり、こうした人が触った食品を食べて食中毒になるケースもあるので注意が必要です。

 これから夏に向けて、手洗いなど食に関係する場所を整理整頓し、清潔な環境を心がけることが、食中毒を防ぐ上でのスタートになります。例えば、生魚と野菜を同じまな板の上で調理しない、加熱調理したものを日持ちさせない、保存する場合は冷蔵・冷凍するなど気にかける必要があります。

 腸管出血性大腸菌の場合は5歳以下の子どもや65歳以上の高齢者で症状が激しくなって命に関わるケースが増えます。

 牛生レバーの生食用販売を禁止した2012年の法改正の際には「食の選択の自由を侵す」などの議論がありました。しかし、成人が食べて発症することはなくても保菌するケースがあります。居酒屋で生レバーを食べた父親が、帰った後に子どもと接して菌に感染、腸管出血性大腸菌で子どもが亡くなるという事例が想定されますので、肉類の生食には注意が必要です。いわんや生レバーを子どもに食べさせるなどしては絶対にいけません。

 通常、牛肉に腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌などが食品にいないかどうかを調べるために指標となる腸内細菌科菌群を検出する検査法で調べています。60度で2分の加熱を行うことで、表面から1センチまで殺菌を行えたという研究があり、これが最新の基準になっています。

--食中毒防止や食の安全管理を、専門の微生物研究を通して学生にどのように伝えていますか。

 基本は「食品を安全に保つ」ことにあります。微生物をどう制御するか。微生物を(食品に)つけない、増やさない、やっつける、の3点をどのように実現するか、授業を通して指導しています。一つは検査法に関することで、簡便なやり方ができないかを常に模索しており、例えば食品に様々な波長の光をあて、菌によって異なる発色を調べて、菌の有無を探る検査法を研究しています。昨年はマグロを使って実験を行ってきましたが、今年は白身魚などに対象を広げて、検査法を確立していく予定です。

 もう一つは、食品製造を行う際の管理をどのようにして行うか、という問題です。本学には、静岡市から営業許可を取った食品製造実習室があります。作ったものを実際に販売することが可能な実習室で研究することで、食品会社に勤めて衛生管理を任された場合、即、実務に直結させることが可能です。この内容に対する学生の興味は、たいへん高いものがあります。

--学生にはどのような期待をお持ちですか。

 微生物を中心にした食品の安全性に関する知識を学生に持ってもらいたいと考えています。2013年度に着任したため、指導した学生数はまだ少ないのですが、食品製造系の企業などで力を発揮し、活躍してほしいと思います。

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