「里川」から実践する環境教育
幅広い視野を持ち考える

教養学部人間環境学科自然環境課程
藤野裕弘教授

 6月に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、温室効果ガスを「世界全体で2050年までに10年比で40〜70%の幅の上方で削減する」ことで一致し、首脳宣言に盛り込んだ。環境問題は、人類の生存をかけた大きな課題と言える。しかもそれは、私たち一人一人の日々の暮らしのあり方が、密接に影響している。身近な生活用水の水質調査から民間の「里川づくり」まで、幅広い活動を通じて環境教育を実践している東海大学教養学部人間環境学科自然環境課程の藤野裕弘教授に話を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 相良美成】

--「里川づくり」を提唱されていますが、「里川」とは聞き慣れない言葉ですね。

 「里海」という言葉もありますが、基本概念は「里山」と同じです。人間の生活圏の中にある山や川、海の内里山だけ守ればいいというわけではありません。その山には川があって、山は川によって海とつながっているわけですから、「里山」の概念をもっと広くして、山・川・海の全体を「里」として守っていこうという考え方です。

--では「里川づくり」は、単に「川をきれいにしよう」ということではないんですね。

 流域の場所ごとにテーマは変わります。上流で比較的自然が残っているところは、その環境を壊さないことが目的になるでしょうし、住宅街であれば、住宅の中に流れる川を生活の中でいかに気持ちよく利用できるようにするかということになります。例えば、私が会長を務める「湘南里川づくりみんなの会」の参加団体でも、ごみ拾いを積極的に行うところや、ホタルを取り戻そうとがんばっている団体など、いろいろです。里川のありようは、一つの形ではないと思います。

--「湘南里川づくりみんなの会」というのは、市民団体の組織ですか。

 神奈川県の湘南地域県政総合センターと、平塚・秦野・伊勢原の3市、その近辺の流域で活動している市民団体、我々が立ち上げたNPO(非営利組織)法人東海大学地域環境ネットワーク及び東海大学が集まり、市民・行政・学術が連携して里川づくりを進めようという組織です。

--先生は、もともと環境問題を専門に研究されていたのですか。

 いえ。東海大学海洋学部水産学科の増殖課程(当時)にいましたから、魚類へのワクチンの投与方法とか、今とは全く違う研究をしていました。

--では、環境問題に関心を持たれたきっかけは。

 1989年10月に東海大学教養学部にきてからです。90年代後半から、どのような人材が将来の日本に必要になるかを考え、どのようにカリキュラムを再編するか議論していく中で、「環境に焦点を当てなくてはいけない」という方向になりました。当初はまだ、環境に配慮して資源をどう利用するかとか、エネルギーをどうやって使うかという科学技術的な発想が中心でした。しかし、議論していく中で「環境問題を広い視野で考え、解決に向けて行動できる人材の育成」をカリキュラム構築の柱にすべきであるという話になっていったわけです。

--経済成長優先の考え方から転換されたわけですね。

 資源とエネルギーを利用して、人の欲望充足型の生活を維持しようとしているのが日本の状況です。その認識から「これだけ問題が起きていることから、自然環境と人間活動の調和、つまり環境保全が重要である」というところが次の議論となりました。そして、人間による資源・エネルギーの利用を中心とするのではなく「環境を壊さないことを前提にした人間の経済活動、そのための人間のありようを考えないといけない」という方向に、だんだん軸足が移ったわけです。

--今の日本に住んでいる人であれば、誰もが「環境が大事」という意識は持っていると思うのですが。

 それはどうでしょう。森林・身近な川・美しかった海岸線の現状は、野生生物の現状は、食料の廃棄量は、水の無駄遣いは、食文化を大事にする心は、家族に対する価値観は、子供を育てる環境は、若者の実体験不足は、若者の政治離れは、コマーシャリズムの倫理観は、いろいろ考えると・・・?

--理念として「環境が大事」と言っていても、行動が伴っていないということでしょうか。

 そう思います。結局は個人の意識が大事ですね。仮に町や市が分別収集するシステムを作っても、一般家庭が全く分別しないでごみを大量に出してきたらお手上げになりますから、倫理観とか教育とか、人の心の問題がやはり一番重要ではなかろうかと。カリキュラム再編の議論でも、そういう話になりました。

--単に科学技術を教えているだけでは駄目だということですか。

 ええ。コストのかかる環境保全に効果的な技術があっても、経済が困窮すると「環境保全」なんて言ってられず「経済優先」となるでしょう。そう考えると、環境保全に関しては、経済とか政策のほうが技術よりも影響力が大きいのではないかと。だんだんそういう話になり、最も影響力が大きく基本となるのが、人の考え方であるというところに落ち着きました。それで、私たちの自然環境課程はもともと理系ですが、環境倫理や環境教育、環境に関わる経済や環境法・政策論など、環境にかかわる幅広い科目を開講するに至りました。結果として、理系・文系コースのどちらからでも進学できる内容となりました。また、環境問題は現場に接し、多くの社会人と交流を持つことが視野を広げ、行動力を養うことにつながります。結果として、多様な実践系科目の充実につながりました。今では理系、文系関係なく環境問題をいろんな視点から捉え・考えて・解決に向けて行動できる人材を育てようとするカリキュラム体系になっています。

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