自ら考え、判断が求められるラグビーの魅力と今後を考える

スポーツ教育センター
ラグビーフットボール部テクニカルアドバイザー
土井 崇司

 ワールドカップ(W杯)で日本代表が南アフリカに歴史的勝利をあげて注目が集まるラグビー。東海大学ラグビーフットボール部は、関東大学ラグビーリーグ戦(1部)において2015年シーズンに優勝するなど、過去10年で6度の優勝を果たし、大学選手権の常連校となっている。ラグビーの魅力や人材の育成などについて、長年高校ラグビーの指導にあたり、現在は東海大学スポーツ教育センター勤務で、同部のテクニカルアドバイザーを務める土井崇司氏に聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 松沢敬介】

--これまで、高校ラグビーの現場で東海大学付属仰星高等学校を全国屈指の強豪校に育てられた経歴と指導についてお伺いします。どのような指導をしてこられたのでしょうか。

 1984年に創立2年目の東海大学付属仰星高校に赴任し、監督としてラグビー部の指導をしてきました。92年度に全国高校ラグビー大会に初出場を果たし、99年度の79回大会、2006年度の86回大会で優勝。2回目の日本一になった後は、現在の監督の湯浅大智さんに指導の大部分を任せ、13年度に3回目の全国大会優勝をすることができました。またこの間に、ラグビーの魅力を発信しようと、大阪や京都の小中学生を対象にスクーリングやミニ大会・合同練習会を開催しました。また、ラグビーのスタンダードの共有と発信を目的に、全国各地の高校と合同練習をしてきました。

 技術的には、オーストラリアのラグビー戦術である「シークエンス」(ボールを運ぶ位置を事前にある程度決めて、そこにボールを運ぶ戦術)を応用し、仰星独自の新たな考え方のラグビーを構築して、それを根底に指導してきました。それは、プレー時の判断を行う中で決められた場所にボールを動かして、プレーヤーの数的優位を保つ、スペースを生み出す、というものです。これ以外にも新しい戦術・戦法を幾つか作り出しています。

 14年度からは東海大学に移り、主にスポーツを通じて大学と付属高校を結ぶ学園業務に携わりながら、大学ラグビーで戦術的な指導、練習の方法・内容、マネジメントについてコーチ陣へのアドバイスなどをしています。

――ラグビーW杯イングランド大会で、日本代表が南アフリカに勝ったことで、ラグビー競技に注目が集まっています。土井さんが考えるラグビーの魅力とは。

 小学生や中学生の子供たちと接する機会も多いのですが、その保護者の方にラグビーについて聞くと、「ぶつかりあいが怖い」「子供が大けがをしたらどうしよう」という反応が返ってきます。格闘技のようなイメージがあって、さらにほかのスポーツよりもルールがややこしい、という戸惑いです。それに対して、私が強調したいのは、ラグビーはボールゲームで、バスケットボールやサッカーと同様、単純にボールゲームの楽しさを知ってほしいということです。 

 また、ラグビーを通してどのように子供が成長していくのか、ということを考えていただくことが大切だと伝えます。ゲームの楽しさを経て、皆で分かち合う精神や人を敬う心を養っていけるスポーツであるということが魅力だと思います。

 ラグビーの監督は、「試合の時、ただスタンドから見ているだけ」という風潮がありますが、指導者は試合の流れを演劇の台本のように、前日のミーティングまでに作ります。ラグビーは、攻撃側と守備側が明確に分かれる競技の性格上、ある程度の戦術、戦略が準備できる競技なのです。そのため、普段の練習の中で、試合に勝つためのノウハウ、準備を徹底して行います。試合中は、グラウンドにいる選手、とくにキャプテンに全権をゆだねます。

 プレー(相手チームに反則があった後など)の選択を任せ、スクラムやペナルティーゴールを狙うキックなど、どう実行していくかの状況判断を戦っている選手自身に任せるのです。

 練習の中でも、コミュニケーションを取るとか、積極的に発言する、リーダーシップを取る、自主自立など、人としての成長に欠かせない要素が必要となります。「試合の最中に、監督がスタンドで見ている競技ってどうなの」と保護者の方は思われるのですが、実は、それまでの準備が緻密に行われている競技であり、想定外のことが起きても選手自身が各々で判断し行動します。様々な出来事に臨機応変に対応するその競技の性格上、「ラグビー精神」を学ぶとともに、「人としての成長」がうながされるスポーツであると考えています。

――ラグビーの人気が定着するにはどのようなことが必要でしょうか。

 私が学生だった時代には、「われら青春!」というラグビーを題材にしたテレビドラマがありました。山下真司さんの「スクール☆ウォーズ」よりも前ですね。今は、CS放送で試合中継は行われているものの、ラグビーという競技は日常生活の中で目に入りにくくなっています。かつてドラマで見ることができた、ラグビーの持つ楽しさや精神などが地上波テレビで取り上げられるようになると、ラグビーの人気もさらに盛り上がってくるのではないかと思っています。

 また、ヒーローの登場も大切ですね。私が若いころは、新日鉄釜石の松尾雄治選手。その次は、神戸製鋼の平尾誠二選手。平尾選手の後には、日本のレジェンドとして今回のW杯開会式に登場した大畑大介選手。そして、今回のW杯では五郎丸歩選手がヒーローになりました。スーパースターが現れることで、それを見た子供たちがあこがれ、ラグビーに関心を持ってもらえるのだと思います。

――ジュニア世代や、女性へのラグビーの普及は進んでいますか。

 指導するコーチの質が問われるようになります。ラグビーが盛んなオーストラリアやニュージーランドを見ると、それぞれの性別、年代、カテゴリーによってコーチ陣が的確な練習メニューを用意しています。日本では特に若年層などでは、ラグビー経験のないお父さんが教えているケースもあります。女子では、競技者は増えていますが、コーチの指導法が整っていないという課題もあります。中学1年生ぐらいまでは、男女一緒に競技ができるのですが、体の成長に伴って差が出てくるので、数の少ない女子選手が活躍できるような場を作って、練習方法を整備していかなければいけません。

 小学生のラグビー人口は増えていますが、高校では、20年前に1500〜1600校あったラグビー部が800校台に半減してしまいました。全国大会で勝ち上がるような高校と、都道府県大会の2〜3回戦で負ける高校が対戦すると、100点差がつく試合になってしまいます。負けるとわかっている試合ではモチベーションが保てません。成功経験を積めるような環境を整えないと、高校におけるラグビー人口減少に歯止めをかけられないと感じています。高校ではチーム力に応じたリーグ戦を開催して、そこで楽しめるような工夫があってもおかしくないと思っています。

――今回のW杯戦績について伺います。W杯通算1勝だった日本代表が今大会で3勝できたのはなぜでしょうか。

 3勝できた理由は、最初の南アフリカ戦に勝つことができたからでしょう。あそこで勝てなかったらどうなっていたかわかりません。これまでのW杯の対戦相手は、日本選手にとって雲の上にいるような選手ばかりでしたが、今回の南アフリカ代表の選手には、日本のトップリーグで活躍している選手が何人も出場していました。日常的な対戦相手であり、チームメートであるわけです。そうすると、日本選手に「怖さ」が消えます。それに加え、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が初戦にかけて準備をしてきた。全てがうまくいっての勝利だったと思います。

 技術的な面でいうと、南アフリカは、あの試合、ボールを持った選手が1人で突破を図っていました。通常はサポートの選手2、3人がプレー中の密集戦であるラック、モールに集まってボールを確保したり、攻守が逆転するターンオーバーを狙ったりするのですが、日本選手が2人、3人と集まるのに対して、南アフリカの選手は皆1人で突っ込んでいました。そうするとボールコントロールが正確にできない、ボールを密集から出すタイミングが遅れる、という結果となり、日本としてはゲインライン(起点となる密集の真ん中からゴールラインと平行にした仮想的な線)を整えることが可能になって守備が機能しました。南アフリカが何人もかけて縦に押し込む戦術をとっていれば、日本は苦戦したでしょう。あらゆる要素が重なって、あの勝利があったのだと思います。

 ベスト8に入ることを、日本代表は公言していました。そのためには3勝しないと目標に届かないわけです。初戦から同点で良い、という考え方をしていませんでした。選手たちはベスト8に入りたい、勝つしかないと、最後の終了間際で同点に追いつくことができるペナルティーゴールを選ばずにスクラムを選択しました。勝ちにこだわったのが、最後のプレーに表れていました。それが3勝をあげることができた理由だったように感じます。

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