自分の老後は自分で備える時代へ
〜導入から15年目の確定拠出年金のいま〜

政治経済学部経済学科
西田小百合准教授

 少子高齢化の進展で財政が深刻化し、2013年には厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられるなど、公的年金は支給条件が厳しくなるばかりだ。老後の生活を支える年金制度への不安が強まる中で、公的年金だけに頼らない老後の備えの重要性も増している。老後の生活費として期待されているのが、自己責任で運用する「確定拠出年金」だ。東海大学政治経済学部経済学科の西田小百合准教授に、リスクもあるが、税制優遇などメリットも大きい確定拠出年金をはじめとする、自らできる備えについて聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 仲村隆】

--ご専門についてお話しください。

 専門は計量経済学という分野です。経済学の中では主として実証分析を担当する科目です。経済学には非常に精緻な経済理論という分野がありますが、理論が指し示す方向に現実経済が動いているのかどうかを、経済指標や統計、アンケートなどのデータを当てはめて検証していくのが計量経済学です。

 例えば、消費税が引き上げられる場合の影響について、おおよその動きについては経済理論で示すことができます。消費税が5%から8%に引き上げられ、さらに10%になると、経済理論では、経済や一般の生活にこんな影響があることが予測できますと言えるのですが、計量経済学では実際のデータを使って、消費税がこれだけ上がったら物価にどの程度の影響が出たのか、消費にもこの程度の影響がありましたという検証をします。また、経済政策によって、私たちの生活にどれほど影響を及ぼしているかの度合いを測って、その結果を経済政策に反映させていくための提言も行います。

 現在は、確定拠出年金の加入者と導入企業の行動について研究しています。日本の確定拠出年金加入者はまだ少ないですが、企業型確定拠出年金の加入者行動や、導入企業の行動については考察が不十分であり、研究対象として非常に重要だと考えています。

--確定拠出年金とはどのようなものでしょうか。

 日本の年金制度は、よく3階建ての建物に例えられます。1階部分には、20歳以上60歳未満の日本に住むすべての人が加入の義務を負う基礎年金(国民年金)があります。2階部分には、サラリーマンなどが加盟する厚生年金(共済年金)が上乗せされて1階と2階の部分で公的年金を構成します。3階は企業や個人が用意する個人年金の部分です。企業が設立した確定給付企業年金や厚生年金基金といった企業年金がありますが、確定拠出年金はこの3階部分に入ります。

 大企業と中小企業では同じ確定拠出年金を導入していても事情が全く違うようです。大企業では、企業年金と合わせてより年金を充実したものにするために導入されているようですが、中小企業では、厚生年金基金の解散や適格年金の廃止などに代わるものとして導入するところがあります。

--確定拠出年金の特徴は。

 年金を受ける本人が投資先を選ぶ私的年金の一つです。もらえる年金の金額がはじめから決まっている確定給付型や厚生年金基金の年金に対して、企業や個人が拠出する額があらかじめ決まっていることから確定拠出と呼ばれます。運用方法は受給者が決め、運用成績によって受け取れる年金額が変わる特徴があります。運用は定期預金や投資信託などから受給者が選び運用します。ただ、あくまでも自己責任で行われるため、リスクが高い金融商品を選んだ場合は損をすることがありますし、逆に定期預金などの元本保証型を選んだ場合はローリスクでローリターンとなり、予定していた受給額を受け取ることができないことがあります。また、年金の掛け金に対する税制の優遇措置なども受けられることも特徴です。

--制度が導入されて15年ですが、厚生年金の加入者の4割にとどまっています。

 制度自体がまだよく知られていないという面が大きくあると思われます。日本は転職が多いわけでなく、終身雇用制度が定着してきました。企業は一生涯同じ企業に勤めてもらい、安心して働いてもらうため、多くの企業がもらえる年金金額が決まった企業年金制度を整備してきました。

 しかし、少子高齢化などの社会環境の変化で、公的年金が見直されています。企業側も従業員の老後の生活を保障する余裕が無くなりつつありますし、バブル経済の崩壊後に低金利が続き、高い配当を見込んで運用していた厚生年金基金が相次いで解散しています。

 確定拠出年金であれば、拠出する金額が決まっていて導入しやすいところもあるので、企業にとって負担が大きい厚生年金基金や確定給付年金などの企業年金に代わる新しい受け皿として確定拠出年金が普及していくのではと思います。

 また、労働市場のグローバル化で転職者が増えてゆけば、会社を替わってもそのまま継続できる確定拠出年金はメリットがあると言えます。

--老後の備えを投資で運用することにアレルギーが強いと思うのですが。

 米国などでは、高校で株や投資につい教える機会があり、投資することへの知識や理解が進んでいます。一方、日本では小学校のころから貯蓄は奨励されますが、投資についてはほとんど教育で取り上げられることはありませんでした。学校の現場ではお金と性の話は避けられる傾向があり、投資については中学・高校であまり教えられていません。最低限の基礎知識について学校の中で教えていく必要もあります。

 こうした背景があるため、投資=ギャンブルといったような不安を抱くのではないでしょうか。きちんとした知識がないために、怖がってしまう。株の売買の経験がないために、投資には手を出さないという人が多いように思えます。

--運用にも特定の偏りが見られるとか。

 日本では、定期預金など、配当は少ないけれども元金は保証するという元本確保型の運用に偏りすぎるという傾向が見られます。確定拠出年金であれば年金の掛け金に対する税制上の優遇があるので、定期預金に預けるより有利になるのですが、同時に元本割れのリスクもあるので、安全な運用を求めるのだと思います。しかし、元本確保型の運用だけでは、将来受け取る年金の金額があまりにも少なくなってしまう恐れがあります。

 運用先を決めるのは自由で、どうしても掛け金を運用で減らしたくない方がいるのも事実です。しかし、投資では、リスク管理のために資産を複数の金融商品に分散させて投資するポートフォリオという方法で運用するのが一般的です。自分が許容できるリスクを正しく認識し、それに併せて元本確保型の商品とリスクのある商品を組み合わせることで運用利益を求め同時に確実性を求めるというのが望ましいのではないでしょうか。

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