音楽療法の効果を「科学」する
癒やしから治療へ

教養学部芸術学科音楽学課程
近藤真由准教授

 音楽を用いることで心身の機能の維持、回復や不安の軽減などを図る「音楽療法」。医療や高齢者介護の現場に導入されている例は数多く、全国に2774人(2014年度データ)の日本音楽療法学会認定音楽療法士がいる。とはいえ、まだ科学的に「医療」として認められていないため、活躍の場は限られているのが実情だ。音楽療法士の資格を持ち、音楽療法の効果の実証研究に取り組む東海大学教養学部芸術学科音楽学課程の近藤真由准教授に、音楽療法の実際とその役割について聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 青木浩芳】

――音楽療法とは、どのようなものですか?

 音楽を聴いたり、音楽に合わせて歌ったり体を動かしたりすることで、手術の前や病の重い患者の緊張や不安を軽減したり、身体機能のリハビリ、コミュニケーションの活性化、認知症の予防などを図る“医療の代替療法”として注目されています。

――具体的に何をするのですか。

 人にはそれぞれ好みの曲やパーソナルソングがあるものです。音楽療法ではまず、「好きな曲」や「人生の節目に聴いた曲」など、思い入れの深い曲が何であったかを、クライエント(対象者)に聞くことから始めます。音楽全般が嫌いだと言われたら困るのですが、そこで諦めず、何か一曲くらいは好きな曲がないかを尋ねて、聞き出します。それと同時にその人が「今どういう状況にあるか」や「どんな人生を送ってきたか」を聞いて、音楽を使って何をするのか、きちんと目的を定めます。例えば、翌日にがんの手術を控えていて「不安で夜、寝られない」という人に対しては、不安を取り除いて眠れるようにすることが目的になります。

 次に考えるのは、どのような形で音楽を利用するか。実際に歌ったり合奏したり、音楽に参加する「能動的音楽療法」がいいか、音楽をじっと聴いてもらう「受動的音楽療法」がいいか、その人の状況に合わせて選択します。

 「能動的音楽療法」というのは、曲に合わせて歌ったり楽器を演奏したりするのですが、例えば、認知症予防のためには、歌いながら楽器を鳴らしたり、手や身体を動かすなど、たくさん慣れない動きをし、デュアルタスク(二つのことを同時に行う作業)で脳の広い範囲を使うことが有効です。ただし、難しすぎるとストレスを与えて逆効果になりますが、音楽なら、それらを楽しみながら行うことが可能です。

 一方で、ベッドから動けないクライエントには、じっと音楽を聴きながら昔を思い出して話をするだけでも効果があります。言葉より心に長く残っている音楽があったほうが、ポジティブな回想につながると言われています。

――音楽療法の効果を研究されているということですが。

 音楽療法は、薬物と比べてクライエントへの副作用が少ないという利点がありますが、効き目に個人差があって、「万人に効く曲」というものがあるわけではないので、科学的な証明をするのが非常に困難です。そのため「医療」と見なされていません。お医者さんの中には「音楽療法ってレクリエーションとどう違うの?」とおっしゃる先生もいます。私は大学院で医学研究科に進んだ時、いろいろな患者さまに自由に音楽療法をさせてもらえると思っていたのですが、「音楽療法の効果は証明されているのか」とか「エビデンス(証拠)がなければ実践させることはできない」と指摘され、医療の厳しい考え方を知る、良い経験をさせていただきました。

――科学的に証明する必要を感じたわけですね。

 主観的には効果を感じられましたし、患者さんから「明るい気持ちになった」「癒された」と言っていただくことはありました。ただ、もっと誰もが分かるエビデンスを示さなければ、医療として扱われない。医療の現場で行われても診療報酬の点数はつかないし、音楽療法士は国家資格でもない。効果が科学的に検証されれば、医療と認められることにつながります。大学で音楽療法を学んだ学生たちの働く場も、広がることが期待できます。

――どのような研究をされているのですか。

 現在は、音楽療法の効果を実証するのに最も適した検査指標を探しています。具体的には、音楽療法を受けた後、身体の免疫を司る抗体「免疫グロブリン」の濃度がどう変化するかや、ストレスホルモンが実際に減るのか、自律神経や脳の活性化状態がどう変わるのかなどを分析しています。

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