『古事記』を物語として楽しむ
そのエンターテインメント性は現代のアニメにも通じる

文学部日本文学科
志水義夫教授

 「日本最古の歴史書」として知られる『古事記』。東海大学文学部日本文学科の志水義夫教授は、これまでさまざまな角度から研究されてきた『古事記』について、「神話」「王権の書」といった従来の読み方に加え、そのエンターテインメント性に着目し、物語としての面白さを指摘している。「古典をエンタメとして読む」とはどういうことなのか、話はイザナギ、イザナミの神話から魔法少女にまで及んだ。【毎日新聞社デジタルメディア局 浜名晋一】

――日本の歴史書と言えば、『古事記』と『日本書紀』が知られていますが、両書の違いは何でしょうか。

 本来『日本書紀』がメインで、『古事記』はあくまで副読本という位置づけでした。『日本書紀』は中国人に見せても恥ずかしくないような漢文で書かれています。一方、『古事記』は漢字で書かれていても、日本語で語ろうという意志が強いのです。『古事記』は日本語の世界です。そこが最も大きな違いですね。

――先生が指摘される『古事記』の系譜的叙述と物語的叙述とは何ですか。

 系譜というのはまず、お父さんがいて、お母さんがいて、子供がいるわけです。そこから「お父さんとお母さんはどうして結婚したの?」「こんなラブロマンスがあったのよ」ということで物語が生まれます。『古事記』は基本的にどういう天皇がいて、お后(きさき)がどうで、跡継ぎがどうでということを記し、その間に「どうして結婚したかとか、跡を継ごうとした時にどういう抵抗勢力があったかとか」といった物語が入っています。

 ですから、『古事記』を見ていくと、系譜から物語が生まれる。逆に物語をどんどん短くしていくと、最後は系譜になるのではないでしょうか。

――そういう記述の仕方は『古事記』のオリジナルと言えるのでしょうか。

 全てがそうです。極端にいえば映画の『スター・ウォーズ』だってそうですね。あれはスカイウォーカー家の系譜ですから、『古事記』と同じ手法です。

――『古事記』をエンターテインメントとして楽しむという視点もあるということですね。

 話を骨格だけにしてしまうとつまらなくなるので、ウケを狙って演出を加えていく。皇位継承に対して、抵抗勢力の一族による闘いの勝敗だけでなく、敵役やヒロインの性格なども楽しもうということです。

――『古事記』の中でお気に入りのストーリーは。

 アマテラスが変身する場面です。スサノヲがまず、姉のアマテラスのいる高天原に昇って行く。しかし、警戒したアマテラスは男の格好で迎えます。その変身の描写がやけに細かいのです。

 結ばれていた髪がフッととけて、ワッと広がって、もう1回結ばれて、そこに飾りが付いて、手に武器が装着されて、そして、足をシャキッと伸ばして、ポーズを決める。これは魔法少女物のアニメの変身シーンと同じでしょう。そういう楽しみ方があるのです。

――『古事記』とアニメの類似性ということですね。

 『古事記』は神話だと言われますね。神話とは物事の起源を語る物語です。『古事記』の場合、地上の王者の起源を語る神話ともいえますが、王者は過去の自分を切り捨てて、新しく生まれ変わって王者になるという物語を持ちます。つまり、「死と復活」という話のパターンです。それが、たとえば、弱虫だった人間が試練を受け、一人前になっていくというような演出で語られる。そこに面白さがある。面白さというのは、誰もが面白いと思うから今だに伝わってきているし、だからこそ、それは古典と言えます。

――今のアニメのストーリーも、元をたどれば『古事記』じゃないかと。

 そうですね。できあがった物語は何らかのパターンに収まってしまう。収まらないとつまらないという気がします。あまり奇想天外なものが出てきても、受け入れられないと思います。受け入れる側にある程度の常識があって、それと違うものが出てきた時に、全く違うと理解できない。でも、知っているものと何かがつながっていながらも、少しでも違うと、斬新さを感じるわけです。その中で、一回きりのものは消えるし、何度味わっても、面白いものは続いていく。その中で残ってきているものが古典だと思います。

 そういう意味では、新しい古典も既に生まれていると思いますよ。ウルトラマンは完全に古典化していると思いますし、ガンダムもそうですね。ウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムなどは、シリーズのどの作品を見たかで世代が分かる。系譜と同じです。

――アニメへの関心は子供の頃からのものですか。

 マンガを読んで育っていますし、元々、マンガ家を目指していましたからね。我々の世代は、たぶんマンガやアニメで自己表現できる最初の世代なのではないかと思います。去年はマンガで『古事記』を紹介する仕事をしましたよ。絵はプロの方に描いていただきましたが、シナリオ(ネーム)は自分で原案を作りました。

――先生は「自己形成に影響を与えたさまざまな作品も『古典』と呼べる」とおっしゃっていますが、最も影響を受けたマンガやアニメの作品は何でしょう。

 難しい質問ですね。小学生の時に見たNHKの人形劇「新八犬伝」とか、横山光輝の「水滸伝」は好きでしたね。他にも、竹宮惠子や萩尾望都の少女マンガも読みましたよ。今だと「まど☆マギ」(『魔法少女まどか☆マギカ』)かな。これは自己形成ではなくて、研究に、だけど。でも、自己形成に一番影響を受けたのはむしろ小説で、辻邦生の『背教者ユリアヌス』です。主人公の生き方が今の自分の生き方の基礎になってます。

――ウルトラマンやガンダムを「現代の古典」とおっしゃいましたが、古典の定義とは何ですか。

 古典とは、漢字の成り立ちを見ると、「古」は「十」+「口」で、たくさんの口を通じて伝わるという意味です。また「典」という漢字は、元々「冊」という字がテーブルの上に並んでいることを意味します。「大切にされて、多くの人々が伝えたもの」という意味なのです。だから、多くの人が後の人や遠くの人に伝えたいと大切にする作品が「古典」なんだと云えるんです。

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