謎多きイルカの世界 北の大地から迫る

生物学部海洋生物科学科
北 夕紀講師

 いまだ謎多きイルカの世界。その群れをなす生態の秘密はどこにあるのか。遺伝子解析の手法を用いて海の生物の実態に迫るのが、東海大学生物学部海洋生物科学科の北夕紀講師だ。豊かな自然に抱かれた北の大地の札幌キャンパスで、研究のきっかけや現状について聞いた。【毎日新聞デジタルメディア局 浜名晋一】

 ――先生が所属されている生物学部海洋生物科学科とは、どのような学科ですか。

 一言で申し上げますと、海のことについて総合的に学ぶ場所です。植物プランクトンや魚類、イカやタコ、貝類など生物を専門にしている教員だけではなく、海の水質や流れを専門にしている教員もいて、それら全てを統合すると、海の大きな生態系が分かるという学科です。学生には幅広くいろいろな分野を学んで、大きな生態系の中で物事を考えられるよう、授業に取り組んでほしいと指導しています。生物を研究していても、食物連鎖の「食う・食われる」というつながりがありますので、プランクトンが好きだから、それだけ研究するということではなく、それを食べる魚やイカ、タコ、イルカ、クジラのことも学ばなければいけません。また、海の環境を分かるためには、海流、温暖化に伴う水温上昇、海の水質も理解しないといけません。幅広い分野を学んで、さまざまなことに生かしてほしいと思っています。

 ――海のことを総体的に学ぶ学科は全国的にも珍しいのではないですか。

 珍しいですね。海というと同じ東海大学の海洋学部が有名ですが、水産学科とか海洋地球科学科など、それぞれ水産専門の学科や、海洋物理専門の学科に分かれて専門を突き詰めていく形になっています。それに対して生物学部の海洋生物科学科は、大きな生態系の中で物事を理解していくことができます。それぞれの良さがありますが、海洋生物科学科には全国から広く生態系を学びたいという学生が来ていますね。1学年平均して70人強の学生がいて、そのうちの7割が北海道外の学生です。大学院へ進学して研究を続ける学生はそれほど多くなく、卒業後の就職先は海洋環境の調査を行う海洋コンサルタントとか、水族館関係などがあります。

 ――北先生の研究室は2013年に発足しましたが、手応えはいかがですか。

 私はイルカ、クジラの遺伝子を専門にしているので、遺伝子を使ってイルカ、クジラの生態を解明しようとするのが研究室の主な目的です。学生はイルカ、クジラは好きだけども、遺伝子についてはあまり興味がないという学生もいますし、遺伝子に興味はあるけども、イルカ、クジラではなくて、魚類の研究をやりたいという学生もいますので、学生のニーズに合わせて研究指導を行っています。

 私自身の研究については、東京の伊豆諸島にある御蔵島(みくらじま)で、イルカのウンチの採集をしている方々がいるので、そのウンチから遺伝子を取って、血縁関係の有無などを調べています。御蔵島のイルカは全頭、個体識別されているので、いつも一緒に泳いでいるイルカが兄弟なのか、あるいは友達的な関係なのかということを、遺伝子を使って調べるというもので、血縁があれば兄弟姉妹だったり、親子だったりする可能性もあるし、無ければ単純に仲のいい友達同士だということが分かります。

 ――仲のいいイルカの個体同士は血縁であるパターンが多いのですか。

 そうとも言い切れません。単純に仲がいいということもあります。今はだいぶ血縁関係も分かってきたので、血縁のあった個体同士が一緒に泳いでいる可能性が高いのか、調査を進めています。ただ、イルカに常に会えるかどうか分かりませんし、会えたからといって、そのイルカが必ずしもウンチをしてくれるものでもありません。3年間かけてようやく個体識別したイルカのうち、7~8割のウンチが集まりました。お母さんは授乳があるのでドルフィンスイムによる目視調査やビデオ観察で親子関係が分かりますが、お父さんは子育てには参加しませんので、関係性は分かりません。ウンチを調べることで、お父さん探しを調査の一環として行っています。

 イルカ、クジラと言いましたが、イルカとクジラとの違いは基本的には大きさだけで、4メートル以上の大きさなのがクジラです。つまり、イルカもクジラも仲間なんです。ウンチからは血縁関係だけではなく、食べたものも分かります。そこから餌となる生物を特定したいと思っています。今年の卒業研究に取り組む学生がイルカの食性解析を遺伝子から行おうとしていますので、それを経年的に見ることにより、それぞれの時期に何を食べているのか、その食性を調べたいと考えています。御蔵島のイルカの場合、1頭1頭個体識別されていますので、このイルカはこれを食べていたけれど、別のイルカは違うということがあるかもしれません。ウンチから個体ごとの食性を調べることが可能なのです。

 イルカ、クジラだけではなく、鰭脚類(ききゃくるい)のアシカやアザラシに興味がある学生もいます。アシカやアザラシは北海道で多く見られる動物で、アシカ、アザラシの食性解析もしています。アシカ、アザラシは漁業被害との関係もあるので、北海道の漁師さんにとっては“敵”の存在です。だからといって駆除することが本当に正解なのでしょうか。駆除をせずに彼らの食性を理解することで、漁業活動とどれだけ競合関係にあるのか調べるということも念頭に置いています。

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