薬による再生医療の実現目指し
「QOLの向上に資する大学」へ貢献する

医学部再生医療科学
八幡 崇 准教授
医学部血液・腫瘍内科
安藤 潔 教授

 「再生医療」と聞くと、多くの人はiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った医療を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、再生医療とは、ヒトの体で日々起きている再生現象を利用した医療であり、さまざまなアプローチが考えられる。医学部の安藤潔教授と八幡崇准教授は、薬を飲むだけで組織や臓器の再生を促進する画期的な方法の開発に取り組んでいる。研究内容や将来の目標について聞いた。【聞き手・藤野基文】

◇「元に戻す能力」を最大限に生かす医療

 ――研究の概要を教えてください。

 安藤教授 再生医療が中心的なテーマです。「再生」と聞いて、中学・高校の理科で習ったイモリの足やプラナリアの体の再生現象を思い出す人もいるのではないでしょうか。実は我々ヒトを含めた哺乳類にも、「元に戻す」という再生現象が起こっています。例えば、手や足をすりむいてもちゃんと傷が治りますが、これも再生現象の一つです。つまり、再生現象を突き詰めていくと、病気からどうやって回復していくかということに結びつくのです。

 私たちの専門は血液ですが、血液細胞も日々再生を繰り返しています。毎日、新たに何百億個も作られ、何百億個も死んでいるのです。そして、がんの治療で抗がん剤を投与したことによって白血球が減ったり、貧血だったりして血液が減少したときには、再生して元の状態に戻す能力が備わっているわけです。

 八幡准教授 その能力を最大限に生かしていこうというのが、私たちが研究している再生医療です。

 ――血液の病気に関して、東海大学病院は造血幹細胞移植推進拠点病院に指定されるなどとても有名ですね。

 安藤教授 健康な人から提供された骨髄を移植する「同種骨髄移植」は、東海大学病院でこれまでに累積1000例以上実施しています。これは、日本でトップ3に入る実績です。

 東海大学の医学部は1974年4月に設立されました。そして設立すぐに、当時あまり一般的でなかった「無菌病室」を備えた新しい病院を作りました。これは、血液の病気などで免疫機能の低下した人が感染症を起こさないように、部屋の空気をきれいに保った病室です。そういった経緯から、骨髄移植を含む造血幹細胞移植は東海大学病院の目玉の治療の一つになっています。そして、その骨髄移植は、まさに再生医療なのです。

◇iPS細胞とは異なるアプローチ

 ――再生医療というと、2012年に山中伸弥・京都大学教授がノーベル医学生理学賞を受賞したiPS細胞(人工多能性幹細胞)や、多能性幹細胞として長く研究されているES細胞(胚性幹細胞)のイメージがあります。それらとはかなり違ったアプローチですね。

 安藤教授 再生医療の根本は、「幹細胞」を基にした再生現象を利用したものといえます。血液細胞には、赤血球、白血球、血小板がありますが、これらは全て血液を作る幹細胞の「造血幹細胞」からできたものです。その幹細胞がどのようにして増えていくのか、成熟した細胞になっていくのかということには、幹細胞とその周りを囲む環境が大きく関わるのです。つまり「種」と「畑」のような関係があるわけです。

 iPS細胞やES細胞を用いた医療というのは、外から幹細胞を入れる方法です。一方で我々が目指しているのは、畑に肥料をたくさんやることによって再生を促すなど、元々体の中にある環境と種の関係を薬でコントロールしようという方法なのです。

 ――iPS細胞やES細胞を使った再生医療と比べて、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 安藤教授 iPS細胞やES細胞は、血液や肝臓や神経などいろいろなものになれる能力を持っています。一方で、その能力を厳密にコントロールするのは難しく、極端な場合にはがんになってしまうというようなリスクもあるわけです。それが今、iPS細胞やES細胞を使った再生医療がぶつかっている壁です。

 先ほどお話しした畑のことを専門用語で「ニッチ」と呼ぶのですが、我々は人の体に元々備わっている幹細胞の能力を、ニッチの環境を調整することで引き出すことを目指しているのです。ですから、iPS細胞やES細胞のように、人が手を加えて目的の細胞や組織に分化させ、さらにそれを目的の場所に入れるという方法に比べ、自然に近い形の治療といえるかもしれません。

◇治験が進む慢性骨髄性白血病の薬

 ――現在進めている研究の中で、患者に最も早く届きそうなものは何でしょうか。

 安藤教授 白血球の数が異常に増えてしまう血液のがん「慢性骨髄性白血病」の薬です。再生医療と白血病の治療がどのように結びつくのかと疑問に思われる方もおられるかもしれません。実は再生もがんも幹細胞が関わるという点で共通点があるのです。そのような理由で私は医学部で「再生医学センター」と「がん幹細胞研究センター」のセンター長を兼任して効率よく研究を進めています。

 さて、慢性骨髄性白血病は今では薬で治すことができます。でも、治った患者さんがその薬を飲み続けなくていいかというと、薬をやめた患者さんの約半数が再発してしまうのです。その原因は、白血病の基になる白血病幹細胞が体の中に残っているためだということが分かってきています。

 つまり、白血病幹細胞がニッチである骨髄に守られているために、薬から逃れて生き残ってしまっているわけです。私たちが開発したのは再生現象を促進する薬なので、それを患者さんに投与すると、白血病幹細胞がニッチから離れて分裂を始めます。ですから、従来の薬と私たちが開発した薬を同時に投与することで、従来の薬が白血病幹細胞を攻撃することができるようになるのです。

 ――現在、どのような段階にあるのですか。

 安藤教授 薬が厚生労働省から承認を受けるためには、臨床試験を行わなくてはなりません。臨床試験は、健康な人に投与して安全性を確かめる第1相、少人数の患者さんに投与して効果があるかどうかを調べる第2相、多数の患者さんに投与して効果や安全性などを確かめる第3相があります。第1相が終わり、今は第2相を始めたところです。

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