サイバー空間の国際秩序構築を目指す
多国間でサイバーセキュリティー論じるシンポジウム

広報メディア学科 平和戦略国際研究所所長
末延吉正 教授

 国境がないインターネット空間を介し、国内でも仮想通貨の流出や身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」の被害などが相次いでいる。サイバー攻撃への対策が日本でも求められる中で、東海大学の平和戦略国際研究所は昨年末、サイバーセキュリティーについて多国間での情報共有を目指してシンポジウムを開催した。2018年は日、米、英、露、イスラエルの5カ国に拡大し、各国の第一人者を招く予定だ。同研究所の所長で政治ジャーナリストの末延吉正・東海大学広報メディア学科教授に取り組みを聞いた。【聞き手・岡礼子】

 ――平和戦略国際研究所とは、どのような機関ですか

 平和戦略国際研究所(平和研)は1985年、松前重義博士が中心となって、国際平和を確立するための研究機関として創立しました。米ハーバード大、英ケンブリッジ大などと提携し、早くから「ヒューマン・セキュリティー」の考え方を打ち出して、好評を博しました。元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんもメンバーです。当初、「ヒューマン・セキュリティー」という言葉は、国際社会で認知されていませんでした。

 「ヒューマン・セキュリティー」が世界で認知されたのは、1991年の湾岸戦争の頃です。イラクで国内避難民がでて、国を追われた難民でなくても、守られるべきか議論になりました。当時、難民というのは「国を失った人」だったので、国内にいる人を保護するのは、当事国の主権を侵すことになると、もめたのです。国連難民高等弁務官だった緒方さんが「困っている人がいるのに、国連が保護せずに、何のための国連なのか」と、国内避難民の保護を決断しました。

 この時の緒方さんの発想がまさに「ヒューマン・セキュリティー」です。安全保障は、国家単位の防衛だけでなく、人間1人1人を戦争から救い、貧困から守るべきだという考え方です。PKO(国連平和維持活動)に積極的なカナダ、緒方さんを中心とした日本で研究が始まりました。カナダは紛争を第三者の立場で防止したり、介入したりするPKF(平和維持部隊)の研究。日本は、公衆衛生やエイズ、食の問題など、人間を安全な状態にすることを広く「ヒューマン・セキュリティー」ととらえて研究を進めました。

 研究は90年代に始まって、日本が貢献したのは小渕政権の時です。98年、国連に「人間の安全保障基金」を創設しました。それを民間で進めようとしてきたのが本学の平和研です。例えば、ロシアで健康寿命を延ばす研究等が、2017年度に文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」に採択されるなど、継続して取り組んでいます。

 ◇ロシアと交流 モスクワに野球場

 ――サイバーセキュリティーのシンポジウムを多国間で開催することには、どのような意義がありますか。

 70年代の東西冷戦時代、旧共産圏と日本との交流はほとんどありませんでした。松前重義博士が、情報の少ない中で信頼を構築しようと、(当時の)ソ連や東欧を中心に留学生を受け入れたり、研究の成果を共有したりしてきました。モスクワに野球場を寄付し、野球チームがありますし、ウィーンにも交流のために武道館を作りました。デンマーク、北欧とも深い関係を築いています。

 シンポジウムは、モスクワ国立大学と本学で開催しているものとしては、昨年12月が3回目でした。ただ、今回は英国からも招いて参加を3カ国に増やし、今後は多国間でも開催していく予定です。

 サイバーセキュリティーについて、日本は民間の意識が低いと感じています。旧社会主義圏のロシア、中国、北朝鮮は軍が情報を占有して、研究の下支えをしています。ロシアは、優秀な数学者やインターネットのアナリティストらを育てて、研究成果を得ています。

 多国間のシンポジウムには、やはり米国を交えなければということで、今年は米国と、サイバー先進国のイスラエルを招きます。シンポジウムを通じて、サイバーセキュリティーの研究への理解を求めたいと考えています。

 ――米露が顔をそろえ、サイバーセキュリティーを論じることになるのですね。

 シンポジウムではブックレットを出しますが、ロシア側から、サイバーの新しい国際秩序を作り上げるべきだという提案を受けました。それを研究機関として受け止めて分析します。インターネットは、アメリカ中心のネットワークですから、ロシアや中国は言わば「蚊帳の外」にいるようなものです。ロシア側としては、ネットの世界も国連のようにすべての国々が参加して秩序を構築しなければ、世界の人々に寄与することにならないと言いたいでしょう。

 今、ロシアがそれを言い出したのは、経済発展が一部にとどまっていることが理由だと考えます。プーチン大統領が就任したのは改革をあせり、経済が大混乱したエリツィン大統領退陣の後で、石油や天然ガスが値上がりして経済が安定していた時です。しかし、その後は国営企業を切り売りして、新興財閥ができただけにとどまっています。その状況を改善しようと「東方経済フォーラム」を開催し、安倍首相も出席しますし、2016年は韓国、17年はモンゴルが来ていました。

 本学はフォーラムに併せて、山下泰裕副学長(全日本柔道連盟会長)が開催に向けた「嘉納治五郎記念ウラジオストク日露ジュニア柔道交流大会」への協力、協定校の極東連邦大学(ウラジオストク)の柔道部設立支援を行っています。また、同大学内に本学のオフィスを設置することにもなっています。

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