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動画で迫る

トランポリン中田大輔選手「41歳で空中をぐるぐる回っているのは僕だけ」

 アスリートの技や力を記者が間近で撮影した動画で疑似体験してもらう連載「動画で迫る」。2回目は、トランポリン競技の日本代表として2000年シドニー五輪に出場した中田大輔選手(41)=J−POWER。コーチとして後進の指導もしながら今も現役を続ける中田さんにカメラを持って跳んでもらい、トランポリンの迫力を伝えます。

     【中田選手の迫力ある演技動画はこちら】

     日本代表として2000年シドニー五輪に出場した中田選手。シドニー後にプロ選手となったものの試合だけで生計は成り立たず、牛丼チェーン店や引っ越し会社などでアルバイトもした。04年にはひき逃げ事故に遭って大けがをしたが、懸命のリハビリで復帰。「トランポリンはすばらしいスポーツ。多くの人に知ってもらいたい」という思いが苦難を乗り越えた原動力だ。深夜まで練習を行っている川崎市高津区内の体育館で聞いた。【大村健一/デジタル報道センター】

    高さ7、8メートル 失敗は死につながる競技

     −−素晴らしい演技を見せてもらいました。演技の前に真剣な表情でイメージトレーニングする姿も印象的でした。

     中田さん 高さ7、8メートルまで跳ぶトランポリンの場合、演技前には念入りなイメージトレーニングが欠かせません。漫画やテレビドラマなどで「ビル火災の現場で、窓の下にトランポリンを置いたから、高いところから飛び降りても助かった」なんて場面がよく出てきますが、とんでもない。競技用のトランポリンの表面はパンパンに張っているので、正しい形で降りないと大けがをする。しかも、何回も跳ね上がって、そのたびに体がたたきつけられてしまう。いっそのこと地面に落ちた方が軽く済むかもしれません。

     −−「中田スペシャル」(前方3回宙返り2回半ひねり)などの大技でトランポリン界をけん引してきましたが、これまで大きなけがはなかったのですか。

     中田さん 今は子どもたち向けにトランポリンの普及活動もしているので、何より安全を第一に心がけていますが、若かったころは「失敗すれば死ぬかもしれないが、金メダルを取るために恐れずに挑戦しよう」などという気持ちも持っていました。大きな声で言えるような話ではありませんが、これまでに何度か大けがもしています。中田スペシャルみたいにほかの誰もやったことがない技は、自分の頭の中にしか「お手本」はありませんが、失敗は死につながるので1度でも失敗してはいけない。イメージトレーニングだけで3カ月かかりましたね。

    人間の空を飛びたいという夢に近づける

     −−トランポリンという競技の魅力はどこにありますか。

     中田さん トランポリンは人にできない動きができる。人間には空を飛びたいという夢があると思うけど、それに近づける。パラシュートなどと違って体一つだし、重力を切り裂いて上がっていくのもトランポリンならではで、ほかの競技にはない感覚だと思います。空中に長くいて、空間が自分のものになり、そこで体をひねったり回ったりするのはとても気持ちいい。

    トランポリンの演技をする中田大輔選手=川崎市高津区の同市立高津高校で2015年5月29日午後11時、内林克行撮影

     −−トランポリンを始めたきっかけは?

     中田さん 私の出身地は石川県美川町(現白山市)です。父親がトランポリンの指導者をしており、3歳で始めました。父は野球をやっていたのですが、町が海外から講師を呼んでトランポリンを町全体に普及させていった時に、最初に講習を受けたと聞きました。町内の8割以上の小学生がトランポリンをやっていたので、選手として活躍した人も多くいます。私は小学校高学年の時にサッカーがしたくなって、中学ではサッカー部に入りました。結局、また跳びたくなってトランポリンに戻りましたが。

     −−中田さんは1995年から全日本選手権で7連覇するなどエースとして活躍し、トランポリンが初めて正式種目となった2000年のシドニー五輪で金メダル候補として注目されました。しかし、直前に右かかとを骨折して12位という結果になり、その後は苦しい時期が続きました。

     中田さん シドニー五輪でメダルを取って、引退しようと考えていました。トランポリンという競技は毎日が重力や恐怖との戦いですからきついんです。自分は体重が60キロくらいですが、7、8メートルの高さから降りたら一瞬、1トンくらいの重力が掛かります。

     中田スペシャルのような大技を使わなくても銀か銅のメダルは取れたかもしれない。でも、僕は欲張りなので金メダルを取りにいこうとして、本番10日前の練習でかかとを粉砕骨折してしまって……。痛み止めの注射も打ちましたが、「かかとに5寸釘を打たれて跳ぶたびにそれを踏んでいるような感じ」でしたから、本番は何もできませんでしたね。

     五輪前は「この機会にトランポリンを一気に普及させたい」という思いから月に40本も取材を受けていました。しかし帰国したとき、空港にマスコミは1社もいませんでした。「負けたらこうなるんだな」と感じました。そこから数年は悲惨で、練習場を借りるのも難しくなりました。

     その後はプロ選手になったのですが、大会の賞金はほとんどないので、アルバイトもしました。牛丼店ではお客さんに顔がばれてしまって、すぐにやめざるを得なかった。引っ越し会社では帽子を深くかぶり、眼鏡をかけて働きました。そうするうちに、トランポリンとは直接的に関係ないバラエティー番組やCMに出演するようになり、少しずつ知名度が上がってありがたいことにスポンサーがついてくれるようになりました。

    トランポリンの楽しさを話す中田大輔さん=川崎市高津区の同市立高津高校で、大村健一撮影

    ひき逃げで大けが、不屈のリハビリで復活

     −−しかし、2004年5月にひき逃げに遭って思わぬ大けがをしました。

     中田さん 選手生命どころか生命の危機でした。集中治療室に3日くらい入ったのですが、意識が戻っても手足が思うように動いてくれない。頸椎を損傷し、神経もダメージを受けていました。握力は右が5キロ、左が7キロ。手芸などのリハビリを一生懸命にやって何とか戻ってくることができました。

     −−競技生活に戻れたことは奇跡と言ってもいいですね。

     中田さん その年の10月の全日本選手権に間に合わせることだけ考えました。少しずつ歩けるようになり、7月からは薄くなった筋肉を戻すために1日8時間は筋トレをしましたね。全日本選手権は3位でした。トランポリンって1回やめちゃったらもう戻れない競技です。空中での感覚もつかめなくなるし、G(重力)にも耐えられなくなる。3日以上休むと空中感覚が狂ってくるんですよね。そういう意味では自分はずっとトランポリンから離れずにいる。一生懸命に練習してきた証でもあるし、続けることの大切さやいくつになってもやれるということを世の中の人に示していければいいと思います。

     −−現在はどんな生活ですか。

     中田さん 男子日本代表のコーチのほか慶応大の非常勤講師をしていて、日中は授業をしたり代表クラスの選手3人のトレーニングを見たりしています。夜は練習をやって、週末などにはトランポリンショーに出たり。

     −−ハードな日程ですが、体は持ちますか?

     中田さん 大丈夫なんです、これが。普通に20代の子と変わらない動きだと思っていますよ。だからこれからは「中年の星」みたいに売っていこうかなって。

     −−41歳で現役として活躍している選手はほかにいますか。

     中田さん いませんね。年齢を答えるとたいてい驚かれます。昔は24、5歳くらいでやめてしまう選手が多く、自分でもそのくらいがピークかなと思っていました。でもなんのことはない、トレーニングを続ければ跳べます。

     今は、五輪などの大きな大会を目標にするのではなく、一つ一つの大会で自分のベストを出したい。五輪代表のころと比べると話は小さくなったかもしれませんが、昨年12月の全日本社会人選手権は2位だったんですよ。41歳になっても空中をぐるぐる回っているのは僕だけだと思います。100歳になっても2回宙返りができるのではないかと思っていて、これは人生を懸けて挑戦したいですね。

     競技の普及については、自分のトランポリンスクールを作ることが目標です。天井の高さが十分にある施設がなかなかないためです。そこで五輪選手や指導者を育てていけば、さらにトランポリンが広がると思います

    魅力は「より高く、より美しく、より高難度に」

     −−来年はリオデジャネイロ五輪です。トランポリン観戦をより楽しむ方法を教えてください。

     中田さん まずは単純に高さを見てください。最初はどの技を見ても同じに見えると思いますが、選手たちはある程度の高さまで跳んでから、10回続けて技を入れます。その10回は、すべて違う技でないといけません。「より高く、より美しく、より高難度に」がポイントです。

     それから、トランポリンのいいところは「写真的」というよりも「映像的」だということ。ショッピングモールとか大道芸のフェスティバルとかいろんなところで開かれるショーに参加していますが、最初はお客さんの集まりが悪くても、演技を始めるとどんどん増えてきます。遠くから「人が跳んでる」のが見えるからなんでしょうね。そういうところではこの競技の人気は鉄板、だと感じます。

     −−今、日本のホープだと思っている選手は誰ですか。

     中田さん 日本はとてもレベルが高い選手が多いです。自分の教え子なのでひいき目があるかもしれませんが、ロンドン五輪4位入賞の伊藤正樹選手(26)=東栄住宅=は世界チャンピオンになる素質があると思っています。ただし、来年の五輪に出場する選手は、僕かもしれませんけど。

     ■なかた・だいすけ 1974年生まれ。日体大卒。シドニー五輪後の01年にトランポリンで初めてのプロ選手となった。現在は男子日本代表コーチ、慶応大非常勤講師。川崎市の「ホームタウンスポーツ推進パートナー」。165センチ、61キロ。

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