
「理系白書」の報道などで第1回科学ジャーナリスト大賞を受賞した、元村有希子論説委員のコラムです。
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サーローさんのサミット=元村有希子
2023/5/24 02:03 1016文字<sui-setsu> 歴史的なサミットが終わった。 被爆地・広島に初めて主要7カ国(G7)のトップが顔をそろえ、原爆の犠牲者を悼んだ。戦争当事国ウクライナから大統領が駆けつけ、ボルテージは一気に上がった。世界が注目するイベントとしては成功だったと言える。 しかし、私の中でくすぶり続けたのは、「ヒ
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赤い旗を振る必要=元村有希子
2023/5/17 02:00 1006文字<sui-setsu> 19世紀後半のイギリスに、「赤旗法」と呼ばれる法律があった。登場間もない自動車から歩行者を守る目的で作られた。 市街地での制限速度は時速2マイル(約3・2キロ)。走る際は、車両の前を人が歩きながら赤い旗を振り、自動車が来るぞと触れ回るよう義務付けていた。 冗談のような規制の
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文明の墓場・地球=元村有希子
2023/5/10 02:00 979文字<sui-setsu> 東京国立近代美術館で開催中の「重要文化財の秘密」展を訪ねた。長さ40メートルの大作「生々流転」を見たかった。 横山大観がこの日本画を発表したのは1923年。お披露目の当日に関東大震災が起き、からくも被災を免れたという逸話がある。 1滴の雨が集まって渓流となり、やがて川になる
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政と学との格闘技=元村有希子
2023/5/3 02:01 1001文字<sui-setsu> 日本学術会議と政府との対立について考えている。 2020年秋、菅義偉首相(当時)が会員候補6人を任命しないという珍事が起きた。 格闘技に例えるなら第1ラウンドは政府が「反則技」で圧倒。第2ラウンドは学術会議が正攻法で反撃し、改革という名の法改正の動きをひとまず封じた。 第3
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女性が選挙に出ること=元村有希子
2023/4/26 02:00 994文字<sui-setsu> 統一地方選が終わった。いろんな総括があるだろう。私は女性たちに注目した。 男女不平等社会ニッポン。とりわけ政治分野の平等度は146カ国中139位(ジェンダーギャップ指数)。さんたんたる、という表現がふさわしい。 今回、88市長選に女性28人が立ち、7人が当選した。衆参の補選
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ミニスカート革命=元村有希子
2023/4/19 02:00 970文字<sui-setsu> デザイナーのマリー・クワントさんが93歳で亡くなった。20世紀のファッションに「革命」を起こしたとされる。 自身の名を冠したブランドを20代で設立し世界的な名声を得た。英女王から勲章を贈られた。女性起業家の草分けでもある。 ロンドンの若者の間で起きたミニスカートブームは日本
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100年の大事業=元村有希子
2023/4/12 02:00 1022文字<sui-setsu> 泣き出しそうな曇り空の朝、私は明治神宮外苑の名所、いちょう並木にいた。冬の間に葉を落とした巨樹の枝から、次々と新芽がもえ出している。 「この木、元気がないでしょう。根元をコンクリートで固めているから」。並木の1本を心配そうに見上げるのは、東京大名誉教授で農学博士の石川幹子さ
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QRコードに学ぶ=元村有希子
2023/4/5 02:01 1017文字<sui-setsu> よい考えが浮かぶ場所を「三上」と例えたのは宋の詩人・欧陽脩(おうようしゅう)だそうだ。馬上(乗り物)、枕上(ちんじょう)(寝床)、厠上(しじょう)(トイレ)。あの湯川秀樹も、枕元にメモ帳を置いて寝ていたという。 デンソーウェーブ主席技師、原昌宏さん(65)の「その瞬間」は、
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新聞という公共空間=古賀攻
2023/3/29 02:00 1032文字<sui-setsu> 先週の当欄で韓国の大統領が宮城県産ホヤの輸入再開要請にどう答えたかを紹介したところ、これを読んだ韓国メディアが「国民の安全まで売り渡すのか」と政権を追及する騒ぎになった。 騒ぎが逆輸入されて「センシティブな状況を理解しない駄文」となじるツイートも見かけた。 デジタルの反応は
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微妙な日韓の温度差=古賀攻
2023/3/22 02:00 1055文字<sui-setsu> 今回の日韓首脳会談は、傷んだ両国関係を修繕する外交ゲームの第一幕だ。ゲームはなお続く。 岸田文雄首相と夜の銀座を楽しんだ尹錫悦(ユンソンニョル)・韓国大統領はその翌17日、日韓議員連盟の額賀福志郎会長から日本産ホヤの輸入再開について要望を受けている。 宮城県沿岸の海で取れる
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「ローテク日本」の防衛=古賀攻
2023/3/15 02:01 1034文字<sui-setsu> 来年度予算案の審議は、公文書をおとしめた高市早苗・経済安全保障担当相の始末を除いて淡々と進んでいる。「安保政策の大転換」を背負っているのに、だ。 国会の状況を「地に足の着いた議論になっていない」と評するのは自民党のさる中堅議員だ。日米関係に詳しい人物でもある。 議員の懸念は
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「花は咲く」と回顧録=古賀攻
2023/3/8 02:01 1037文字<sui-setsu> 震災からの復興応援曲「花は咲く」を、安倍晋三元首相がピアノで弾く動画が残っている。 去年の今ごろ、本人に話を振ると「ネット上で200万回以上再生されてね。演説は緊張しないけど、ピアノはめちゃくちゃ緊張した」と上機嫌で話していた。 深谷隆司元通産相の娘婿が主催するコンサートで
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あなどれぬMMT派=古賀攻
2023/3/1 02:01 1029文字<sui-setsu> 「道半ば」は便利な言葉だ。想定とは違う事態になっていても、せっかくここまで来たんだから、と迷いを消し去ろうとする。 自民党の世耕弘成・参院幹事長(安倍派)がおととい次期日銀総裁候補者への所信聴取で「アベノミクスは道半ば」と告げた。修正はまかりならぬの含意がある。 ではアベノ
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1年で変わったこと=古賀攻
2023/2/22 02:00 1042文字<sui-setsu> 東京都内で細々とロシアビジネスを続けてきたその会社は、昨年来、日本の仕入れ元から商品が入らなくなって困り果てた。 侵略国ロシアに日本は米欧と共に経済制裁を科している。商品は禁輸リスト外の汎用(はんよう)品だが、仕入れ元の企業が「このご時世にロシア向けは……」と尻ごんだ。 こ
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「指名なき総長」の鼻息=古賀攻
2023/2/15 02:00 1050文字<sui-setsu> 雪の福島稲荷神社(福島市)を先週の土曜日に訪ねた。 当日は戦前の「紀元節」にあたる建国記念の日。神話を基に明治政府が定めた架空の日だが、神社の多くは皇室の長久を祈って「紀元祭」を行う。丹治(たんじ)正博宮司(67)も朝方に神事を済ませていた。 丹治さんは県神社庁長の立場にあ
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首相2ルートの不始末=古賀攻
2023/2/8 02:00 1034文字<sui-setsu> 首相の父・岸田文武(ふみたけ)さんは、通産官僚から衆院議員になり、当選5回時に65歳で他界している。 文武さんの父・正記(まさき)さんも戦前に6回、戦後に1回、衆院議員に当選し、やはり65歳で没した。 政治家3代目となる岸田文雄首相が、祖父と父の享年を意識するのはもっともで
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豹戦車のリアリズム=古賀攻
2023/2/1 02:00 1044文字<sui-setsu> 1年前の光景がよみがえる。 「ネオナチ」からの解放軍のつもりでウクライナに押し入ったロシア軍戦車は、歓迎の花束どころか、対戦車ミサイルを次々と撃ち込まれて甚大な損害を出した。 兵士の肩から発射され、戦車の弱点である上部を直撃するこの「ジャベリン」は、ウクライナの抵抗シンボル
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05年皇位報告書の命脈=古賀攻
2023/1/25 02:00 1041文字<sui-setsu> 予想されたことだが、岸田文雄首相の施政方針演説に皇位や皇室にまつわるくだりはなかった。 年初の当欄で、皇室問題を放置する政界の姿を書いたところ、信頼する官僚OBから、切羽詰まるまで棚上げするのも一つの知恵ではないかとの感想をいただいた。「今深く議論すると国内の分断を生んでか
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このチャンスを逃すな=古賀攻
2023/1/18 02:00 1044文字<sui-setsu> 北東アジアの安全保障トライアングルのうち、「日米」「米韓」の濃密さに比べ、「日韓」は水くさく、天気も変わりやすい。 これはもちろん両国の特殊な歴史によるものだが、三角形の一辺として可能性は秘めている。 防衛研究所の千々和(ちぢわ)泰明・主任研究官(44)は昨年出版した「戦後
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岸田流「開き直り」説=古賀攻
2023/1/11 02:01 1037文字<sui-setsu> 政治に付きものの根回しや前さばきが「雑で拙い」というのが、岸田文雄政権の定評である。 問題閣僚の処理で優柔不断さをさらす。かと思えば防衛費増額や原発の扱いをめぐって突然、首相が「決断」を下す。旧統一教会に絡む首相答弁では解散命令請求の要件が一夜にして変わった。 憎らしいほど
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