メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ヘイト被害の深層 籠池理事長と右派市民団体の不可解な点と線=安田浩一

 園児に異様な愛国教育を強要し、教育現場に排外主義を持ち込んだ「森友学園」理事長の籠池泰典氏。敬愛する安倍首相からも、日本会議からも切り捨てられて孤立の体だが、右派系市民団体との奇妙な関係が見えてきた。森友問題を追及する気鋭のジャーナリストが明らかにする。

     森友学園理事長・籠池泰典氏(62)も、いまや“水に落ちた犬”だ。かつての盟友も“打ち”に回る。政治家に見放され、拠(よ)り所としていた日本会議からも「ネトウヨ」扱いされる始末。

     それでも──拾う神はいた。

     3月3日、民団大阪(在日本大韓民国民団大阪府地方本部・大阪市北区)に男女4人が街宣車で乗り付け、建物1階のロビーで大声を上げた。

    「日本人の代表として抗議文を持ってきました!」

     4人は元在特会(在日特権を許さない市民の会)のメンバーなど、いずれも関西を拠点に「反中嫌韓」の排外主義運動に関わってきた者たちだ。そのうち2人は2009年の京都朝鮮学校襲撃事件に関わり逮捕、有罪判決を受けた経歴を持つ。

     抗議文の受け取りを拒否し、退去を求める職員に対して彼らは口々に訴えた。

    「(森友学園経営の)塚本幼稚園に対する嫌がらせをやめていただけますか。日本の教育は日本人が決めることであって、韓国人が決めることではない。それよりも本国の反日教育をやめなさい!」

    「日本の幼稚園児に何の罪があるんや!」

    「差別をやめなさい!」

     結局、受け取りを拒否された抗議文は民団が設置した「意見箱」の中に投函(とうかん)され、4人はさらに「あなたたちは外国人であるという身の程を知れ!」などと拡声器で街宣した後に引き上げた。

     対応した民団職員の1人がため息交じりで振り返る。

    「ブログなどでウチに来ることを仄(ほの)めかしていたから警戒はしていました。しかし、予測していたとはいえ、まったく話がかみ合わない。とても議論などできそうにありませんでした」

     それにしてもなぜ、元在特会メンバーらが塚本幼稚園の件で民団に抗議したのか。

     実は、2月末に民団大阪は塚本幼稚園の「差別文書」に抗議していた。

     すでに一部では知られているように、同幼稚園では主に在日コリアンを貶(おとし)めるような文言を用いた文書を保護者に配布している。

    〈よこしまな考えを持った在日韓国人や支那人〉

    〈韓国人や中国人は嫌いです〉

    〈在日が経営する学校は国家観はズタズタ。反日の人間になり得る〉

     そればかりか運動会の選手宣誓においても、幼稚園児に「中国、韓国が心を改め、歴史教科書で嘘(うそ)を教えないよう、お願いいたします」と唱和させるなど、常軌を逸したヘイト体質が問題となっている。

     かつて同園に子どもを通わせていた在日コリアンの母親は、私の取材にこう答えている。

    「求められれば寄付もしましたし、学校行事にも協力してきました。しかし、学校側は私や子どもが韓国にルーツを持つ人間だと知っていながら、韓国人は嫌いだと手紙を寄越してきたんです。目の前が真っ暗になりました。こうまで露骨な差別体質を見せられたのですから退園せざるを得ませんでした」

     民団大阪はニュース等でこの事実を知り、こうした民族差別を容認できないとして、塚本幼稚園に抗議文を渡すこととなったのだ。

     抗議文には次のように記されている。

    〈在日韓国人や中国人を蔑視したこれらの行為は、明らかに民族差別であり、私たち在日韓国人の人権を著しく侵害するものであるため、到底容認する事ができません〉

    〈教育基本法第1章第2条には「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し…」とあります。貴学園が行っている教育はこれを著しく逸脱した教育であると言えます〉

    ネット上に残っていた「籠池靖憲」

     そのうえで人権教育の充実や、公式の場での謝罪を求めるものであった。

     2月24日、民団職員らは、これを籠池氏らへ直接に手渡すため、同幼稚園に出向いた。しかしインターホン越しに来意を告げたが面会を拒否されたため、抗議文を玄関前のポストに投函して帰ったのだという。

    「(民団に抗議した者たちは)幼稚園に迷惑をかけた、幼稚園児が怖がっていたなどと叫んでいましたが、そのようなことはありません。そもそも我々は事前に、園児には迷惑をかけないよう配慮することを決めていましたし、だからこそ幼稚園側とはインターホンでのやり取り以外はしていない。まったくの言いがかりです」(前出職員)

     いずれにせよ、元在特会員らの目的は「抗議に対する抗議」なのであった。

     ちなみに彼らの抗議文は、〈日本人を蔑視したこれらの行為は、明らかに民族差別であり、私達日本人の人権を著しく侵害するものであるため、到底容認することができません〉〈韓国民団は事実に基づかない歴史教育を推進してをり、日本人差別行為であるのは明白である〉など民団側の抗議文を模した文体で、〈日本国民への謝罪〉を要求するものだった。

     前出の職員が首をひねるのは、その内容よりも、民団側の抗議文や封筒の画像が、その日のうちに元在特会員らが運営するブログで掲載されたことにある。

    「我々は封筒の画像までは公開していません。それが幼稚園のポストに投函してすぐに、彼らはネットにアップしているわけです。つまり、幼稚園側から彼らに流れたとしか考えられないのです」

     民団に抗議したメンバーの一人にも聞いてみた。前述した京都朝鮮学校襲撃事件にもかかわった男性である。

    ──民団への抗議の意図は何か。

    「一言で言えばヨソの国の人間が日本のことに口を出すなということ」

    ──籠池氏とは面識があるのか。

    「どこかで会ったことはあるかもしれないが、直接に知っているわけではない」

    ──民団による幼稚園への抗議文提出はどこで知ったのか。

    「詳しくは言えない。関係者の中には我々の支持者もいる」

     彼らからすれば在特会批判を続けてきた私に多くを語るわけがない。問題となった土地取引の中身同様、いまのところ詳細は闇の中だ。

     だが、暗闇で目を凝らせば、彼らの“出身母体”である在特会と塚本幼稚園(森友学園)を結ぶ線がうっすらとは見えてくる。

     09年に大阪で設立された右派系団体がある。

    「日教組の違法を監視し究明する市民の会」(監視する会)。日教組に対抗し、「教育正常化」を目指すことが目的だという。

     代表を務めるのは塾経営の傍ら、関西で長きにわたって右派系市民運動を牽引(けんいん)してきたM氏だ。在特会草創期には同会の関西支部長を務めたことでも知られる(その後、会長らと対立して退会)。

     監視する会は現在は休眠中と見られ、活動の形跡はない。ただし、いまでもネット上に残された同会のホームページには、代表委員、各都道府県別の参加者が記載されている。

     ここには、在特会会長(当時)の桜井誠氏をはじめ、在特会関係者の名前がずらりと並ぶ。当然ながら、民団大阪に抗議したメンバーの名前も連ねられている。

     そして──そこには「籠池靖憲」なる名前も見て取ることができるのだ。

    「“愛国無罪”にしたらあかん」

     森友学園の籠池氏は、いくつかの名前を使い分けているが、当時は「靖憲」を使うことが多く、大阪府への小学校設置認可申請の名前も、現在の「泰典」ではなく「靖憲」だった。

     監視する会のM氏に連絡してみたが、あいにくM氏は体調を崩して入院中だという。代わりにM氏の妻が私の取材に応えた。

     彼女が開口一番に発したのは「入院したのは籠池のせいだ」という言葉だった。

    「夫が籠池と知り合いだったこともあり、マスコミが事務所に押し寄せてくるんです。そのせいで緊急入院するまでに体調を悪くしてしまったんです」

    ──Mさんと籠池氏は古くからの付き合いなのか。

    「いつから交流があるのかは知りませんが、一時期は親しくしていたと思います。でも、いつも夫は『籠池には一方的に利用されるばかりだ』と怒っていましたよ。何度も人脈を駆使して政治家を紹介するなどしていましたが、籠池さんのほうから何か手伝ってくれることはないんです」

    ──籠池氏は監視する会のメンバーだったのか。

    「私はよくわからない。でも付き合いはあったのだから、そうなんじゃないですか」

    ──今回の事件に関して、Mさんはどう思っているのか。

    「教育勅語に泥を塗るようなヤツだと怒っています。籠池を“愛国無罪”にしたらあかん、と」

     現在、取材を拒否している籠池氏が、どこまで在特会を理解していたかは不明だ。私が知っているM氏もまた、細事を気にしない大雑把(ざっぱ)な性格なので、籠池氏の名前を使っただけ、ということもあり得るだろう。実際、ラジオのインタビューで監視する会との関係を問われた籠池氏は「知らない」と答えてもいる。

     だが問題は、籠池氏がこうした人脈とつながるような“思想”を抱えていたということだ。

     教育現場に差別と分断を持ち込み、排外主義を喧伝(けんでん)した。裏取りもせず「沖縄の翁長雄志知事は中国派、親族も中国人」などといったデマもまき散らした。

     しかも「愛国者」を自称しながら、国民共有の財産を買い叩(たた)いたのだ。

     結局は、他国や外国人に攻撃的であるだけのフェイクな教育者だったことは間違いない。

    (ジャーナリスト・安田浩一)


     関連特集は185ページからにもあります


    やすだ・こういち

     1964年生まれ。ジャーナリスト。日本社会にひそむ差別的な空気を鋭く告発してきた。著書に『ネットと愛国』ほか多数

    (サンデー毎日3月26日号から)

    3月26日号を読む

     サンデー毎日をビューアーで読むには上のボタンをクリックしてください。ビューアーの使い方はこちら。サンデー毎日のコンテンツを読めるのは、デジタル毎日有料会員、愛読者プレミア会員の方です。ログインしてご覧ください。会員登録がまだの方はこちらから。

    サンデー毎日

    サンデー毎日は毎日新聞出版から毎週火曜日に発行されている週刊誌。1922年に日本で初めての週刊誌として創刊されました。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. スペースワールド 土地協議不調で17年末閉園へ 北九州
    2. 北朝鮮 「むかっとしてミサイル」元料理人に正恩氏発言
    3. BLEACH 「デュラララ!!」作者の新作小説が連載へ 主人公は檜佐木修兵
    4. 建造物侵入容疑 トイレ屋根裏「数年前から寝泊まり」男
    5. アート展 「私は美しい」 米兵に暴行された女性が東京で

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです

    [PR]