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大学倶楽部・横浜市立大

柿崎一郎教授 軍事輸送と外交を分析 『タイ鉄道と日本軍』出版

インタビューに答える柿崎一郎教授

 タイの鉄道研究を続けてきた横浜市立大学教授の柿崎一郎さんが、第二次大戦中のタイで、日本軍がどのように鉄道を用いて軍事輸送を実施したかを分析し『タイ鉄道と日本軍』(京都大学学術出版会)にまとめた。現地の膨大な公文書からデータを収集、平時とは全く違う人とモノの動きを丹念に追っている。鉄道を切り口に、戦時中の日タイ関係の実像に迫った労作である。

         ■  ■

     日本軍とタイの鉄道を考えるとき、まず挙げられるのが「泰緬(たいめん)鉄道」だ。タイとビルマ(現ミャンマー)の国境地帯を全長約415キロで結んだ。日本軍が連合国側の捕虜や東南アジアの人々を過酷な建設工事に従事させ、多くの死者を出したことでも知られる。柿崎さんは「泰緬鉄道は日本軍が造り軍事輸送に使ったのは有名ですが、今回、タイ全土の鉄道網のほぼ全てが、軍事輸送にかり出されていたと分かりました。こんなに広く日本軍がタイ国内に展開していたとは驚きでした」と話す。

     米や燃料、馬など、輸送物資は実に多様である。そして時を追うごとに、日本軍にとってタイの役割が変遷しているのがよく分かる。例えば、戦争中期の泰緬鉄道開通(1943年10月)後なら、シンガポール、カンボジアからインパール作戦に向けたビルマ戦線へ、部隊や物資を国際輸送する通過地の側面。逆に末期には、ビルマから撤退してきた部隊が大量に国内各地に流入し、駐屯地としての機能を強めている。終戦時には約12万人の日本兵が駐屯していたという。戦局の悪化とともに、後方から前線へと位置づけが変化している。

     「全体的な傾向はビルマ戦線と連動しています。軍事輸送では、一般輸送であまり使われていなかった南と東の鉄道ルートが主役になりました」

     鉄道の主導権を巡る日タイの駆け引きも興味深い。突然始まった日本側の軍事輸送に、タイは当初抵抗するすべを持たず、輸送力の大半は終始日本軍に奪われたままだった。だが、最後まで列車の運行は自ら行い「鉄道運営権」は渡さなかった。独立国としてのタイの主権を見せつけた形だ。柿崎さんは<タイが『名』を取り、日本が『実』を取った>と表現する。

         ■  ■

     「鉄道を巡る争いにタイのしたたかさが見えてきます。日本の言いなりになっているように見えて、いろんなやり方でタイ側の意向をのませようとしている。ずっと独立してきた自負があるので、完全に日本に任せることに警戒があったのでしょう」。タイは日本と同盟関係にあり枢軸国側に立ちながら、戦後は敗戦国として扱われなかった。親日と親連合国の二つの立場を温存しながら独立を保った、外交巧者ぶりがここにも表れている。【棚部秀行】

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