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東海キャンパる 若者と選挙 池上彰さんに聞く

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◇いけがみ・あきら 1950年長野県生まれ。慶応大卒。元NHK記者。ジャーナリストとして世界中を取材し、大学での講義・執筆活動や各種メディアでの分かりやすいニュース解説など幅広く活動。2014年愛知学院大特任教授、16年名城大教授。同年、テレビ東京選挙特番チームとともに第64回菊池寛賞受賞。 拡大
◇いけがみ・あきら 1950年長野県生まれ。慶応大卒。元NHK記者。ジャーナリストとして世界中を取材し、大学での講義・執筆活動や各種メディアでの分かりやすいニュース解説など幅広く活動。2014年愛知学院大特任教授、16年名城大教授。同年、テレビ東京選挙特番チームとともに第64回菊池寛賞受賞。
「投票のポイント」「政治とは」。池上彰さん(右端)に質問する学生記者 拡大
「投票のポイント」「政治とは」。池上彰さん(右端)に質問する学生記者

争点、君たちが作れる

 春の統一地方選や夏の参院選など、2019年は選挙が目白押し。その度に話題になるのが、若者の投票率の低さだ。高齢者層と比べて低いのは今も昔も変わらないが、注目すべきは「50年で半減」という下落ぶりだ。そこで、東海キャンパる編集部は「若者が投票に行かない理由」を徹底調査。深掘り取材で三つの理由を浮かび上がらせるとともに「その背景と、自分たちにできること」をあの人に聞いてみた。「教えて、池上さん!」

政治の話、タブー視は危険

 学生記者 政治や政策の知識が無いのに、投票する意味はありますか。

 池上さん 大変いい質問ですね。中学の公民の授業では、選挙の仕組みは習うが具体性がない。日本の学校の場合、政治的中立性もあって自民党はどういう政策を持っているか、立憲民主党は、といった生々しい話をしないんだね。その中で「さあ投票しろ」と言っても無理。やってこなかったことこそ問題でしょう。

 22年から高校でも公共という科目が登場する。ここでは模擬投票やディベートをやりましょう、政党関係者を学校に呼んできましょうと。君たちが中心になって政党関係者を呼んで大質問会をやるとか、各政党にアンケートし、主張をまとめたりするのも一つのやり方だね。

「顔で選ぶ」のも手

 ――知識が少なく、投票への戸惑いも。

 ◆まじめだなあ。大事な考え方だけど、じゃあ、どれぐらいの知識があれば投票に行っていいの? 選挙公報とか新聞を読んでみるとか。政治的主張が分からなかったら、顔で選ぶのも手。「40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」というリンカーンの言葉があるけど、若くして当選した政治家も30年たつと嫌な顔になったな、なんてことも。日ごろの行いや考え方、誠実さというものは顔にも出てくるんだね。

 ――若者の主な情報源はインターネットですが、誤情報も多い。気をつけることは。

 ◆君たちも新聞づくりに携わって、いかに大変か分かったでしょ。いろんな部署が何重にもチェックしてようやく印刷される。個人のサイトなどはそういう確認をしないまま出ちゃうわけ。善意で伝えようとしても間違えることも。大手新聞社のウェブサイトなら比較的、相対的に信用できる。自分で確認できない時は、なるべく多様な情報源に接して判断することが大事。対立候補をおとしめようと悪意ある情報がたくさん出ることも知っておこう。

投票せず後悔も

 ――選挙区の1票の格差が問題になっていますが、各世代が同数でないのに、なぜ年齢における1票の格差は問題にならないのでしょう。若者に傾斜をかけるとかは考えられませんか。

 ◆民主主義の大原則は1人1票。一人一人が自立した個としての判断で投票したり、さまざまな政治行動をしたりする。発想は面白いけれど、そもそも民主主義の基本理念に反するのでは。若者も高齢者も社会を形成している貴重な一人なのに、若者に傾斜をということは、高齢者は邪魔だよね、みたいな概念につながっていくような危険な考え方だと思わない? 投票してもしなくても同じ、と言う人もいるけれど、思いもよらないことも起こりうる。具体例が英国のEU(欧州連合)離脱。国民投票で多くの若者が投票に行かなかった。物心ついた頃からEUに入っていて、まさか離脱派が勝つとは思っていなかったんだね。選挙後、決定を後悔する意味の「ブレグレット」という言葉も生まれたんだ。

 ――政治の面白さは。

 ◆私たちは税金を払って公務員を雇っている身で、本来はいろんな事を要求できる。でもそれは混乱を招くから、我々の代表が役人を監視するという仕組みにしようと。これが代議制民主主義。だから議員たちが役所にいろいろ言うと、役人は言うこと聞く。最近のニュースでは妊婦加算。議員が「まるで妊婦課税だ、おかしい」と言った途端、凍結されることに。これはやりがいじゃない?

 ――自民党が負けない理由は?

 ◆今の選挙制度が関係しています。自民の全体の得票数は4割くらいだけれど、小選挙区だと1人しか当選しないから、結局、総議席数では6割に。自民が多数を取りやすい制度になっている。逆に、各小選挙区で野党がまとまれば逆転もありうる。明確な争点を出し、対立軸ができて野党がまとまれば大きく変わりうるんだ。争点は君たちが作ればいい。暮らしの中のさまざまな課題を若者が争点として掲げれば、日本中が争点にすることもできる。

 ――争点は作れるとのことですが、普段友人と政治の話をしません。

 ◆私が学生の頃と違って、今、君たちが政治のことを周りに言い出すと浮くよね。でも、民主主義の国でこんなに若者が議論をしないのは世界でも非常に珍しい。独裁国家ならある。そういう事を言うと捕まっちゃうから。政治の話をタブー視することは、実は極めて危険ということを知っておこう。

日本消滅の危機?

 ――若者の低投票率が続くと、この先、日本は?

 ◆前高知県知事の有名なせりふがある。「次の世代のことを考えるとサッカー場を造った方がいいけれど、次の選挙のことを考えたらゲートボール場」。例えば待機児童問題は、若い人が投票に行かなかったから政治家にはどうでもよかった。投票に行かないと、そうやって不利益が出てくる。子育てもしにくいとなると、さらに少子化が進み、日本という国が無くなるような危機的な状況が来ます。そこで初めて気づくのかもしれないけど、間に合うかどうか分からないよ。

投票行かない理由を徹底調査 20代投票率、50年で半減

 総務省の調査によると、17年衆院選の全体の投票率は54%だったのに対し、20代は34%と年代別で最低。最も高かった60代(72%)の半分以下だった。また、1967年から50年間の投票率の推移を見ると、どの年代も下落傾向にある中、20代は半減という究極の落ち込みぶりだ。

 なぜ投票に行かないのか――。その根本理由を探るため「選挙に行かなかったことがある学生」を対象に対面調査を実施した。20人の回答から見えてきたのは、大きく三つの要因だった。

 一つは、政治や選挙に関する学校教育の欠如だ。行かない理由を「難しそうだから」と答えた3年男子は「中学・高校で、政治についてろくに勉強してこなかった。授業できちんと学んでいたら変わっていたかも」。3年女子は「自分の知識がなさ過ぎて、何を基準に投票すべきか分からなかった。適当に選ぶのは無責任と思って」と説明した。「(住民票を移さなくても事前手続きすれば滞在先で投票できる)不在者投票制度の存在を知らなかった」(2年女子)との意見もあった。

 二つ目が「結果は同じ」という一種の諦めの感情だ。「いつも決まった候補者が当選していて、自分の1票の影響力を感じない」(3年男子)、「自分が投票してもしなくても何も変わらない」(3年女子)など、選挙=不毛と捉える傾向もうかがえた。

 そして三つ目が、現状に満足しているということだ。「今の生活で困っていることはなく、選挙で変えてほしいこともない」(3年男子)、「政治をどうにかしたいという意思がない」(3年女子)など、変化を求めていないことが背景にあるようだ。


 取材=岐阜女子大・阿知波杏、愛知大・成田篤紀、永原尚大、梶俊樹、名古屋大・安田翔子、飯嶋千遥、南山大・横田彩弥香

 ※名古屋からインターネット中継で参加=名古屋市大・足立結、愛知大・本田莉沙

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