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<合理的配慮>「障害者」は社会が作る−−東大先端研の近藤准教授が講演

写真=近藤武夫・東京大学先端科学技術研究センター准教授

 障害者の教育や雇用と先端技術の活用をテーマにしたセミナーが第41回国際福祉機器展の最終日の3日、東京都有明の東京ビッグサイトで開かれた。2016年4月から施行される障害者差別解消法で求められる合理的配慮を実現するための既存技術(アルテク)の活用法と、障害者の教育や雇用への合理的配慮の影響について東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野准教授の近藤武夫さんが講演した。

     先端研の障害者教育への取り組みを紹介した最初のセミナーで近藤さんは、東京大学と日本マイクロソフトが2007年から実施しているICT(情報通信技術)を活用して障害のある若者の進学や社会参加を推進する「DO−IT Japan(ドゥー・イット・ジャパン)」プロジェクトに触れて、「特別支援学校ではなく、普通学校で学ぶこと、福祉施設でなく一般企業で働くことを目標にしている」と説明した。

     冒頭、読み書きに困難のある児童生徒について近藤さんは欧米で普及している「印刷物障害(プリント・ディスアビリティー)」という言葉を紹介。「活字が見えない視覚障害者、本の持てない肢体障害者、音声言語は理解できるが、印刷文字は理解できない学習障害の一種ディスレクシアなどを総称した用語」と説明した。

     その上で、「iPadなどのタブレット端末を使えば電子教科書を音声合成TTSで読み上げさせられる。ペンが持てない人も音声認識で入力できる。読み上げと同時にリアルタイムに読み上げ中の文字をハイライト表示するため学習障害のある子供も目と耳で理解できる」とアピールした。

     また、紙による筆記試験と難易度の変わらないタブレット端末による回答入力試験との比較について「アナログテストでは30点だった生徒がデジタルでは倍の得点だった」として、発達障害のある子供は学力がないのではなく、試験方法によって潜在的な学力が十分発揮されないことがあることを指摘した。

     続いて、昨年6月に制定され、2016年4月から施行される「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)において義務化される「合理的配慮」について、2006年に国連総会で採択され、今年1月に日本も批准した障害者権利条約における障害者の人権擁護の考え方が基本になっていること、結果の平等ではなく、機会の平等が保障されなければならないことなどを説明した。

     また近藤さんは、「差別には直接と間接の2種類がある」として、障害者というだけで入学を認めない場合を直接差別、入学は拒まないものの、入試テストの出題で点字や音読などの代替手段が用意されていない場合を間接差別と説明した。

     「直接差別については2016年4月の障害者差別解消法施行後は罰則が科せられるが、過度の負担を強いてはいけない」として、試験に合格した車いす使用者のために入学時までにエレベーターを設置するのが難しければ、受講希望の授業を1階に変更するなどの代替案を提示することができる。「重要なのは自己決定権、必ず障害当事者を交えた協議の機会を設けること」と説明した。

     続いて「合理的配慮」について近藤さんは1981年の国際障害者年に設立された障害当事者の国際的人権擁護団体DPI(障害者インターナショナル)の「障害の社会モデル」の考え方を取り上げて1970年代にイギリスの障害学から生まれたもので、生物学的な欠陥として障害者を扱うのではなく、健常者を基準として作られた社会への不適合に過ぎないことを説明した。

     その中で近藤さんは「活字印刷による出題を標準とする社会では視覚障害者やディスレクシアのバリアーが顕在化するが、音声認識や音声読み上げが一般化すれば障害者のバリアーは解消される」と力説した。

     また学習における合理的配慮について、入学試験における別室の用意や、授業中のノートテーキング代行サポートなどを紹介。「アメリカの大学では講義の手話通訳やリアルタイム字幕サービスは当たり前。日本はこれまで障害者支援は社会の善意。アカウンタビリティー(説明責任)やハラスメント(虐待)が一般化したように「合理的配慮」がこれからはコンプライアンス(法令順守)として位置づけられなければならない」と訴えた。

     日米の障害のある学生の支援状況比較について近藤さんは、日本の小中学校における児童生徒1560万人中、学習障害など要支援者は35万人で2.2%。これに対して米国は日本の3倍。全児童生徒5000万人に対して要支援は650万人で13%。そのうち250万人が学習障害と話した。

     また「日本は320万人の大学生の中で、障害者は6500人。0.2%にすぎないのに対して、米国は2000万人のうち200万人が障害者、10%に及ぶ」と説明した。

     一方で、近藤さんがアルバイトなど非正規雇用を含めて30人の障害者職員を雇用している同センターバリアフリープロジェクトの取り組みを紹介した後半のセミナーでは、盲ろう重複障害の福島智教授や星加良司さん、大河内直之さんら支援技術を活用している視覚障害のある同僚研究者を取り上げ、障害者雇用における合理的配慮について解説した。

     その中で近藤さんは、視覚障害者は点字ディスプレーや点字プリンターを使って活字資料を点字化して健常者と情報共有ができること、盲ろうの福島さんは指点字によるリアルタイムの通訳を受けることで教授会でのコミュニケーションが可能になっていることなどを説明した。

     その上で近藤さんは「障害者のニーズは同じ種別でもさまざま。点字がいい人、音声、拡大、個人によって使いやすい手段は違うため、合理的配慮においては本人の希望を尊重できることが大切」と話した。

     また17歳から50歳までの障害者職員30人中、肢体障害、自閉症スペクトラム、統合失調症がほぼ3分の1を占めており、電子教科書の制作やソフト開発など作業内容は多様であることを説明した。

     その上で近藤さんは「通勤の難しい障害者にはクラウドやスカイプなどの活用で在宅勤務ができるような仕組み、週40時間フルタイムで働くのが難しい障害者を複数組み合わせてカウントできるようなワークシェアの仕組みを設けることが望まれる」とした。【岩下恭士】

    ◆動画:近藤准教授による国際福祉機器展アルテク講座