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5月30日 ラ・リュミエール

 27日に全国公開された河瀬直美監督の映画「光」(ラ・リュミエール)を初日に見ました。視力を失いつつあるカメラマン、中森雅哉(永瀬正敏さん)と音声ガイド制作に打ち込む尾崎美佐子(水崎綾女さん)のラブストーリーで、音声ガイドをテーマにした映画ということで、視覚障害関係者らの間でも大きな話題を呼んでいます。日本の映画業界では昨年から、劇場公開される新作映画に視覚障害者向けの音声ガイドと聴覚障害者向けの日本語字幕を付ける取り組みが始まりました。

     「光」は今年のカンヌ国際映画祭でコンペティション部門にノミネートされ、公式上映されました。日本時間29日未明に発表された最高賞パルムドールの受賞は残念ながら逃したものの、「音声ガイド」という映像メディアのバリアフリー化の取り組みが一般のメディアに大きく取り上げられた功績は大きいと思います。同映画祭では、キリスト教関連団体らが選ぶ、精神世界を深く掘り下げた作品に贈られるエキュメニカル賞を受賞しています。

     音声ガイドは、「UDCast」(ユーディーキャスト)と呼ばれるiPhoneアプリを利用します。「光」の音声ガイドデータは事前にアプリからダウンロードしておきます。不安だったのは、果たして公開初日から音声ガイドが利用できるかということ。またそれ以前に、僕が自宅から一人で行ける映画館で「光」の上映があるかということでした。早速、ネットで検索すると、家から近く、僕が場所を知っているTOHOシネマズ六本木ヒルズやTOHOシネマズ渋谷では見当たりません。見つけたのは渋谷のシアター・イメージフォーラム。早速、前日に電話で確認すると、「iPhoneをお持ちでしたら専用アプリをダウンロードしてください」と言われたので安心しました。

     音声ガイドは「小学生の集団」「信号が変わるのを待つ人々」のように、本編のせりふにかぶらないように、場面や登場人物の表情などをナレーションするサービス。場内ではどこに座っていても、イヤホンからこれが聴けるのがうれしいです。ただし、iPhoneの機内モードをオンにしておかないと、上映中に電話がかかってくることになります。

     私見ですが、映画というものは非日常を疑似体験することで感動を味わえるものだと思っています。だから僕のような中途失明の全盲者にとっては、作品自体は正直、さほどインパクトはありませんでした。僕らにとって失明は日常だからです。その意味では、ストーリーにもう少しユーモアのセンスがあったらと惜しまれました。例えば、出かけた飲食店が入っている商業ビルなどで、間違えて女子トイレに入ってしまい、「キャー!」などと叫ばれてしまうことがあります。すかさず僕は「全然見えないのでご心配なく!」と弁明して出てきます。これから失明する雅哉にはそんな余裕はないかもしれませんが。

     一緒に見た男性ガイドヘルパーの評価では、白杖歩行や右腕につかまって歩く誘導歩行などは忠実に再現されているようでした。しかしラブロマンスとしてのリアリティーを考えたとき、2人の意見が一致したのは「美佐子みたいに、視覚障害者としてまだ自立もしていない盲目の中年男性に恋するほど親身になるような若い美人は、現実にはいるまい」ということです。その意味では非現実体験が十分楽しめる作品と言えるでしょう(笑い)。【岩下恭士】