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ユニバ・トーク

5月14日 タイピスト

 2012年公開のフランス映画「ポピュレール(邦題:タイピスト!)」。1950年代、田舎娘の主人公、ローズ・パンフィル(デボラ・フランソワ主演)はパリでの華やかなOL生活を夢見て保険会社の社長秘書に応募。タイピングの能力を認めた上司と組んで世界早打ちタイピングコンテスト優勝を目指すというストーリー。ちなみに「ポピュレール」は作品中に出てくる新型タイプライターの商品名。

     この映画、動画配信サービスのネットフリックスが利用できるiOSアプリでは、音声を原語と吹き替えに切り替えて再生できるためフランス語のリスニングを鍛えるにはもってこいだ。残念ながら視覚障害者向けにシーンを説明する音声解説はなかったが、会話部分の多い作品なので、想像力を働かせれば音だけでも十分楽しめる映画だ。

     50年近く前のこと、10歳で僕が失明したときに真っ先に親が買ってくれたのが英文タイプと仮名タイプだった。音声読み上げ機能のあるパソコンもスマートフォンもない時代。全盲者が自力で文字を書いて目の見える相手に発信できる唯一の手段がタイプライターだったからだ。

     映画ではローズが1分間で512文字という壁を破れるかが注目されていた。フランス語の場合は同じEでも3種類のアクセント記号があるため、それだけ時間がかかると思うのだが、そのあたりは映画の中では触れられていなかった。ちなみに僕の場合は英文タイプの聞き書きで1分間300字くらいだったと思う。今日では、就職試験でタイピング能力が重視されるという話は聞かない。聴覚障害者向けにテレビの音声をリアルタイムに字幕入力するスピードワープロ(英語ではステノグラファー)も音声認識技術の発達で不要になりつつある。どんなに人工知能(AI)が進歩しても人間が評価される社会であってほしい。【岩下恭士】