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ユニバ・リポート

障害当事者が講義--芝浦工大で「福祉と技術」テーマに

写真=学生の質問に答える小野塚さん

 障害当事者が自身の生活で困っていることを紹介して、受講生が技術によって解決できることがないかを考える授業科目がひそかな人気を呼んでいる。講座を開いているのは、工学部、システム理工学部、デザイン工学部、建築学部の理工系4学部を持つ芝浦工業大学(村上雅人学長)。福祉専門学部を持たない理工系エンジニアの育成を主眼とする私立大学で、障害者の利用を視野に入れたユニバーサルデザインの製品開発や支援技術の考え方を障害当事者による講義で紹介する大学科目は珍しい。

     学部1年生から4年生を対象に同大豊洲キャンパスで開講されている「福祉と技術」は、前期14回、後期14回、同一内容。担当教授の工学部人文社会科目の中村広幸教授のほか、肢体・視覚の障害当事者や聴覚障害者支援者らがチームで開講している。車いすやアイマスク着用による全盲擬似体験など実技体験も含まれるため、履修学生数は30人以下に絞られている。

     7月5日に行われた体験授業「肢体不自由当事者の話を聞く」では、車いす使用で発話障害のあるNPO法人「風の子会」理事の小野塚航さん(46)が特別講師として参加した=写真。

     講義は受講生から質問を受けて、回答は小野塚さんがパソコンのキーボードを右手の人さし指だけを使って文字を打ち込む対話型式で進められた。また小野塚さんは当日、歩きスマホと飲食店での他の客からの施しについて配布資料を用意して問題提起し、全員でディスカッションを進めた。

     このうち、歩きスマホについて小野塚さんは狭い歩道を電動カートで移動中、前方から歩きスマホをしながら向かってくる歩行者とぶつかりそうになった経験を披露したうえで、罰則規定を設けるなど歩きスマホの取り締まりについて受講生の意見を求めた。また飲食店で他の女性客から「がんばってね」と言われて1万円を渡された体験を紹介し、「善意として受け入れるにはあまりにも高額で、障害があっても自立している自身の尊厳が傷つけられた」と気持ちを伝えた。

     これに対して受講生からは「スマホの画面を見るだけなら危険は少ない。危ないのはSNSなどの入力操作をする人」「地図や電車の時刻表アプリのチェックなど危険性よりも便利さの方が優先される」「駅のホームや階段などではスマホをいじらない方がいい」などの意見があった。

     また飲食店での体験については「励ますのはよいこと。でもお金を渡すのは違うと思う」「おばさんと小野塚さんの価値観が違っただけ。ありがたくもらっておけば」「かわいそうな人を助けたい一心で1万円出したのかもしれない。素直に受け取れば」などの意見が出された。

     「福祉と技術」講座について中村教授は「ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(すべての人を分け隔てせずに包摂すること)の実現に取り組む学長はじめ大学の姿勢から生まれた授業。特に社会に貢献する技術者を育成する上でも重要な課題だという認識が全学にある」と言う。また、「街中で障害者を見ても気づかない人が多い。交通事故で自分が障害者になることもあり得る。この講座を通して障害者や高齢者を人ごとと思わない社会を実現できれば」と期待している。【岩下恭士】