◇ブラインドタッチでiPhone 3GSを活用--ミツエーリンクスアクセシビリティエンジニアの辻勝利さん
6月に発売されたアップルの新型携帯端末「iPhone 3GS」。タッチパネルの採用で画面に触れるだけでさまざまな操作ができる点が携帯電話の一潮流になるほどの大きな話題を呼んだ「iPhone」の最新モデルだ。
だが「3GS」の最大の特徴は、ディスプレイ上の操作ボタンに凹凸がないために全然使えないという視覚障害者からの苦情に応えて同社のPC用スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)「VoiceOver」を導入するなど、多様なユーザーの使いやすさ「アクセシビリティ」に配慮した点だ。
自身全盲ながら発売と同時にこの新端末を購入した辻勝利さん(36歳)。文字通りブラインドタッチでいつでもどこでもメールやツイッター、ポッドキャストやユーチューブにアクセスして世界中の最新IT情報をキャッチしたり、海外のアクセシビリティの専門家らと情報交換しているという。先天盲で高校まで盲学校で学んだあと、ゲームのプログラマーを目指して筑波技術短期大学(現筑波技術大学)に進学した。現在、ミツエーリンクスのエンジニアとしてアクセシビリティの啓発活動に従事する。
「福祉機器ばかりに依存せず、視覚障害者もどんどん一般の技術を試してみてほしい」と訴える辻さんにiPhone 3GSで実現するユニバーサルアクセスについて聞いた。
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岩下 最初に、点字表示装置や音声パソコン、携帯電話など普段のIT活用状況を教えてください。
辻 普段は主にJAWSをメインのスクリーンリーダーとして使用しています。音声読み上げとブレイルメモを使って作業をしています。先天性の全盲のわりに点字を読むのはあまり早くはないのですが、音声で足りない部分を点字ディスプレイで補っています。
ほかに、開発中のウィンドウズ用スクリーンリーダー「NVDA」(ノンビジュアルデスクトップアクセス)日本語版やPC-Talker(ピーシートーカー)、Focustalk(フォーカストーク)などを使用しています。
岩下 携帯電話とかモバイルの端末はいかがですか?
辻 携帯電話は、先日までドコモのらくらくホンプレミアムを使用していました。音声読み上げのできる携帯電話はこれまでに、らくらくホンのほかにauの読み上げ携帯を使用してきました。
岩下 次に、Macパソコンの利用などアップル製品の活用状況をお聞かせください。
辻 現在、特に日常的にMacを使用しているわけではないのですが、機会をみつけてじっくり使ってみたいと考えています。実は、すでに最新OSのLeopard(レパード)を購入して持ってはいるのですが、まだPCがないために箱にしまったままです(笑)。
Mac OSはスクリーンリーダーのユーザーが、独力でインストールして使い始めることのできるOSと聞いていまして海外のPodcastで実演を聴きました。自身でも近いうちにぜひ試してみたいと考えています。
岩下 Windowsとの大きな違いは何だと思いますか?
辻 パソコンを購入したときから、コマンドキー+ファンクション5でスクリーンリーダーのVoiceOver(ボイスオーバー)を起動できることでしょう。後から組み込むタイプのWindows用スクリーンリーダーと違って、もともとOSに組み込まれているので、動作が安定している印象があります。特に、アップルのブラウザー「Safari」の見出しジャンプ機能は使いやすいので、サイト側で「本文へジャンプ」といったナビゲーションを設ける必要がありません。
岩下 iPhone 3GSは「日本語が入力しづらい」とのことですが、具体的にどういう点ですか?
辻 一番の問題は詳細読みがないことです。現状では漢字の変換は自動修正の結果を信じるしかないので、変換が難しそうな言葉はできるだけひらがなのまま確定するようにしています。「長音」はローマ字入力で「l」の横に何も読み上げないキーがあったんですけどつい最近発見しました(笑)。文字読みモードにすると、メールの本文などは一文字ずつ読み上げます。
ローマ字入力の際は、押したキーの名称を「A」や「I」のように読んでくれるのですが、別の日本語キーボードでかな入力をしようとすると音声では不思議な読み上げがされてしまうのも不便だと感じています。なんとなくですが、ローマ字入力させられている分、押さなければならないキーの数が増えて、損をしているような気がしています(笑)。
岩下 英語版は使いやすいと?
辻 でも、大文字と小文字の区別は音声ではできません。入力時はシフトキーを押すと「シフト・選択」と読み上げられるので、大文字を入力しようとしていることが確認できますが、自動修正という便利そうで厄介な機能がありまして(笑)、勝手に単語の頭を大文字にされたりすることがあります。でも、アウトルックのアドレス帳と同期させられたり便利な面もあります。
岩下 基本操作は、画面レイアウトが頭に入っていれば、画面を見なくてもけっこうタッチパネルを操作できると思いますけど?
辻 電話が左、中央が時計のステータスなどアイコンの配置は決まっていますので、それをあらかじめ知っておけば可能です。私の場合は購入してから1カ月間、通勤電車の中で練習しました。
岩下 音声入力を使えば、iPodの選曲とか電話をかける相手を呼び出すときなどは指で操作するより早いのでは?
辻 電車の中や社内など屋外で使うのがほとんどですから、声で操作するのは恥ずかしいです(笑)。iPhoneにはスクリーンカーテンという機能があって、操作中でも画面が見えないようにできます。周囲の晴眼者から見れば何やってるんだろうと思われるかもしれませんけど(笑)。
岩下 操作が難しいと思ったことは?
辻 電話機として考えると、電話が使いにくいですね(笑)。数字はプッシュホンの配列なんですけど、ダブルタップ(2度押し)しないと確定されませんから、ずれないように2度同じ数字を押さなければなりません。
岩下 今話題のツイッター(twitter)にも3GSを利用されているということですが?
辻 友達のつぶやきを受信するタイミングを設定できるんです。私は3分にしています。パソコンでは、スクリーンリーダーのJAWS用のツイッタースクリプトがありまして、毎日たくさんの友達のつぶやきを読み上げで確認しています。iPhone用のツイッター閲覧ソフトもたくさんありまして、どれが読み上げで使いやすいか研究中です。ボイスオーバーで読まないボタンがあったりしますので。
岩下 そもそも、ほかのアクセシブルな製品、たとえばらくらくホンなどが選べる中で、なぜ iPhoneを選んだのでしょうか?
辻 一番の理由は、好奇心だと思います(笑)。確かに、確実に目的を達成できる可能性の高い、既存の読み上げ携帯はすばらしいと思います。しかし、たとえばWebコンテンツは携帯電話向けに作られたものしか閲覧できなかったり、iアプリに対応したとはいえ、らくらくホンプレミアムでは使用できないアプリも少なくなかったりと、機械好きの私の好奇心を満たしてくれるようなデバイスではありませんでした。そんなことから、少しくらい使いづらくても、いろんな可能性がありそうなiPhoneを使ってみたいと考えました。
本来なら確実に使いこなせるらくらくホンと、iPhoneを両方使い分けて生活することがベストだとは思うのですが、経済的にもそれは難しいと思います。また、もしらくらくホンを使える状態にしておくと、忙しいときなど結局それに頼ってしまって、なかなかiPhoneを使いこなせるようにはなれず、最終的には買ったことを後悔してしまうような気もして、iPhoneだけを使うことにしました。
岩下 視覚障害者がこの端末を使う意義は何でしょう?
辻 とても難しい質問ですが、もし一つのデバイスをさまざまな用途に使用したければ、iPhoneはとても便利な機器だと思います。でも、iPhoneを使うということは、ちょっとした冒険でもあると思います。すべての視覚障害者の方々にお勧めできる機器ではないように思います。
岩下 今後、さらに充実を、あるいは追加を望む機能についてお聞かせください。
辻 音声読み上げのための辞書が簡単に作れるような仕組みが早くほしいです。特に日本語の読み上げ音声ではわかりにくい表現が多くて、自力でもなんとかできるようになればうれしいなと思っています。また、簡単に読み上げ言語を切り替えられるような機能があるといいですね。英語のドキュメントは英語の音声で読んでもらって、普段は日本語で操作できたら便利だと思います。
◆動画:iPhoneを購入してみて
写真2:iPhoneを手にインタビューに答える辻さん
岩下 モバイルの可能性の一つに歩行ナビゲーションが挙げられます。iPhoneのナビ機能をどう思いますか?
辻 実は、ほとんどが会社と自宅の往復の毎日のために、まだ十分に試せてはいません。ですが、海外では今いる通りの名称などを教えてくれるようなアプリもあるようなので、道に迷ってしまったときの助けになるのではないかと考えています。らくらくホンと同じくらい、歩行の目安となる音声ナビゲーション機能が使えると便利ですね。
岩下 ゲームについて、視覚障害者も楽しめるものがありましたらご紹介ください。
辻 iPhoneのゲームは、実際にiPhoneを振ったりして遊ぶものがあっておもしろいと思います。今、私はボウリングと卓球をやっているのですが、他にも音で遊べる野球やテニスがあるそうです。
また、Simon Singsというちょっと変わったゲームもおもしろいと思います。音を聞きながら、それと同じ音階で声を出すと、それを認識してゲームが進んでいくものです。
岩下 らくらくホンプレミアムではカプコンの格闘ゲーム「ストリートファイターZERO」が音だけでもそれなりに楽しめるようですが、3GS向けに音で楽しめる対戦型のゲームはありませんか?
辻 残念ながらまだ見つけていません。
岩下 最後に、今後、入手したいあるいは開発を望む端末などありましたらお聞かせくだ さい。
辻 点字のセルの数は少なくてもいいので、点字と音声の両方で画面内容を確認できるような安価な機器があれば使ってみたいです。
【岩下恭士】
<辻さん推薦のiPhoneアクセシビリティ関連サイト>
・iPhone User Guide
iPhoneでも閲覧できる、シンプルなユーザーガイドです。日本語では、まだ同様のコンテンツは用意されていないようです。
・VoiceOver Compatible iPhone Applications--Lioncourt.com
iPhoneのVoiceOver環境で利用可能なアプリケーションが紹介されています。
・VIPhone
海外の視覚障害iPhoneユーザーが情報交換をしているメーリングリストです。
・VOA Top-VOA
日本語でiPhoneやMacのVoiceOver関連情報が公開されている情報サイトです。
2009年8月20日