/293止 馳星周 画 田中靖夫
これを送ってくる前に、知子はスミレとはどういう意味かと改めてわたしに訊(き)いてきた。 わたしはもう一度、マーク・トウェインの言葉を教えてやった。真波がその言…
馳星周さんの新連載小説「スミレの香り」です。犬の訓練士をしていた男が、愛犬と各地を旅ししつけ教室などを開いている中で、事件に遭遇します。馳さんは1996年に「不夜城」でデビューし、人間や社会の暗部を描いてきました。今作では「許しについて書いてみようと思っている」と話しています。
これを送ってくる前に、知子はスミレとはどういう意味かと改めてわたしに訊(き)いてきた。 わたしはもう一度、マーク・トウェインの言葉を教えてやった。真波がその言…
わたしは牧場主の言葉に甘え、キャンピングカーを放牧地の出入り口の脇に停(と)めて、そこで寝泊まりしていた。 夜はもちろん、昼間も静謐(せいひつ)で、聞こえるの…
「山に行こう。もう、東京はうんざりだろう?」 声をかけると、カムイがわたしを見上げた。なにも変わることのない円(つぶ)らな瞳がわたしの心を和らげてくれる。 カム…
わたしは看護師からリードを受け取ると、その場にしゃがんだ。飛びついてくるカムイを優しく抱きしめた。 カムイは痩せて、肋骨(ろっこつ)が浮き出ている。手術のため…
「どうやったのかは知らないけど、あなたがカムイをけしかけたんでしょう? わたしは撃つつもりなんてなかったのに--」「早く外に連れ出せ」 津田が吉澤祥子の声を遮っ…
「マルヒ二名を確保。救急車を呼んでください。人質が被弾しています。それに、犬も」 わたしは膝からくずおれた。震えが止まらず、体に力が入らない。「了解」 津田が無…
「かけてくれ」 津田が言った。わたしはリダイヤルで電話をかけた。呼び出し音が二回鳴ったところで電話が繋(つな)がった。「なんの用?」 わたしは犬笛を短い間隔で二…
黒塗りのワンボックスカーが三台、こちらに向かって走ってくる。三台は非常線の手前で停止した。中から、武装した警官隊が降りてくる。SAT――特殊部隊だ。 津田が戻…
それっきり、パソコンからはなにも流れてこなくなった。かすかに流れてくる音は、テレビのニュース番組のもののようだった。吉澤祥子はドローン爆弾の成果を知りたがって…
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