
物事の「喫水線」やその下にも目をこらしつつ、日本のいまを地方から眺めたい――。井上英介記者のコラムです。
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中山間集落は滅ぶべきか
2023/9/9 02:01 2074文字島根県奥出雲町を目指してアクセルを踏み続けた。一人の専業農家に会うためだ。町は八岐(やまたの)大蛇(おろち)伝説の舞台で、山が深い。その日はちょうど梅雨入りで土砂降り。濃霧で視界もきかず、初めての山道は心細かった。 ハンドルを握りながら、私は農家が農水省に出した政策提言の内容を反すうしていた。 国
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再論~答えのない安楽死
2023/8/12 02:00 2055文字5月13日の本コラム「安楽死は正解のない哲学」で、認知症が進んだときの安楽死の是非について書いたところ、多数の反響をいただいた。一般の読者では安楽死を望む声が多く、福岡県の100歳の女性は「自分の死は自分で決めるべきだ、というのが私の信条だ」と寄せた(5月26日みんなの広場「安楽死、真剣に議論すべ
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アイドルは偶像にあらず
2023/7/8 02:00 2123文字私の世代は幼いころ山口百恵や西城秀樹に夢中になった。当時、アイドルはテレビ画面の向こうにいて私生活はうかがい知れなかった。今やSNS(ネット交流サービス)で私生活の一端をたやすく知ることができるようになったが、ファンとは一定の距離がある。そんな東京発のメジャーアイドルとはまるで異なる「地域アイドル
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大空へ飛べ!デロリアン
2023/6/10 02:02 2083文字映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主人公は、米車デロリアンを改造したタイムマシンで時空を旅する。これと似た車を作ろうと、四国の田舎で苦闘を重ねる研究者がいる。むろんタイムマシンはSFで、目指すは空飛ぶ車。プロペラ付きのタイヤが水平に倒れて浮く仕組みがそっくりだ。里山と水田が広がる徳島県南部の
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安楽死は正解のない哲学
2023/5/13 02:01 2101文字西日本のある地方都市で高齢の認知症患者を長年診ている精神科医(59)と、じっくり話をする機会があった。「認知症だけは勘弁してほしい。自分が家族に迷惑をかけるくらいなら死んだ方がましです」。深く考えず感想を口にした私に相手は同意し、こう言った。「私は医師ですが、安楽死を肯定しています」 ドキリとした
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お遍路は江戸期の「福祉」か
2023/4/8 02:01 2132文字海に浮かぶ船は、喫水線(きっすいせん)(船体と海面が交わる線)の下に沈んで見えない部分に支えられている。物事の喫水線やその下にも目をこらしつつ、日本のいまを地方から眺めたい。 ◆ なにしろ神仏に関心が薄い。初詣も面倒に感じる罰当たりな私だが、還暦も近づき、昨年春に徳島へ赴任してお遍路に興味を