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領海の備えをどうすべきか

山田吉彦 東海大学海洋学部教授

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国境離島を守る隙のない警備態勢とは何か

サンゴ密漁船で露呈した脆弱な海上警備

 2014年秋、200隻を超える中国漁船団が小笠諸島海域に姿を現した。高価な赤サンゴの密漁が目的であったというが、中国の港から2000キロ以上も離れているため燃料代も嵩み採算が採れるものではない。さらに最新のレーダーを装備している船も多く、また、日本の漁船に近づき姿を誇示するように大胆な行動をとるなど、単なる密漁船とは考え難い。日中首脳会談を控えての時期(*1=編集部注)でもあった。

     海上保安庁は、尖閣諸島周辺海域に巡視船を重点配備しているため他の海域の警備が手薄になっているのは否定できない。小笠原沖では、200隻を超える密漁船に3隻の巡視船と2隻の漁業取締船でしか対応できず、日本の海上警備体制の脆弱性を露呈することになった。

     内閣官房総合海洋政策本部は、2014年8月、領海および排他的経済水域の基点となる158の国境離島の名称を発表した。国境離島に名を付けることが、領有権確立の第一歩ということだろう。しかし、国連海洋法条約では、「人の居住もしくは経済生活が送れないものは、岩であり排他的経済水域および大陸棚を有しない」と規定されている。国境離島に名を付けたとしても、人の居住あるいは経済行為がなければ排他的経済水域の主張はできないということだ。この二つの条件が実効支配の鍵であり、管轄海域を主張するための最低条件とみなされている。島で人が暮らすか、漁業あるいは海底資源開発などの経済行為の基点として活用しなければ、海の権益は認められないのである。漁業や海洋資源開発を推進するためには、沿岸域の海洋警備体制を構築する必要がある。実際に東シナ海で漁を行う沖縄県や長崎県の漁民は、中国警備船の出没や大規模な漁船団の圧力に怯え、出漁を控えることも多い。

    あわや離島占拠という事態が現実に

     今回の小笠原事案の他にも中国の漁船が、離島の住民の生活を脅かす事態があった。2012年7月、五島列島の玉之浦に総勢2000人を超える漁民を乗せた106隻もの漁船が進入した。台風の緊急避難という名目だが、日中の漁業境界線から100キロ以上も離れた湾に入域することは不自然である。中国漁船団は、8月にかけ3回も玉之浦に進入している。この年、7月、民主党政権は尖閣諸島国有化を目指すことを発表し、中国政府は猛烈に抗議行動を起こした。そして8月末、政府は国有化の後、島の積極的な管理施策をとらないこと決定した。このプロセスと中国漁船団の動きが附合する。小笠原事案でもいえることだが、漁船団の動きと日中関係の動向がリンクされているようだ。

     外国漁船団が日本の沿岸に登場しても、現行法および制度では対応することに限りがある。まず、漁船団の自由通航を阻止できる法は無く、上陸を開始しない限り海保も警察も手が出せないのだ。しかも、離島において数百人、数千人の違法入国に対応できる警備人員はいないのである。また、機動力を持つ自衛隊は、相手が漁民では出動することも許されない(*2)。これがグレーゾーンであり、日本の離島警備の盲点である。

     今後、自衛隊と海保、警察の連携強化、外国船の侵入に対し素早く対応できる法制度の創設が求められる。洋上においては、海自艦が警戒に当たり、その船に海上保安官が同乗し法執行に備えることも必要であろう。

     機動力を持つ海上安全保障体制を構築するとともに、領土、領海の危機を未然に防ぐ法制度の創設が急がれる。

    【筆者が推薦する基本図書】

    ●山田吉彦『国境の人びと−−再考・島国日本の肖像』(新潮選書、2014年)

    ●山田吉彦『解決! すぐわかる日本の国境問題』(海竜社、2013年)

    ●山田吉彦『驚いた! 知らなかった日本国境の新事実』(実業之日本社、2012年)

    【編集部注】

    *1 日中首脳会談を控えての時期

    2014年11月10日、安倍晋三首相は、北京の人民大会堂で習近平中国国家主席と約25分間、首脳会談を行った。日中両国の本格的な首脳会談は、2011年12月に野田佳彦首相が胡錦濤国家主席と会談して以来、約3年ぶりである。尖閣や靖国問題で溝を深めていた日中両国は、首脳会談実現のために7月頃から水面下で折衝を重ね、「戦略的互恵関係を引き続き発展させていく」など、4項目で合意した。

    この合意の内容が公表されたのは、首脳会談の3日前(11月7日)だった。ぎりぎりまで事前折衝が続いたのは、中国側が、首脳会談の実現を条件に、尖閣諸島における領土問題の存在を認めることを要求したからだといわれる。いうまでもなく「尖閣諸島について領土問題は存在しない」というのが日本の立場だ。尖閣から遠く離れた小笠原海域に、まるで日本の海保の警備力を試すかのように赤サンゴ密漁船団が現れたのは、9月から11月初めにかけて、ちょうどこの事前折衝の時期と重なる。筆者の山田氏は、中国漁船団の出現を「中国の要求を受け入れて尖閣の問題を認めなければ、日本の海を混乱に陥れるという脅迫行為とも受け取れる」(産経ニュース2014年11月6日付)と分析した。実際、4項目の合意の3つ目には、「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて両国が異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐとともに、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」ことが盛り込まれた。

    *2 相手が漁民では出動することも許されない

    自衛隊法の82条には、「防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のための特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において特別な行動を取ることを命じることができる」と、海上における警備行動につい規定している。

    海上警備は海上保安庁も任務としているが、その違いは、自衛隊は「有事の防衛」、海上保安庁は「平時の海上警備」とされている。したがって、たとえば不審船が領海を航行中というだけで、防衛大臣がすぐに海自に海上警備行動を命令することはない。推移を注視し、不審船が強力な武器を所持しているなど「海上保安庁の巡視船では対応できない」と判断された場合に初めて、出動命令が出されることになる。

    1952年に海上警備隊(54年に海上自衛隊)が創設されて以来、防衛大臣から海上警備行動が発令された事案は、これまで3件しかない。最初の事案は、1999年9月、能登半島沖で起きた北朝鮮の工作船と思われる不審船の事件。2件目は、2004年11月の中国の漢級原子力潜水艦領海侵犯事件。3件目は2009年1月から始まったソマリア沖の海賊対策。浜田靖一防衛大臣(当時)が海上警備行動を発令し、海自艦が派遣された。海上自衛隊60年の歴史の中で3件しかないのは、いうまでもなく歴代政権が有事に発展するのを恐れ、慎重に対処してきたためである。

    Profile

    やまだ・よしひこ 1962年千葉県生まれ。学習院大学経済学部卒、埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。日本船舶振興会(現・日本財団)時代はマラッカ海峡の海上安全航行を研究。2009年より東海大学海洋学部教授。専門は海洋政策。国境周辺の離島の現状や海上安全保障、海賊対策などについての活発な発言が評価され、このほど正論大賞新風賞を受賞。『国境の人びと−−再考・島国日本の肖像』『侵される日本』『海のテロリズム』『日本は世界4位の海洋大国』『日本の国境』など著書多数。

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