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一極社会

東京と地方/8 買い物弱者を救え 民間力が支える足

スーパー「やまと」が運営する巡回バスに買い物に訪れ、スタッフ(右)と談笑する住民=山梨県韮崎市で、武市公孝撮影

 地方都市で試行錯誤が続く街のコンパクト化。その陰で、周辺部の高齢者を中心に買い物に行くのが困難な「買い物弱者」が急増している。採算性の論理で切り捨てられる恐れもある生活インフラ。民間企業の工夫でかろうじて維持している二つのケースを報告する。【金森崇之、鈴木敦子】

    笑顔運ぶ格安タクシー/やって来るスーパー

     ワゴン車に、お年寄りが次々と乗り込んでいく。北九州市八幡東区の枝光本町商店街。地元の「光タクシー」が2000年から始めた乗り合いタクシーだ。大型バスが通れない曲がりくねった坂道を定員12人で走る。運賃は一律150円だ。

     枝光本町は、旧八幡製鉄所に隣接していた。労働者は工場を望む近くの高台に一軒家を建て、商店街を歩いて製鉄所に通った。だが、1970年代に八幡地区から高炉の火は消えた。

     八幡東区が現在の行政区になった74年に約13万人だった人口は今は約7万人。同市の高齢化率は14年3月末現在で27・2%。政令市の中で最も高く、中でも同区は32・6%に達する。

     光タクシーの石橋孝三社長(52)は「町が干上がっていく池のように見えた」と振り返る。光タクシーも製鉄所や関連企業向けの配車がほとんどだったため、苦境に陥った。「商店街がなくなれば会社の未来もない」と高齢者向けの乗り合いタクシーを思い立った。

     乗り合いタクシーは2台で、商店街から1〜2キロ離れた住宅街(5ルート)を20〜30分おきに巡る。住宅の壁などに100〜200メートル置きに張られた時刻表が停留所代わりだ。06年には近くに大型ショッピングセンターができたが、タクシーはそこには向かわず、鮮魚店、精肉店、薬局など約70店が集まる商店街にお年寄りを送り届ける。

     昨年末、商店街で買い物袋を抱えた古田千代さん(82)に声をかけると、「美容院にも行ってきたの」とうれしそうに帽子を取った。夫が製鉄所の元社員で、高台に家を建てた。今は1人暮らしで週に1回タクシーを利用する。「見晴らしがいいと喜んで建てたけど、こんなに山坂に苦労するとは。タクシーがなかったら商店街には来られないね」

     乗り合いタクシーの利用者は、02年度に12万6000人だったが13年度は7万人。地元自治会からの年間50万円の寄付金、車両更新時の市からの300万円の補助金、通常のタクシー65台の売り上げなどで赤字にならないよう工夫している。

     02年の道路運送法の改正で、路線バスの撤退が自由化された。交通空白地域の拡大を避けるため、06年に再改正され、タクシー会社などでもコミュニティーバスや乗り合いタクシーを運行することがさらにしやすくなった。

     石橋社長は「通常のタクシー1台の売り上げの1・5倍程度を乗り合いタクシー1台で得られるのなら採算はとれるし、どの地域でも導入できる」と話す。

          ◇

     山梨県では、高齢者の元に商品を届ける「巡回スーパー」がある。県内でスーパー12店舗を経営する「やまと」は12年、買い物に出づらい人を支援するため、本社のある韮崎(にらさき)市の周辺部で、中型バスによる移動販売を始めた。車内には生鮮品や菓子、総菜が積まれ、助手席にはトイレットペーパー、通路にはミカン箱が並ぶ。数は少ないが品ぞろえは豊富だ。

     バスが着くと、近くの家から秋山幸子さん(61)が財布を持って出てきた。「おいしい刺し身があるよ」。運転手兼販売員の藤井明さんが勧める。天ぷらの盛り合わせ、ポテトサラダなどをかごに入れ、会計を済ませた。最寄りの店まで約2キロ。自分では運転しないため、夫に先立たれた途端、買い物に困るようになった。同居する夫の母(88)の介護もあり、遠出は難しい。「食べる物は手にとって見たい。来てもらえて本当にありがたい」

     「スーパーは地域を支えるインフラ。なくすわけにいかない」。やまとの小林久社長(52)の信念だ。赤字でも運行を続けている。移動販売車の他にも、買い物弱者対策に知恵を絞る。その一つが、ライバル店が撤退したスーパーの跡地を使う「居抜き」という出店スタイル。建物だけでなく元従業員を再雇用し、元の店の総菜の味を引き継ぐこともある。「郊外に大型店ができて周辺がにぎわう。土地の値段が上がり、行政は喜ぶかもしれない。でも、裏ではもともとあった店がつぶれ、その店のお客さんが買い物弱者になる。同じように税金を払っているのに不公平だよね」。インフラを担おうとしない行政への不満がちらつく。

     最近は経営悪化で閉店したスーパーやコンビニの再建依頼が後を絶たないが、黒字が見込めなければ断る。近くに大型店が来れば撤退し、無用な競争で体力を擦り減らさない。「韮崎で100年以上商売してきた。長年うちで買ってくれた人に恩返ししたい。『ばあちゃん待ってろ、俺が行く』ってね」

     農林水産省によると、全国で買い物弱者は年々増えている。対象者を「店舗まで500メートル以上で自動車のない65歳以上の高齢者」とすれば、推計で10年は382万人、25年には598万人となる。特に、首都圏で影響が大きいと見込まれている。同省の調査では、対策が必要だと考える自治体の約7割で乗り合いタクシーや宅配サービスを導入済みだが、北九州市や山梨のように民間企業の「社会貢献」に頼っているのが実情だ。

          ◇

     一極社会の進行とともに顕著になりつつあるほころび。地方創生を掲げる政府の総合戦略では、アクションプランの中で買い物弱者を課題の一つと位置づけたものの、対応については具体策に乏しい。=つづく


     ■再生のカギ

    ・乗り合いタクシーはどこでもできる

    ・スーパーは地域のインフラ

    ・少しの工夫で採算とれる

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