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一極社会

東京と地方/9止 田舎だからできる 根付く物作りDNA

眼鏡型端末「グーグルグラス」を付け、鯖江市の職員と「オープンデータ化」の打ち合わせをするジグジェイピー社長の福野さん(左)=福井県鯖江市で、永井大介撮影

 一極社会では地方から働く場所を求め東京に人々が流れ込む。大手企業の半数が東京に本社を置き、雇用機会が少ない地方との格差が、人口減少を招いているとも指摘されている。だが、ここにきて、地方での起業や、企業の機能移転の動きが出始めている。【永井大介、阿部亮介】

     「鯖江(さばえ)をシリコンバレーにしたい」。福井県鯖江市にある携帯用アプリ開発会社「jig.jp(ジグジェイピー)」の福野泰介社長(36)が胸を張る。眼鏡フレームの国内シェア9割を誇る市の中心地にあるオフィスビル「めがね会館」の一室。シリコンバレーは、グーグルやアップルを生み出した米国のIT企業集積地だ。人口7万人の地方都市から目指すのは「東京」ではなく「世界」だ。

     市内にある福井工業高等専門学校を卒業後、2003年に24歳で起業。開発したアニメグッズなどを売買できるアプリ「オタマート」のダウンロード数は、サービスが始まった昨年3月から累計30万回を超えた。

     従業員は55人。営業のしやすさから、東京・渋谷に本社を置くが、半数以上が鯖江でソフト開発に当たる。福野さん自身も鯖江に住んでいる。出勤は車で5分という職住近接だ。地元での起業を選んだ最大の理由は「インターネットの時代、パソコン一つでどこでも仕事はできる」からだ。加えて、「鯖江に根付く物作りの土壌」だという。

     鯖江で眼鏡作りが始まったのは1905年。農家の副業だった。81年には世界で初めて軽くて丈夫なチタン製フレームの量産化に成功した。中国製の安価な眼鏡が台頭してくると、産地統一ブランドで付加価値を生み出した。眼鏡の製造業者は現在約520。職人たちを見て育った福井高専の生徒たちは、優れたエンジニアの卵だ。「鯖江にはイノベーション(技術革新)を求める人が集まっている。互いに刺激を与え合うことで、世界に通じるものを生み出すこともできると思っている」

     若者の夢を、行政も支える。市のホームページにある「鯖江市内トイレ情報」は、福野さんが作った無料アプリの一つだ。現在地から最寄りのトイレまでの時間や距離がわかる。福野さんの求めに応じ、市が基になる情報を公開した。こうした形で企業や個人が開発したアプリを住民が利用する「オープンデータ化」の取り組みが話題となり、昨年だけで全国から50の自治体が視察に訪れた。

     牧野百男(ひゃくお)市長(73)は「市役所内にとどまらず、若い人からの提案は大事にしたい。人口減少など、これまでの常識、価値観が通用しない時代になっているからこそ、行政も(新事業の失敗という)リスクをとらないと新たな産業は生まれない」と言う。

    「みんなが、もうかる」

     三が日の2日、島根県益田市の大森智彦さん(38)と、妻由紀さん(40)が、隣接する浜田市の民家であったイベントに参加していた。女性用下着「オレンジハーモニー」のデザイナーである由紀さんと、販売担当の智彦さんが商品の魅力を客に伝えた。午前中だけで7着が売れた。「想像以上に売れた。知名度が上がってきたからかな」。由紀さんは手応えを感じていた。

     2人は大手下着メーカーに勤務していた03年に知り合い、結婚。「将来はブランドを設立する」との夢をかなえたのは、技術力に優れた益田市の縫製工場を共通の知人を介して知ったことだった。13年、京都府長岡京市から工場のそばに移り住んだ。

     大消費地である東京での起業は考えなかった。智彦さんは「良い商品を売れば口コミが広がるのは地方のほうが速い」と説明し、「島根の人たちに感謝したい」とつけ加えた。2日のイベントは、下着を購入した女性が誘ってくれた。起業する側、受け入れる側の調和が大切と感じている。

        ◇

     大手建機メーカー、コマツ(東京都港区)は02年、資材や部品を購入する購買部門を、創業地の石川県小松市へ移した。さらに、11年には社員研修などを担う教育部門という本社機能の一部を東京から市内に移した。野路(のじ)国夫会長(68)は「東京の真ん中にいては、現場感覚が失われる。東京には必要最低限の機能しか置いていない」と話す。

     コマツで働く既婚女性の子どもの数を調べたところ、東京は0・7人なのに対し、石川は1・9人に上る。石川で働く加端(かばた)千香子さん(45)は中学生3人を育てる。「通勤時間も短いので時間の融通がつけやすい」、2人を子育てする福野律子さん(46)は「子育てが落ち着いたら海外勤務も経験したい」と話す。

     「少子化対応のために地方を活性化しないとあかん。東京に役所、本社があるから人が集まる。コマツができることは何か。なるべく本社で仕事をやらなければ、地方が潤う」と野路会長は語る。コマツの本社機能一部移転などで、小松市は宿泊や飲食などで年間約12億円の経済波及効果があると試算する。

     コマツは地方での働きがいを伸ばすために、10年から地元出身者らを対象に地方採用枠をつくり、毎年20〜50人前後を採用している。少子化対策や地方活性化にコマツがこだわる理由は何か。野路会長は「自分だけもうかっちゃいかん。社会があって会社が成り立っている。みんなから信頼されていないといかんと社員に教えている。そういうことを意識していれば持続的に成長できる」と語る。

        ◇

     政府は企業が大都市圏から地方に本社機能を移転することを促すため、昨年末に決定した15年度税制改正大綱に、移転企業の法人税減税などの措置を盛り込んだ。しかし、国はどうだろう。首都機能移転の議論が立ち消えになるなど、一極集中を自ら打ち破る姿勢を見せていない。=おわり


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