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Listening

<記者の目>川崎・中1殺害事件/上=大場弘行(横浜支局)

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彼らの方にあと一歩

 川崎市の中学1年、上村(うえむら)遼太さん(13)が殺害された事件の発生から2カ月近くが経過し、殺人や傷害致死の非行内容で家裁送致された17〜18歳の少年3人の少年審判が続いている。世間の関心は既に別のニュースに移ったかもしれないが、私は取材で出会った上村さんの友人のことが忘れられない。もう1年近く中学に行っていない中2の少年だ。友の悲惨な死を目の当たりにしながら、すさんだ生活から抜け出せない子供がいる現実を知ってほしい。

上村さんと似た境遇の遊び仲間

 上村さんは、上級生や他校の生徒と公園やゲームセンターなどで遊ぶようになり、事件のリーダー格の少年(18)らと出会ったとされる。その交友関係を取材する中で、私は中2の少年を知った。年齢は上村さんの一つ上。中学も異なるが、公園でバスケットをして遊んでいるうちに知り合い、仲がよくなったという。

 最初に話を聞いた時は驚いた。髪形も服装もごく普通だが、会話の最中に平然とたばこを吸い始める。注意しても「小学6年から吸ってる」と気に留めない。質問をしても、視線を落としたままスマートフォンを操作している。同世代の若者が目の前を通り過ぎると「見てるとムカムカする」とにらみつけ、こちらを見たと思うと「何か買って」「カラオケに連れてって」とせがむ。

 そんな少年が、意外な顔を見せた瞬間があった。取材にいつも付き添う10代後半の姉の仕事は何かと尋ねた時のことだ。沈黙する姉を横目に、少年は「人身売買だよな」と冗談めかして言った。姉が「風俗です」と答えると、少年は表情をゆがめ、姉に「死ね、お前」と言いながら顔を背けた。

 狭い安アパートで10代のきょうだいだけの生活。母親は数日おきに様子を見に来るが、父親は寄りつかない。食事は1日1食。生活は「スマホいじって、疲れたら寝て、起きたらスマホいじっての繰り返し」。昼夜は逆転し、アパートは上村さんを含めた友人らの夜のたまり場と化した。

 上村さんは一昨年夏、島根県の隠岐諸島・西ノ島から川崎に引っ越して来た。母子家庭できょうだいが多い。母親は生活のために早朝から晩まで働き、アパートを不在にする時間が長かった。

 2人の少年が似ているのは家庭環境だけではない。上村さんは中1の冬休み明けから不登校になったが、少年も中2の初めになると学校から足が遠のいたという。

「面倒臭い」と長期間不登校

 少年は不登校の理由を「面倒臭い」と説明した。上村さんも、周囲には同じように話していた。「何が面倒臭いのか」。私がしつこく問うと、少年は「校則が厳しい」「宿題が出る」「休むと次に行きづらい」「授業が進んでいる」と理由にならない理由を並べた。なぜ学校に行けないのか、本人にも分かっていないように見えた。

 そして、こうも繰り返した。「そろそろ行かないとやばい」。これも上村さんがこぼしていたという言葉とそっくりだった。逮捕された3人は高校を中退するなどしていた。誤解を恐れずに言えば、3人にも似たような時期があったはずだ。

 川崎市教育委員会によると、市内には長期欠席で指導や支援が必要とされる中学生が157人(2月28日時点)いる。少年のスマホには、心配する担任教師が時々電話してくるが、この1年は会ったことはないという。

 子育ての一義的な責任は親にある。それでも、私は少年の話を聞きながら、献花のために殺害現場を訪れたシングルマザーの言葉を思い出した。「甘えかもしれませんが、先生も地域の人も、あと一歩、踏み込んで子供に関わってくれたら助かります」

 何度目かの取材で、私は少年に登校するよう勧めてみた。少年はうなずいて、逆にどうしたら勉強ができるようになるか聞いてきた。その反応に驚いたが、本をプレゼントすることにした。坂本龍馬の立志伝「竜馬がゆく」(司馬遼太郎著)、定時制高校のボクシング部員の姿を描いた「リターンマッチ」(後藤正治著)、元不良少年がさまざまなトラブルを解決する「池袋ウエストゲートパーク」(石田衣良著)。「古本屋に売ってもいいぞ」と3冊差し出すと、少年は「そんなことしない」と真顔で受け取った。

 その後、少年から連絡はない。上から目線のバカなおせっかいだと思う人もいるかもしれない。でも、私は笑われてもかまわない。上村さんや少年のような境遇に置かれた子供のために、あと一歩。そう思ってくれる人が少しでもいれば、それでいい。

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