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<記者の目>北海道知事選と原発再稼働問題=袴田貴行(北海道報道部)
戦術でない言動見たい
「道議会と地元自治体の意見を聞きながら、熟慮を重ねて判断する」−−。昨年4月から北海道政を取材している私は、このセリフを幾度となく耳にしてきた。高橋はるみ道知事(61)が記者会見や道議会で北海道電力泊原発(泊村)の再稼働について問われるたびに、決まって口にする言葉だ。この表現が4期目の高橋道政でどう変わるのか、注視したいと思っている。
与野党対決として全国的な注目を浴び12日に投開票された道知事選では、自民道連と公明道本部の推薦する高橋氏が、民主、維新、共産、社民の道組織が支持・支援した新人の佐藤のりゆき氏(65)を破り4選を果たした。「脱原発」を前面に掲げた佐藤氏は、泊原発の再稼働を容認しないと公約に明記。街頭演説で「今回の知事選は、これからも原発でいくのかどうかの道民投票」と繰り返し、原発問題の争点化を図った。
一方、高橋氏の公約に泊原発に関する記述はなく、街頭演説でも原発について触れることはほとんどなかった。公約発表の記者会見や毎日新聞などが行った候補者アンケートで泊原発再稼働についての賛否を聞かれても、冒頭の決まり文句を繰り返すばかりで議論は深まらなかった。
「明言」と「慎重」、どちらが誠実か
象徴的な場面があった。告示前に開かれた立候補予定者による公開討論会。泊原発の再稼働について「本音を聞かせてほしい」と迫った佐藤氏に、高橋氏は「それほど軽い政策課題じゃない。行政のトップは責任を持って、慎重に判断しなければならない」とかわした。元テレビキャスターの佐藤氏が「現時点では(再稼働を)OKするのかしないのか。どうなんですか?」と詰め寄ったが、高橋氏は「答えは同じでございます」と淡々と答えるにとどめた。
2012年5月から運転を停止している泊原発は現在、原子力規制委員会の安全審査を受けており、高橋氏の任期中に再稼働を容認するかの判断を求められる可能性がある。原発停止の長期化で財務状況が悪化した北電は昨年11月、全国の電力会社で初めて、東京電力福島第1原発事故後2度目となる電気料金値上げに踏み切った。地元経済界から原発再稼働を求める声は強く、道経済連合会などは経済産業省出身の高橋氏に期待して推薦状を出した。
道内世論は「再稼働反対」に傾いている。毎日新聞とHBC(北海道放送)が投票日に行った出口調査では、回答者約3400人のうち、再稼働に反対と答えた人が68%に上り、賛成は29%にとどまった。高橋氏に投票したと答えた人でも、54%は再稼働には反対していた。
リスク説明して態度表明すべし
道民の意見が割れる中、選挙で再稼働反対を声高に主張した佐藤氏と、自らの考えを明かそうとしなかった高橋氏。こうした構図について、吉田徹・北海道大公共政策大学院准教授(比較政治)は「世論は基本的に原発には懐疑的で、脱原発は訴求力の高い争点。業績がなく細かい政策論争では現職に勝てない新人にとって、前面に押し出して風を吹かせられれば優位に立てる。一方、原発をすぐにストップさせる考えがない候補者にとっては、選挙戦術的に旗色を明確にしない方が有利になる」と解説する。
私は取材しながら、再稼働問題について口を閉ざし続ける高橋氏の態度を不誠実だと感じた一方、「脱原発」を連呼した佐藤氏についても付け焼き刃的な主張ではないかと違和感を覚えてきた。吉田准教授にそんな感想をぶつけると、「賛成か反対かを表明すれば誠実というわけではない。政策の選択には常にプラスとマイナスが伴うので、賛成する場合のリスクと反対する場合のリスクを説明し、その上で自らの立場を表明して有権者に信を問うのが政治家に求められる誠実な態度だ」と指摘を受けた。
今後、全国各地で再稼働論議が本格化していく中、こうした視点で為政者の言動を読み解く必要もありそうだ。
福島の原発事故から4年。事故直後から現地をたびたび取材してきた私には忘れられない光景がある。立ち入り禁止の警戒区域に取り残された動物たち。一時帰宅で変わり果てた故郷を目にし、防護服姿で立ち尽くす人々。津波で行方不明の家族を残し、原発事故で強制避難させられた被災者たちの苦悩の表情−−。こうした記憶は生々しいにもかかわらず、自身の原発問題への関心が時間とともに薄れていくことにもどかしさを感じている。
原発問題について、自分たちが暮らす地域のリーダーがどう語るのか。是か非かの「レッテル貼り」に陥ることなく、注意深く耳を傾けることが、原発事故の教訓を風化させないためにも必要ではないか。自戒を込めてそう思う。