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岡崎 武志・評『NTV火曜9時』『油うる日々』ほか

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情熱も炎も、とことん熱かった

◆『NTV火曜9時』山本俊輔・佐藤洋笑/著(DU BOOKS/税抜き2400円)

 タイトルの『NTV火曜9時』とは、1970年代後半から、この時間帯に、カーチェイスや派手なアクションによるドラマが作り続けられていたことを指す。すなわち「大都会」シリーズ、「探偵物語」「プロハンター」など。

 これら男臭いドラマのファンだった山本俊輔・佐藤洋笑がタッグを組み、関係者に取材して、初めてあの「熱さ」は何だったかがわかったのだ。裕次郎率いる「石原プロ」がテレビ制作に乗り出す。映画でやり損なった夢を、どこまでテレビで実現できるか。

 そして生まれた「大都会 PART2」のアクション。暴走、衝突、炎上シーンで、壊れた車は10台、ニワトリ100羽が災難に。「やれると思えば必ずやれるのよ!」という村川透監督の言葉が、この時間帯の「熱さ」の理由を証明している。

 石原裕次郎、渡哲也、松田優作といった俳優陣に、監督、脚本家が三つどもえになって作った妥協なき世界。二度と作り得ないだけに、ただただうらやましい。

◆『油うる日々』目時美穂・著(芸術新聞社/税抜き3000円)

 目時美穂『油うる日々』は、幕末から明治・大正を生きた戸川残花の評伝。三千石の直参旗本の家に生まれたが、幕府の瓦解(がかい)で家禄を失い「敗者」となる。以後、キリスト者として生き、ある時は文人、編集者、ジャーナリスト、教育家と職も人生も転々とする。あまりに多彩な生涯を、資料をかき集め造形した著者は、その迷走の人生を「油うる日々」とした。「一見器用でうつり気に見えて、実のところ真摯(しんし)で懸命」な人物が生動する。

◆『なぜ彼女たちはカープに萌えるのか』迫勝則・著(角川書店/税抜き1400円)

 黒田の復帰で、今年の赤ヘルは熱い。この数年、各球場を埋める「赤」。その中でも目立つ「カープ女子」。迫勝則『なぜ彼女たちはカープに萌えるのか』は、社会現象となった彼女たちの存在を追い、その秘密と生態に迫る。「萌え」の原点は、高橋慶彦。ブラウン監督の野球がファンを増やし、野村謙二郎監督が夢を膨らました。著者は「一日にしてならず」のカープ人気を、さまざまな事象から跡づけていく。「赤」の解読など納得のカープ論。

◆『サリンジャーと過ごした日々』ジョアンナ・ラコフ/著(柏書房/税抜き2200円)

 ジョアンナ・ラコフ(井上里訳)『サリンジャーと過ごした日々』は、1990年代、ニューヨークの老舗出版エージェンシーを舞台にした回想録。新米アシスタントのジョアンナは、慣れない仕事に戸惑い、べそをかく日々。そんな彼女の元にジェリーと名乗る作家から一本の電話が。その相手は、なんとJ・D・サリンジャー。ファンからの手紙に返事を書き、その世界に惹(ひ)き込まれていく著者は、とうとう伝説の作家との感動の対面を果たすのだ。

◆『スイスアルプス旅事典』小川清美・著(新潮社とんぼの本/税抜き1600円)

 小川清美ほか『スイスアルプス旅事典』は、目に楽しく、心が晴れやかになるスイスガイドの決定版。春のグリンデルワルトは、一面に黄色いタンポポが咲き乱れる。夏、日没前のメッテンベルグの岩山にかかる虹。あるいは、イタリア・ティラノまで、各駅停車に乗ってのんびり途中下車の旅はいかが。四季別、場所別に、地元の人やガイドだけが知るおすすめポイントがカラーで次々紹介される。「花」の図鑑も充実で、スイスの魅力が一冊になった。

◆『還暦シェアハウス』泉麻人・著(中央公論新社/税抜き1200円)

 還暦目前で妻から別居を宣言されたフリーライターの松木は、55歳以上を対象としたシェアハウスに住むことに。そこで、一癖も二癖もある男たちと生活をともにする。「ぴんからトリオって、途中からぴんから兄弟になったよね?」「ブランデーグラスを手にした二谷英明気分になった」など、“昭和の郷愁”を漂わせる泉麻人ならではのフレーズが満載の『還暦シェアハウス』。読んだ後、思わず「ツチノコ」を探しに出かけたくなるかも。

◆『トライアウト』藤岡陽子・著(光文社文庫/税抜き700円)

 戦力外通告を受けた野球選手に、ゼロからの再挑戦の道を開く制度が『トライアウト』。父親の名を明かさず長男を生んだ可南子は、大手新聞社の校閲部から、運動部配属の命が下る。初の取材が仙台でのトライアウト。そこで、翔介と出会う。可南子は彼を、15年前、高校野球の花形投手として取材していた。栄光と挫折を知る二人が、真摯に向き合うとき、再生の道が見え始める。仕事、育児、そして明日を生きる勇気を、藤岡陽子は物語を通して描く。

◆『ピッカピカの一年生を作った男』杉山恒太郎・著(小学館文庫/税抜き510円)

 1978年、ランドセルを背負って学校へ通う新一年生の姿を映したCMが話題をさらった。その『ピッカピカの一年生を作った男』が、元電通のクリエーター杉山恒太郎。本書は、あのCMが生み出される契機から、撮影の舞台裏、そしてCMづくりに懸ける男たちの奮闘までを記録する。「方言や欠点、隠したがるものこそ魅力でありキャラクターになる」と確信し、6歳の魅力が花開いた。また、先人たちから学んだ教えも、謙虚に開陳する。

◆『空飛ぶ円盤が墜落した町へ 北南米編』佐藤健寿・著(河出文庫/税抜き820円)

『奇界遺産』『世界の廃墟』など、世界各地の世にも奇妙なものを撮り続ける写真家・佐藤健寿が、南北アメリカのUFO聖地を訪ねた写真ルポが『空飛ぶ円盤が墜落した町へ 北南米編』。1947年、ニューメキシコ州ロズウェルに墜落し軍が回収したといわれるUFOの残骸。そして搭乗した異星人も、じつは……。現代も拡大し続けるUFO問題の爆心地へ、著者は足を運びシャッターを切る。そのほか、常識人の脳内を攪乱(かくらん)する事実の数々。

◆『なんでもホルモン』伊藤裕・著(朝日新書/税抜き780円)

 私たちの生活、健康、寿命など、すべて「私たちの体自らが作り出す『ホルモン』と呼ばれる物質が決めています」と伊藤裕は『なんでもホルモン』で言う。いや、それだけではない、性格や恋の悩みもホルモンバランスが関係してくる、と言われれば、本を開かずにいられない。体にある多種のホルモンの仕組みと性質、効能をつぶさに解説し、「身も心も幸せになれる」最短の方法を本書は教える。ホルモンを意識するしないで、人生は変えられる?

◆『学校の戦後史』木村元・著(岩波新書/税抜き780円)

『学校の戦後史』の著者・木村元は、教育史・教育学を専門とし、これまで多くの著作、研究書を世に送り出してきた。それらの成果を踏まえて、戦後70年の教育の成果と問題点を「学校」という制度から読み直す。つねに変動する社会から強いられる要請にこたえ、人材育成を図りつつ、学校はどう変わってきただろうか。著者は統計や図表で具体的に「変化」を示しながら、現代の論点と、次世代が抱える課題も明らかにする。巻末に主要参考文献あり。

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おかざき・たけし 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。近著『上京する文學』ほか『読書の腕前』など著書多数

<サンデー毎日 2015年5月3日号より>

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