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夢を追う彼女たちの儚(はかな)い現実
◆『武道館』朝井リョウ・著(文藝春秋/税抜き1300円)
主人公の愛子は高校生。武道館公演を目指す「NEXT YOU」というアイドルグループの一員だ。
応援している、していないにかかわらず、人気が出てくるとバッシングを始めるのが大衆。トーク番組に出演したメンバーのブログが炎上し、ドラマに出た子の演技は「棒」と叩(たた)かれた。愛子は思う。自分たちは、歌って踊ることしか許されないのか?
そんな彼女は幼なじみの大地に恋をしていた。小学生の頃、大地の剣道の応援に武道館へ行った。ライトの下の子供たちに悪意を持つ者はひとりもいないと思えた。武道館は、「人は、人の幸せを見たいんだって、そう思わせてくれる場所」だ。
しかし愛子の恋をはじめ、メンバーの「体調不良」の裏にあったもの、二期候補生の写真の流出など、武道館を前にグループは危機に……。
今「スターを目指す」という者はいない。星には手が届かない。「アイドルはあなたのすぐそばに」の時代なのだ。でも人の頭の中のすべての欲望に応えようとした時、彼女たちはどうなっていくのか?
本書を読んだ後、テレビで見る明るい女の子たちの印象が変わった。この笑顔に、ほほ笑み返すべきなのか、悲しい目を向けるべきなのか? 作者はおそらく、この揺れを味わってほしいのだろう。
同情でも批判でもなく、ただアイドルとそれを取り巻くものの揺らぎを伝える。彼女たちとそう年が変わらない、朝井リョウならではの一冊。(東京 代官山 蔦屋書店 間室道子さん)
<サンデー毎日 2015年5月10-17日GW合併号より>