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<そこが聞きたい>火山防災対策 藤井敏嗣氏

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藤井敏嗣さん=長谷川直亮撮影
藤井敏嗣さん=長谷川直亮撮影

国立の観測研究機関を 気象庁火山噴火予知連絡会長・藤井敏嗣氏

 政府の中央防災会議の作業部会が3月末、火山防災対策に関する報告書=1=をまとめ、改善策を政府に提言した。取りまとめに当たった気象庁火山噴火予知連絡会長の藤井敏嗣・東大名誉教授に火山防災や調査研究の問題点、今後のあり方を聞いた。【聞き手・狩野智彦】

−−報告書には、どんな意義がありますか。

 御嶽山の噴火=2=を機に、火山防災が不十分であるとはっきりしました。火山は主に気象庁が監視と情報発信をしています。しかし、気象庁はいつもと違うデータを得ていたのに、結果として正確な防災情報を出せなかった。米国などと違い、気象庁の火山担当者で、火山を研究したことがある人は、ほとんどいないからです。配属されてから火山のことを勉強しますが、基礎から全部やるわけではない。噴火した火山のそばで地鳴りを聞いたことがある人もほとんどいない。マニュアルに従って監視していますが、噴火の頻度は少ないため、危険性を判断できるほど成熟もしていない。公務員だから、やむを得ない部分もありますが、専門家集団ではないんです。この現状を放置しておくと、また御嶽山と同じようなことが起こりえます。

−−人材不足は、火山学の人気がないからですか。

 就職口が少ないんですよ。大学ぐらいしかないのに、国立大学の法人化以降、ポストも減っている。もう一つ、地震には調査研究推進本部があり、研究費もある。しかし、火山はその推進本部がないから、先行きを不安視して火山学を専攻する人がいなくなってしまう。他の国には大規模な国立の火山研究所があり、学んだ成果を生かす場所がある。そこでずっと研究と防災ができます。

−−主な火山国で観測や研究、防災を担う国立機関がないのは日本ぐらいだと聞きました。

 米国は、伝統的に米地質調査所(USGS)が担っている。ハワイやアラスカなどに観測所があるほか、大学を出た大勢の火山専門家を雇っている。イタリア、フィリピン、インドネシアにも似たような組織がある。地質、地球物理、地球化学など各分野の専門家もいます。日本でも以前は国の機関が地震と火山に関わっていました。しかし、1995年の阪神大震災後の関係機関の再編で、火山が消えてしまった。多数の犠牲者が出るような大噴火があまりなかったからです。とりあえず気象庁の中に専門家を入れることを緊急的にやらないといけない。しかし、最終的には他の火山国と同じような国の機関設立を目指すべきです。そこの人々が火山を常に見張り、必要があれば現場に行く仕組みが必要です。

−−そもそも、噴火の予知は可能でしょうか。

 何月何日に噴火しますと予知するのは非常に難しいのですが、時期は分からなくても噴火の危険がかなり切迫している、というところまでは言えるようになります。そこから避難行動に移ることは必要です。また、噴火後の推移予測が重要です。噴火の予測がはずれても、ある意味、構わない。むしろ、今後拡大するかどうかを見極めることが一番大事で、そのための研究なのです。

−−政府は今国会中に活動火山対策特別措置法(活火山法)を改正し、火山防災協議会や避難計画作成を義務づける方向で検討中です。

 国として火山防災にどんな態度で臨むかが改正活火山法に盛り込まれるはずです。気象庁が確実な情報だけを出せればいいのですが、実際はそうではなく、不確定な要素がある。さまざまなレベルの情報が出た時、どんな対応をすべきか、防災協議会ではそれぞれの立場で議論をしておく必要があります。

 例えば道路。火山に少し怪しい動きがあると、周辺を全面通行止めにしがちですが、その道路で観測に行き、今後の活動を見極めようとする人たちが近寄れないケースが多い。観測を趣味でやっているかのように受け止められる風潮があり、観測が十分できないまま、次の判断をしなければならない状況が生まれています。観測者に対して、警察、消防などがどう協力すべきかも防災協議会で話し合うべきです。また、地域の大動脈のような道路の場合、監視しにくい夜間だけ規制するという方法もあります。行政だけでなく、利用者や観光関係者、有識者も含めて議論すべきです。

−−火山防災と観光との兼ね合いはどう考えればいいですか。

 それぞれの火山によって状況が違うので、関係者が普段から話をする以外にない。防災協議会は「顔の見える関係」と言いますが、そうでないといざという時、動けない。観光など経済的問題と防災を両立させるにはどうしたらいいか、互いが納得したうえで、両立させる道を探っていくしかない。御嶽山の噴火以降、関心が高まっている時に議論し、防災文化を根付かせていくことが重要です。

聞いて一言

 御嶽山の噴火は、日本の火山防災や研究などに関する多くの問題点を浮かび上がらせた。監視、調査研究を担う国立機関がないことで、結果的に火山専門家の人材不足を招いている。火山観測の大切さも関係機関が十分に認識しているとは言えず、噴火後に迅速な観測が許可されないなど、しゃくし定規的な規制による弊害もある。災害大国日本で可能な限り人命が失われぬよう、地震や気象、火山など自然災害の対策や調査研究を一元的に担う「防災省」のような機関があってもいい。


 ■ことば

1 火山防災対策に関する報告書

 火山ごとに自治体などでつくる火山防災協議会に対し、住民や登山者らの避難計画作成を求めることなどが柱。火山の監視・研究が複数の機関に分散している現状を踏まえ、関係省庁や有識者らでつくる「火山防災対策推進検討会議」を内閣府に設け、観測データを共有することも提言した。

2 御嶽山噴火

 御嶽山(長野・岐阜県境、3067メートル)が2014年9月27日、7年ぶりに噴火した。死者・行方不明者は登山者を中心に63人に上り、戦後最悪の火山災害となった。前兆がとらえにくい水蒸気噴火だったが、気象庁の情報提供も的確でなく、多くの防災的な課題を残した。


 ■人物略歴

ふじい・としつぐ

 1946年福岡県生まれ。2003年から現職。東京大地震研究所長、日本火山学会長などを歴任し、中央防災会議の作業部会で火山防災対策に関する報告書をまとめる主査を務めた。

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