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INTERVIEW 柚木麻子

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傷つけても、傷ついても、やっぱり必要な存在

◆『ナイルパーチの女子会』柚木麻子・著(文藝春秋/税抜き1500円)

 デビュー以来、一貫して女性同士の友情や人間関係をテーマに作品を発表してきた。最新作『ナイルパーチの女子会』もテーマは女性の友情だが、これまでの作品とは一線を画す。血を流しながら格闘するような痛々しい関係性を、他の種を食べ尽くし、生態系を破壊するほどの凶暴性を持つ淡水魚「ナイルパーチ」になぞらえて描いている。執筆のきっかけは、これまでの作品への“誤解”だった。

「女性の友情はすばらしいという小説を、5年間、一生懸命に書いてきました。でも、人からは『本当は女性の友情ってないですよね』とか『女同士って怖いですよね』と言われることがあって。女性の友情礼賛を書いているのに、女性差別主義の片棒を担いでいるようになっているのはなぜだろう、と思ったんです」

 女友達がいない女性や、女同士の友情なんてとバカにする男性たちをつぶさに観察して書き上げたのが本書だ。大手商社に勤務するエリート社員・栄利子は、気ままに生きる専業主婦・翔子のブログのファンになり、二人は接近。しかし、栄利子の過剰な思いを発端に二人の歯車が狂い始め、互いにねたみ、さげすみ、傷つけながら、関係が壊れていく。

 ひとりよがりの思いが相手を追い詰め、しだいに相手は自分と距離をおくようになる。失望した自分を立て直すために、無意識に相手を攻撃しはじめる。攻める側と攻められる側は、その時々で入れ替わる。大きく揺れるやじろべえのように、中心が定まらない不安定な“友情”。

 「もろくない人間関係なんてこの世界にあんのかよ」と言い放つのは、栄利子の会社の派遣社員・真織(まおり)。若さを武器に、辛らつで過激な言葉を繰り出す真織は、女友達がたくさんいて、女子会を肯定する存在である。

「もっとも私自身に似ているのは真織ですね。女子会にどっぷりで、友情に恵まれていて、友達の前ではいい人ですが、暗黒面もある。彼女には私が普段思っていることを全部言わせました。ちょっと怖い人になってしまいましたけど」(笑)

 なぜ、女性同士の関係や友情を描き続けるのか。

「『女の友情なんて』という男性が考えるような、パンケーキやマカロンを一緒に食べるだけの“甘い”関係ではなく、本当は苦いものがたくさんあってハードボイルドなものなんです。女はスイーツで喜んでバカみたいと思われるのは心外。私たちはあえて幸せのハードルを下げて、毎日豊かに生きようとしているだけなんだから」

 女友達の意義とは「ストッパーになってくれること」と言う。

「味方にもなってくれるけど、時に手厳しいことも言う。恋人や夫に言われると、頭にきたりショックを受けたりするけれど、女友達に『それはあなたが悪い』『それはヘンだ』と言われると妙に納得して、自分を振り返ることができる。だから必要な存在なんです」

 友達は大事。子どもの頃、よく言われた記憶がある。でも、大人になった今のほうが、その言葉の意味がよくわかる。(構成・佐藤睦)

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ゆずき・あさこ:1981年、東京都生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。著書に『ランチのアッコちゃん』シリーズ、『本屋さんのダイアナ』など

<サンデー毎日 2015年5月24日号より>

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