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Listening

<水説>脱「経済学の貧困」=中村秀明

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 経済学者ケインズには女性の弟子がいた。ジョーン・ロビンソンという。

     「人々が経済学を学ぶ目的は、経済のさまざまな問題について出来合いの答えを得るためではなく、どうしたら経済学者にだまされないかを知るためである」との名言を残している。

     その名を先月、日本記者クラブの会見で聞いた。立命館大学国際関係学部の高橋伸彰教授が、現在の格差問題などの背景について「経済学の貧困」と分析し、取り上げた。

     彼女は1971年、米国での学会講演で「経済学の第2の危機」を警告した。

     第1の危機は自由放任主義が招いたが、ケインズの説く「政府の関与で完全雇用を目指す道」が解決した。それから40年後の第2の危機とは、成長が続いて雇用が増えても、貧困や格差などの矛盾がなくならない状況を指す。新しい対処法を考えないと、世界はよくならないとの訴えに、聴衆は総立ちの拍手で共感を示したという。

     だが、経済学者は40年間、この警告に向き合わなかったと高橋さんはみている。

     石油危機やドルショックという緊急事態が起きたことも影響したが、ある者は「それは政治が考えることだ」と言い、ある者は時の政権にすり寄り、政治家がほしがる政策を売り込んだ。経済学者がどんどん、政治の世界に取り込まれていったのが80年代以降だったという。

     そうした状況を高橋さんは「経済学の貧困と堕落である」と手厳しく批判する。「経済学は哲学を失ったマシンと化した」とも。

     確かに経済学者、あるいはエコノミストと呼ばれる人が世界には大勢いる。それなのに、なぜ貧困や格差はなくならないのか。力不足なのか、熱意が欠けているのか。

     改めて高橋さんに聞くと、「経済学が何もしなかったというよりも、大きな顔をしすぎたのです」との答えが返ってきた。

     「たとえば社会保障は、社会正義の実現といった視点も欠かせません。しかし、経済的な損得勘定を振り回し、世代間の対立をあおっている。将来を左右するさまざまな問題が、目先の損か得か、効率的か、割に合うかという話になってしまった」と。

     経済学は、この貧困状態を脱せるのだろうか。

     ロビンソンの警告と同じ時代、公害や都市の過密が問題化した日本で「転換」を唱えた人たちについて、高橋さんは調べて書くという。そこに脱却のヒントが何かあると考えている。(論説委員)

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