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岡崎 武志・評『ほんほん本の旅あるき』『若冲』ほか

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人と本と町をつないでいる

◆『ほんほん本の旅あるき』南陀楼綾繁・著(産業編集センター/1600円)

 いまや全国に広がるブックイベントが「一箱古本市」。素人がフリマ方式で古本を売る。そのシステムを作ったのがライターの南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)だ。今や、「一箱古本市」大明神として全国を駆け巡る。

 『ほんほん本の旅あるき』で、その実践をリポートしている。北は盛岡、南は鹿児島まで、「一箱古本市」あるところ馳(は)せ参じ、助言し参加し盛り上げる。それだけじゃない。カフェ、新刊書店、図書館、フリーペーパーなど、地元で活動する人たちと交流し、巻き込む人力がすごい。

 「『ネットワーク』という言葉が軽々しく響くほどの、貴重なつながりなのだ」と書くのは、三重県・津で知り合った人たちの印象だ。人と本と町をゆるやかにつなぐ人間関係は、東京にいては知るはずもない。だから、古本「寅さん」は、明日もどこかへ旅立つ。

 地元の飲食店や古本屋なども、ちゃんとチェックしている点も本書の読みどころ。似顔絵、地図などのイラストは佐藤純子。著者と共に本誌の常連執筆者だ。

◆『若冲』/澤田瞳子・著(文藝春秋/税抜き1600円円)

 写実にして大胆な題材と構図で、「奇想の画人」と呼ばれた近世の画家が伊藤若冲(じやくちゆう)。澤田瞳子(とうこ)『若冲』は、京を舞台に、大雅、応挙、蕪村(ぶそん)、文晁(ぶんちよう)らライバルと伍(ご)し、彼が生涯を懸けて挑み極めた絵師の道を追求する。錦小路の大店「枡源(ますげん)」の家督を弟に譲り隠居。志乃を助手に、画業に打ち込む日々から描き出される「世に二つとない絵」は、いかにして生み出されたか。同時に、人間の愛憎の深さに筆を費やし、読みでのある芸術小説に仕上がった。

◆『市(いち)めくり』/イムマシンラボ/編著(京阪神エルマガジン社/税抜き1600円)

 朝市から縁起物の市まで、日本各地に「市」が立ち、人が集う。タイムマシンラボ編著『市(いち)めくり』は、ちょっと出かけたくなる「市」を、季節ごとにガイドする。6月は東京「ほおづき縁日」、7月は北海道「小樽がらす市」、8月は京都「下鴨納涼古本まつり」。全国の妖怪好きが集う、京都「妖怪アートフリマ モノノケ市」なんてユニークな「市」も。カラー写真をふんだんに使い、基本データのほか「おかいもの」情報や、「市のおまけ」など使える。

◆『誰でもない彼の秘密』マイケラ・マッコール/著(東京創元社/税抜き1600円)

 マイケラ・マッコール(小林浩子訳)『誰でもない彼の秘密』の探偵役は、アメリカの詩人、エミリー・ディキンソン。生前は無名、生涯独身でひたすら詩を書き続けた。本作で彼女は15歳。ある日、池から身元不明の男の死体が上がる。生前の男を知るのはエミリー。チグハグなサイズの高価な洒落(しやれ)た服を着た青年に少女は恋をする。自分を気に入ってくれた彼のために、彼の正体、事件の真相を探るのだ。章ごとにエミリーの詩が引用されている。

◆『暮らしのかご』片柳草生・著(平凡社コロナ・ブックス/税抜き1600円)

 「あけびやまたたび、……。縄文の昔から、身近な植物を材料にして、先人たちは二本の手でかごを編んできた」。片柳草生『暮らしのかご』は、日本人の暮らしを支えてきた素朴で完成された道具である「かご」へのオマージュに満ち、静かで熱い一冊。著者の部屋は、見渡せばいたるところに「かご」がある。「かごは、日々の暮らしに寡黙に寄り添ってくれる伴侶」だと言う。職人の仕事に触れるルポや、白洲正子偏愛の逸品の話あり、盛りだくさん。

◆『消えた伝説のサル ベンツ』緑慎也・著(ポプラ社/税抜き1500円)

 かつて大分県の高崎山自然動物園に、最強のボスといわれたニホンザルがいた。まるで任侠(にんきよう)映画の主人公のような武勇伝に満ちた生涯を送り、ある日忽然(こつぜん)と姿を消す。緑慎也『消えた伝説のサル ベンツ』は、その比類なきサルの評伝である。最年少でボスの座についたものの、他の群れのメスザルに恋をして“駆け落ち”。しかし、別の群れに移って“抗争”に勝利し、二度目のボスの座を射止める。実力で人生を勝ち取る姿には、神々しささえ感じる。

◆『かむろば村へ』涌井学・著(小学館文庫/税抜き570円)

 都会から山奥の村へ、お金アレルギーになった元銀行マンの若者が、1円も使わないで生きていくと宣言。そこから巻き起こるドタバタをいがらしみきおがマンガにし、この春、松尾スズキ監督、松田龍平主演で映画化された。涌井学『かむろば村へ』は、いがらし原作のノベライズ版。村のために献身的に尽くす村長、その美人妻、神様と呼ばれる人物が入り乱れる中で、主人公は自分を取り戻していく。映画は劇団「大人計画」総出演による快作。

◆『地下鉄で「昭和」の街をゆく 大人の東京散歩』鈴木伸子・著(河出文庫/税抜き660円)

 鈴木伸子『地下鉄で「昭和」の街をゆく 大人の東京散歩』は、同文庫の東京散歩シリーズ第3弾。地下鉄で巡れば、意外に古い東京の姿が残っていることがわかる。虎ノ門ヒルズが完成し、大変貌中の銀座線「虎ノ門」。しかし、ビルの谷間に「芝教会」という古びた教会がある。霞が関ビルディングは、昭和43年築の日本最初の超高層ビル。再開発の、都営大江戸線「汐留」から少し歩けば「浜離宮庭園」がある。さあ、本書片手に地下鉄に乗って!

◆『勇者の証明』森村誠一・著(集英社文庫/税抜き660円)

 ガンに冒され、無気力になった作家・渋江が、遠い少年時代を回想する。森村誠一『勇者の証明』は、森村版「スタンド・バイ・ミー」。昭和20年夏、教練の将校と上級生から迫害に遭う仲良し4人組は、噂(うわさ)のお化け屋敷探検へ出かける。そこには瀕死(ひんし)のドイツ人女性と、その娘ザビーネがいた。母親は死の間際、娘を長崎まで送り届けるよう4人に託す。ザビーネを男装させ、7月25日決行。お姫様と頼りない4人の騎士による冒険旅行の結末やいかに?

◆『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン』鴻上尚史・著(講談社現代新書/税抜き760円)

 NHK BS「cool japan」は、日本在住の外国人たちが「ニッポン」について語り合う番組。司会者の鴻上尚史が、「クール」の奥義について、『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン』で開陳する。「洗浄器付き便座」はわかるとしても、「ママチャリ」「アイスコーヒー」が、彼らの目には「クール」だという。日本が生み出した、日本人にとってはもはや当たり前のポップ・カルチャー、ハイテク、伝統文化が、再発見されていく。

◆『フォト・ストーリー 沖縄の70年』石川文洋・著(岩波新書/税抜き1020円)

 辺野古新基地建設で、今ふたたび大きく揺れる沖縄。写真家の石川文洋は沖縄生まれの本土育ち。ベトナム従軍カメラマン時代に、故郷の基地を取材した。以来戦後70年の沖縄の歴史を、レンズを通し、見て考えてきた。戦時中も戦後も復帰後も、苦しめられてきた心の傷を、カラー・モノクロ写真で告発する『フォト・ストーリー 沖縄の70年』。「命どぅ宝(命こそ宝)」という言葉を、「沖縄への視点」として書かれた本書は、沖縄人の怒りと共鳴する。

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おかざき・たけし:1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。近著『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

<サンデー毎日 2015年5月31日号より>

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