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裁判員制度、施行6年 「市民感覚」制限も 「感情を刺激」証拠採用慎重

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 重大事件の裁判に市民が加わる裁判員制度が21日、施行から6年を迎えた。これまでに約6万人の市民が参加し、法廷でのやりとりを重視する審理は定着したといえる。だが、裁判所が先例重視の姿勢を強め、証拠の採用を制限するなど、新たな動きも見えつつある。厳罰を求める遺族らからは「市民感覚は生かされているのか」と裁判所の対応を疑問視する声が上がるが、刑事裁判の原則を維持すべきだとの意見も根強い。【山本将克、島田信幸、山下俊輔】

     裁判員裁判は導入時から「市民感覚の尊重」がうたわれた。2審が1審判断を覆す「破棄率」は、制度が始まる直前3年間の17・6%に対し、裁判員裁判は8・2%(今年3月末まで)と、1審尊重の姿勢は顕著だ。だが、ここにきて「市民感覚が制限されている」といった指摘が上がり始めている。

     昨年12月、東京地裁であった傷害致死事件の裁判員裁判。被害男性(当時34歳)の父と婚約者が被害感情を訴える調書を検察官が読み上げた。だが、朗読時間は約20分に制限され、内容は半分に絞られた。法廷に映し出す写真も、婚約者と一緒に写ったものが認められず、男性1人の写真になった。遺体も写真に代わってイラストが示された。

     男性を4時間半暴行して死なせたとして起訴された男3人は起訴内容を大筋で認めていたため、争点は量刑に絞られていた。被害者参加制度を利用して審理に加わった男性の弟の佐藤達樹さん(31)は、証拠が次々制限される状況に「兄への思いや無念さを伝える場は法廷しかない。裁判員は正しく理解できるのだろうか」と疑問を感じた。

     公判前に争点を整理する手続きで、地裁はあらかじめ遺族らの主張を大幅に制限していた。佐藤さんは検察官から「証拠と犯罪行為に直接関係があるか、裁判官が厳密に考えている」と説明された。遺族側代理人の上谷さくら弁護士が「裁判員に十分な情報が伝わらない」などと抗議し、調書の朗読は半分認められたが、婚約者との写真は「裁判員に予断を与える」として認められなかった。

     上谷弁護士は「裁判員の感情を刺激しそうな証拠に、裁判所は慎重になっている。ありのままの証拠で示される重い量刑も市民の判断なのに、裁判所は従来の量刑がぶれるのを嫌がっている」と指摘する。ある検察幹部も「被害者の処罰感情や生い立ちは事件の重要な要素だ。裁判員に適切な判断をしてもらうためにも証拠請求に消極的ではいけない」と話す。

     被告側の受け止めも変わり始めている。千葉県弁護士会の菅野亮弁護士は、殺人事件などの公判前整理手続きで、裁判所から過去の同種事件の量刑分布を示すグラフを提示され、「評議で同じグラフを使う」と予告された経験がある。該当する事件がグラフのどのあたりに位置するか意識せざるを得なかったという。菅野弁護士は「反省や謝罪など被告に有利な点を羅列するだけの弁護は通用しなくなった」と指摘する。

    先例重視、促す最高裁 「公平が量刑の原則」

     最高裁は昨年7月、1歳児虐待死事件で、両親に検察の求刑の1・5倍にあたる懲役15年を言い渡した裁判員裁判の判決を「他の裁判との公平性」を理由に減刑した。今年2月には裁判員裁判の死刑を無期懲役に減刑した2件の強盗殺人事件の2審判決を支持し、検察の上告を棄却した。市民の判断を尊重しつつ、先例を重視するよう地裁に促したといえる。

     背景には最高裁司法研修所が2012年にまとめた「裁判員裁判の量刑の在り方」の報告書がある。公正・公平性を重視する立場から「死刑は先例と比較して初めて重大さの評価が可能になる」「先例と異なる量刑判断には合理的な理由が必要」とされており、元日本弁護士連合会裁判員本部事務局次長の宮村啓太弁護士は「制度開始前から裁判官が考えてきたことが明確に打ち出された」とみる。

     従来の刑事裁判は、結果の重大性に加え、犯罪行為の危険性や計画性を検討し、被害者の処罰感情や被告の謝罪は、あくまで量刑要素の一つにすぎないとみなしてきた。先例重視の傾向は、犯罪行為と関わりの薄い証拠を絞り込む姿勢にもつながっている。

     あるベテラン裁判官は、パニック状態で何度も突き刺した事件と、1発の銃弾で計画的に殺害した事件を比較し、「遺体の状況は前者がひどいが、刑は後者が重くなる可能性がある。遺体や現場の写真が裁判員に誤った影響を与える可能性がある」と指摘。「裁判官と裁判員に共通認識があれば急な変化は起こらないはず」と解説する。

     検察の求刑を超えた裁判員裁判の判決は、11〜13年は10〜19件。これが14年は2件にとどまった。先例への理解が広がった結果ともいえる。

     元東京高裁部総括判事の門野博弁護士は「刑事裁判に間違いは許されないし、責任が過大に評価されることはあってはならない。『疑わしきは被告の利益に』という原則から、先例との比較や証拠の制限は妥当」とした上で「国民の目が入り、裁判所がこれまでにない視点で事件に着目し、先例と異なった合理的な判断が出ることもあるだろう。試行錯誤を続けていけば、市民感覚は刑事裁判の質向上に貢献するはずだ」と話す。

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