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<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用

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 利用者の居場所が分かる携帯電話の全地球測位システム(GPS)を犯罪捜査に使いやすくするため、総務省は6月にも通信事業者向けの個人情報保護ガイドライン(指針)を見直す方針だ。現在はGPS情報を使う場合、本人に知らせる必要があるが、今後は裁判所の令状があれば本人通知が不要になる。捜査当局が「振り込め詐欺や誘拐事件などで役立つ」と期待する一方、プライバシー侵害を懸念する声もある。【長谷川豊】

 携帯電話利用者の位置を探すには、電波を中継する基地局を調べる方法と、GPS情報を活用する方法がある。捜査当局は、いずれの場合も裁判所の許可令状(検証令状)を取らなければならない。基地局の情報は数百メートル〜数キロの誤差が出る可能性があるのに対し、GPSは人工衛星を使うため、数メートル〜数十メートルの範囲まで絞り込むことができる。

 携帯電話のGPS情報はもともと、子どもやお年寄りが迷子になるのを防ぐためなどとして、通信事業者が始めたサービス。その精度に捜査当局が着目し、総務省は2011年、捜査に利用できるよう指針を改正した。「当局に監視されるのではないか」との意見を受け、裁判所からの令状だけでなく、携帯電話の利用者本人に対して音やメッセージで位置情報の取得を知らせることが求められた。

 しかし、これでは対象者に捜査をしていることを伝えてしまう形になる。警察庁の担当者によると、「これまでに携帯電話のGPS情報が捜査に使われた実績はない」という。このため警察サイドから、本人への通知条件を外すべきだとの声が高まった。政府の犯罪対策閣僚会議で13年12月、指針見直しが合意され、総務省は改正作業を進めている。

 警察庁は携帯電話のGPS情報を利用するケースとして、誘拐や、電話を掛けるためのアジトを転々とする振り込め詐欺の捜査、指名手配容疑者の捜索などを想定する。使用頻度など具体的な運用は今後の課題となるが、警察庁の担当者は「令状に基づくため、例えば1週間で朝昼夜の3回などが考えられる」と話す。

 指針が変わったとしても、GPS情報が捜査にすぐ活用される見通しは立っていない。GPS情報は自動的に通信事業者に入るのでなく、必要となった時点で取得する仕組み。現在は携帯端末を鳴動させたり画面に表示させたりして携帯電話利用者に情報取得を知らせており、捜査当局が対象者に伝えずGPS情報を得るには、携帯端末の仕様を事業者に変更してもらう必要がある。さらにスマートフォンの基本ソフトが「アンドロイド」の場合、通常は通信事業者がGPS情報を取得できるとみられるが、「iPhone(アイフォーン)」は対応できない。

 警察庁と総務省はこうした問題点に対応するため、指針改正後に事業者ら業界と協議を始める方針。ただ、負担が増える事業者側からは「鳴動できなくすると、捜査以外に使われる危険性もある」との意見が出てきており、実際に捜査で使える時期は見通せていない。

 NTTドコモは「既存のスマートフォン端末は位置情報を検索すると利用者に分かるようになっている。仕様の変更が必要だが、指針が決まれば、それに従って対応することになる」と説明する。KDDI(au)は「指針にはきちんと対応する」とした。

 ソフトバンクの担当者は「捜査機関の要請に応じて位置情報の提供は行ってきた。今後、指針が改正されれば捜査機関と調整し、システムを含めて適正に運用変更を行う」と話す。同社はGPSを使って事業者が位置情報を取得できないiPhoneに関しては、警察からの照会に対し、基地局情報を回答しているという。

対象者の車に端末設置、追跡 法的規制なし、裁判所も追認

 犯罪捜査でのGPS利用を巡っては、警察が捜査対象者の車にひそかにGPS端末を設置して追跡する手法が、各地で明るみに出ている。この手法に関しては刑事訴訟法に関連規定がなく、裁判所の検証令状を取るなどといったルールも定められていない。警察庁が06年に内規で基準を作って運用しているとされる。

 こうした捜査の妥当性が争点になった刑事裁判で、大阪地裁は今年1月、「被告の居場所が24時間把握されていたわけではなく、記録もされていなかった。プライバシー侵害の程度は大きくない」として適法だと判断した。

 また、名古屋市の男性が昨年、愛知県警に無断でGPS端末を車両に付けられプライバシーを侵害されたとして県に賠償を求めて提訴し、名古屋地裁で係争中。

 一方、米国の連邦最高裁は12年、警察が車にGPS発信器を長期間取り付けていたことに対し、令状なしの情報取得は憲法違反との判断をした。これを受け、州レベルでGPSの捜査利用に関する立法措置が取られてきている。【青島顕】

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