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少年法の適用年齢引き下げ 厳罰化と保護処分、効果検証を=論説委員・伊藤正志

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 少年法の適用年齢見直しが自民党の特命委員会で議論されている。「20歳未満」から「18歳未満」に引き下げるべきか否か。ポイントは、どちらが社会の安全安心につながるかだ。

 選挙で投票できる年齢が18歳以上に引き下げられた場合、民法や少年法も連動させるのか。「18歳で投票という権利を得るのだから義務や責任も負うべきだ」という意見は根強い。そこが議論の出発点だ。

 自民党本部で20日開かれた特命委員会では、各省庁から意見を聞いていた。民法などの引き下げに伴い、年齢条項見直しの対象となる法令は約350本に及ぶ。警察庁からは、健康への影響などから、飲酒や喫煙について「20歳以上の対象年齢は引き下げないのが妥当」との考え方が示され、議員からも異論は出なかった。他にも見直さない方向の法律は少なくない。

 この点は重要だ。あくまで個別の法律(事案)ごとに引き下げの妥当性を判断していくべきだ。成長過程にある少年の更生にかかわる少年法の適用年齢引き下げは慎重に判断すべきだろう。まずは冷静に分析し、議論を積み重ねたい。

 現状は少し心配だ。川崎の中1男子殺害事件を受け、検討が進んでいる印象が強いからだ。委員会のメンバーは先週、殺害現場を訪れた。

 20歳に近い年長少年による事件だったためもあるだろう。少年法に守られて実名報道されないことへの疑問の声も特命委員会では出た。ただし、事件に関わったとされる3人の少年は起訴された。今後、成人と同じ公開の裁判員裁判で審理される。

       ◇

 犯罪に走る少年も社会の構成員である。成長途上の少年の犯罪の背景に目を向ける時、貧困や虐待など本人にはどうしようもない家族関係が絡むことが多い。住む地域など社会環境も色濃く反映される。家庭にも学校にも居場所がない子どもたち。その責任は大人の側にある。

 刑罰より教育を施した方が、本人はもとより社会にとってプラスになるのでは−−。少年矯正が存在する原点だ。

 3年前、東京都狛江市にある女子少年院「愛光女子学園」を見学した時のことを思い出す。施設内は静かで、少女たちは黙々と日課に励んでいた。規律があるため緊張感が漂うが、威圧的ではない。施設に高い塀はなく、住宅地に溶け込んでいた。

 1日の大半が生活指導や学習、職業訓練で過ぎていく。一方、成人と同じ刑事裁判を受け、実刑が確定して少年刑務所に入った場合、その日常は全く異なったものになる。朝から夕方までずっと刑務作業が続くのだ。

 少年刑務所の生活の方が厳しいように見えるが、矯正実務に詳しい専門家の見方は異なる。少年院では生活全般が教育で、教官が付きっきりで厳しく内省と自己変革を求める。

 少年法の保護処分の根底にあるのは「更生のため大人がしっかり手をかける」という理念だ。少年院に入る前の段階でも、少年鑑別所や家庭裁判所で、専門家が繰り返し面接し、成育歴などについて調査を尽くす。「突き放さない」という信念が更生を促す一歩になる。

       ◇

 少年犯罪、さらに凶悪事件は統計的に見れば増えていない。欧米と比較すれば、少年犯罪数は圧倒的に少ない。少年院を出た人の再犯率は成人に比べ低いとのデータもある。

 こうした数字からは、少年の立ち直りに重点を置く現行少年法の保護処分が一定の効果を生んでいることが読み取れる。

 さらに、最近では少年事件での厳罰化がマイナスの効果を生むのではないかとの米国の研究がある。

 最高裁家庭局編「家庭裁判月報」(2009年6月号)では、「米国の論文によると、六つの研究で、刑事裁判所に送致された少年は、少年裁判所に送致された場合より、より高い再犯リスクを有すると結論づけている」と、裁判官が紹介している。

 米国の少年法適用年齢は18歳未満だ。だが、複数の州で適用年齢の引き上げを検討している。まさに日本の現状と逆の動きが出ているのだ。こうした外国の実証的な研究など、考察すべきことは少なくない。

 少年法は、衝撃的な事件を受け、厳罰化する方向で改正されてきた歴史を持つ。だが、今は厳罰化と保護処分の効果をそれぞれ冷静に分析し、検証すべき時ではないか。結果的に立ち直る少年が増えれば、それが社会の安全につながる。


年齢を引き下げない方向の法律

・未成年者飲酒禁止法

・未成年者喫煙禁止法

・銃砲刀剣類所持等取締法(猟銃所持)

・鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(銃を使用する狩猟免許)

・国民年金法(被保険者資格)

 =以上、現在20歳

・風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(パチンコ等)

・教育職員免許法(教員免許)

・道路交通法(普通免許)=以上、現在18歳


少年院の1日の生活

午前6時半   起床

  7時40分 朝食、自主学習

  8時50分 朝礼(コーラス、体操)

  9時    生活指導(情操教育、進路指導など)、職業訓練、学科教育、クラブ活動など

正午      昼食、レクリエーション

午後1時    生活指導、学科教育、自主学習

  5時    夕食

  6時    集団討議、個別面接、日記記入

  8時    テレビ視聴

  9時    就寝

少年刑務所の1日の生活

午前6時45分 起床、点検、朝食

  8時    刑務作業

  10時   運動

  10時半  刑務作業

正午      昼食

午後0時40分 刑務作業(途中10分の休憩)

  4時40分 刑務作業終了、点検、夕食

  6時    余暇

  9時    就寝

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