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幸せの学び

<その128> セネガルの尊父=城島徹

エリマン・ンドゥールさん(2001年)

 9.11米国同時多発テロから間もない2001年の秋、セネガルの首都ダカールで魅力的な老人と出会った。同国出身の世界的歌手、ユッスー・ンドゥールさんの父で鉄製家具職人エリマン・ンドゥールさん(90)だ。その時の写真を今春、知人に届けてもらうと、この父は哲学者のような含蓄のある言葉を繰り出したという。

     ダカールでグリオ(語り部)の家系に生まれ育ったユッスーさんは祖国の伝統音楽をベースに欧米のポップスの要素も取り入れ、打楽器ジェンベの激しい音にコーランの詠唱のような節回しを絡める。その力強い歌声はアフリカの大地からわき起こるかのようだ。

     この街は住民の95%がイスラム教徒で、アフリカの土着的エネルギーと旧宗主国フランスの香りが溶け合う。沖合のゴレ島にはかつての奴隷商人の基地があり、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産となっている。

     その旧市街でテロの感想を聞いていたユッスーさんの幼なじみは海沿いにある墓地に私を連れていき、「ここが彼の練習場所だった。毎晩、だれもいない墓場でのどを鍛えたんだ」と教えてくれた。「あの強じんな歌声の原点がここだったのか」。感慨に浸っていると、こんどは「彼のおやじさんに会いに行こう」と小さな家具屋に私を誘った。

     そこに一人で座っていた家具職人の老人がエリマンさんだった。「小さいころから物を欲しがらない子だったね。でも、いつも何かに夢中だった」。大スターの父親は古い家族アルバムを見せながら、とつとつと話してくれた。

     その時の写真を託した国際協力コンサルタントの楠田一千代さん(53)と会ったエリマンさんは「今日、君がその写真を持ってこようと思い、持ってきてくれた。その意志のおかげで、17歳からダカールに住む私が君と会って、こうやって話ができるんだ」と喜んだ。

     「人生というものは早かれ遅かれ自分の行き着くところには到着する。生まれた時には何になるかなんて分からないけど、ゆっくりでも歩いていればたどり着くんだよ」「アッラーの前では人はみな等しい。金持ちも偉いも貧しいもない。私は相手がどんな人であれ、同じように接するようにしている」……。美しい詩のような言葉が続いたという。

     そして子育てにも触れ、「自分の子供たちは父親のところに来てお金をせがむこともなく、悪さもしていない」とにこやかに振り返ったそうだ。観光文化相を務めるなど祖国の英雄として活躍する息子への愛情が遠い日本にも伝わってきた。【城島徹】

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