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<そこが聞きたい>戦後70年談話 北岡伸一氏

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過ち忘れず未来志向で 「21世紀構想懇談会」座長代理・北岡伸一氏

 安倍晋三首相がこの夏に発表する戦後70年談話に国内外の注目が集まっている。戦後50年の村山富市首相談話などは継承されるのか。日本の歴史家や日本政府に宛てた在外日本研究者の声明をどうみるか。「安倍談話」を検討する有識者会議「21世紀構想懇談会」の座長代理、北岡伸一・国際大学長(67)に聞く。【聞き手・岸俊光、写真・猪飼健史】

−−「首相に『侵略した』と言ってほしい」と発言されました。

 もちろん、日本は侵略したと考えています。「日中歴史共同研究」の報告書=1=にもそう明記しました。侵略の定義が定まっていないという批判は間違いです。他国に軍隊を送り込み、人を殺傷し、財産を奪い、主権を制限する。これが侵略です。政治学でも歴史学でも、似たようなものです。国際法で侵略となると、制裁につながるので、なかなか難しいのですが、一応の定義はあります。侵略の定義に関する決議(1974年の国連決議)が知られています。厳密な定義がない言葉は使えないなどと言ったら、平和や戦争という言葉も使えなくなります。

 日本の侵略で最も明白なのは満州事変(31年)です。日本が重要な権益を持っていたのは南満州と東部内蒙古だけなのに、北満州まで満州国にしたわけですから明らかに侵略です。侵略する意図はなかったという人もいますが、意図は関係ありません。日本は侵略していないなどと言えば、世界を敵に回します。ただ私が述べたのは、首相にどこかで言ってほしいということです。必ずしも文書に入れなければならないという意味ではありません。

−−植民地支配については?

 植民地支配は全てよくなかったと考えています。第一次大戦以後は、民族自決が原則です。他国が嫌がることをしてはいけないのです。

−−首相は談話に書き込む内容として、先の大戦への反省と、戦後の平和国家としての歩みを挙げつつ、「未来志向」を強調しています。

 村山談話にも、未来志向の要素は入っていました。以後、平和の時代を20年重ねたのだから未来志向が強まるのは当然でしょう。日韓でいえば、日本の植民地統治は35年、今や独立してから70年です。侵略か否かは100年後に見直しても同じですが、未来志向の部分が100年後も前と同じ比率というのはおかしい。首相は世界がどのような時代だったかも談話に入れてほしい、と言っています。世界の中で日本を捉えるという首相の論点に私は賛成ですし、歴史は時間的にも空間的にも一部を切り離すべきではありません。

−−戦争責任はどう考えますか。

 責任にも2通りあると思います。突き詰めていえば、責任とは個人が負うべきものです。政治家なら、誤った決定をした者、正しい決定を阻害した者。そうした人々は、東京裁判などで処罰されました。ドイツでも、ナチスの中核と周辺、支持した者と黙認した者と抵抗した者では責任の重さが違います。同様に、戦争中の日本人と今日の日本人が同じ責任は負えません。直接処罰に結びつく責任と、我々の責任は別種だと思います。同じ過ちを繰り返さず、よりよき未来をつくることこそ我々の責任です。ドイツのワイツゼッカー元大統領の演説=2=も後者に重点があります。

 首相のおわびは外交的行為だから国民が納得できるものでなければいけません。今年4月発表の日米世論調査に、日本人の15%、アメリカ人の24%が、日本の謝罪は不要と回答しました。他方で、過去を忘れないための近現代教育は非常に不十分です。また、日本は国際秩序の維持にもっと貢献すべきであって、現在議論されている安全保障法制改革はそれに役立つものと考えています。

−−米国などの日本研究者や歴史家の声明をどうみますか。

 今回きっかけの一つになった米マグロウヒル社の高校教科書の「慰安婦」を巡る記述はひどいものです。日本政府が訂正を求めたことは理解できますが、やり方が下手でした。ただ最初に出された「国家による圧力に反対する」という日本政府を批判する20人の声明(今年3月)は問題です。「慰安婦」の数を20万人と断じています。今度の457人の声明はもっと穏健で、中韓にも責任があるとか、永久に正確な数字の確定は難しいなどと書いてありますが、前の声明に署名した人が、なぜ同時にこれに署名できるのでしょうか。

−−戦後70年談話は海外でも関心を持たれています。名宛て人は誰だと考えていますか。

 一義的には日本です。過ちを忘れない、よりよい現在と未来をつくるというのだから、国民に向けたメッセージです。それを外国にも聞いてもらうということでしょう。私がおわびに消極的なのは、それが和解に向けた重要なステップでもあるからです。和解には双方の努力が必要です。相手に用意がない時に一方的に謝罪してもうまくいきません。

聞いて一言

 戦後50年談話に対する外国の評価は高いが、日本への説明が不足していたのではないか。村山元首相に以前こんな質問をした時に返ってきたのは「(首相を)辞めてから気づくことも多いものだから」という答えだった。戦後の日本は近現代史について、国民的合意を持つことができなかった。それがアジアなどとの歴史問題につながっている。前例のない有識者会議が幅広いコンセンサスづくりの一助になるなら、議論は一層意味のあるものになる。


 ■ことば

1 日中歴史共同研究

 2010年に公表された報告書は、古代・中近世史と近現代史から成る。両国の有識者が各章の論文をそれぞれ執筆したが、近現代史のうち歴史認識の差が大きい第二次大戦後の章が、中国側の要請で非公表とされた。報告書は昨年、勉誠出版から2分冊で刊行された。

2 ワイツゼッカー演説

 ワイツゼッカー氏(1920〜2015)が終戦40年の85年5月8日に行った演説。「過去は変えられない。しかし過去に目を閉ざす者は現在も見えなくなる」「若者は当時のことに責任はない。だが歴史から生み出されるものに責任はある」などと歴史に学ぶよう訴えた。


 ■人物略歴

きたおか・しんいち

 1948年生まれ。2004〜06年、国連次席大使。06〜10年、「日中歴史共同研究」日本側座長。安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の座長代理を務めた。

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