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<記者の目>貧困家庭の子への学習支援=西田真季子(生活報道部、前さいたま支局)

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優れた事業も国補助必須

 生活保護受給者の子どもが大人になった時に自身も受給者になる“貧困の連鎖”を断とうと、埼玉県は生活保護家庭の中高生の学習を無料で支援する教室を開いている。2010年度以降1000人以上の中学生が教室を卒業し、13年度以降500人近い高校生が参加してきた。教室は高校進学率を向上させ、高校中退率を抑えるなど実績を上げているが、今年度から国の全額補助が半減し、支援体制の縮小を迫られている。貧困家庭の子どもを救うためにも全額補助に戻すべきだ。

    「不適応」の裏に家庭の経済力

     同県は、生活保護受給者の自立や貧困の連鎖防止のための国の補助金を利用し、10年度からまず中学生を対象に教室を始め、一人一人に支援員がつき、家庭訪問や基礎的な学習の支援に乗り出した。13年度からは、対象を高校生にまで拡大した。14年度は中高合わせ24(独自に同種事業を行うさいたま市を除く)の教室が開かれ、総事業費は4億3000万円余りだった。

     私は取材で高校生教室に通う4年制の通信制高校の男子生徒(19)と出会った。彼は10年度に中学生教室に参加した1期生。教室の後押しで11年度に高校に進学できたものの、すぐに中退。身近に助言してくれる大人がいなくなり不安になったという。しかし思い直して12年度に同じ通信制高校に再入学し、高校生教室にも通い始めた。教室の支援員は「中学生の時に比べ、積極性が出てきた」と喜ぶ。

     彼は私に「必ず成人までには卒業する」と約束してくれた。学業とアルバイトを両立し、単位も順調に取り、来年3月の卒業を目指している。

     私は元々、「高校は義務教育ではない。勉強に意欲がなくなった生徒は、貧困が原因で退学しても責任は本人にある」という“自己責任論者”だった。文部科学省が07年度に高校中退者を対象に実施した調査でも退学理由に「経済的理由」を挙げた生徒は3%に過ぎず、「学校生活・学業不適応」が約4割を占めた。

     だが、支援教室の取材を通じて考えが変わった。教室の運営を含む生活困窮者自立支援事業「アスポート」に携わる元教諭、白鳥勲さんから「子どもの『学校生活・学業不適応』の言葉の裏に家庭の経済力や学力の低さがある」と言われてはっとしたのだ。

     確かに取材から、厳しい家庭環境が子どもから学習意欲を奪っているのがみえた。例えばひとり親家庭では、母親(父親)が長時間働かざるを得ず、子どもだけで長い時間を過ごしたり、親が病気を抱える家庭では、十分に子どもの面倒をみられなかったりするといった状況がある。生活するのに手いっぱいで、子どもの勉強をみるという、半ば当然と思われることが、貧困家庭にとっては難しいのだ。

     基礎的な学力や学習習慣が身につかないままでは、授業についていけなくなる。やがて勉強への意欲を失い、負のスパイラルに陥っていく。ついには退学に追い込まれる。

    有効な家庭訪問、人材確保困難に

     しかし、私は埼玉県の支援教室のような取り組みで、負の連鎖を断ち切れると感じた。中学生教室は13年度までの4年間で計1112人が卒業。事業開始前の09年度は県内の生活保護家庭の高校進学率は約87%だったが、教室利用者の進学率は初年度から4年連続で毎年97%台に達した。高校生教室には14年度までの2年間で473人が参加。事業開始前の12年度は県内の生活保護家庭の高校中退率は8・1%だったが、13年度の教室利用者の中退率は5・2%に抑えられた。

     4月に施行された生活困窮者自立支援法は、各自治体が自主性をもって困窮者を支援するよう促すもので「生活困窮世帯の子どもの学習支援」もうたっている。しかし国から県への補助が同法に基づく予算に切り替わり、従来の全額から半額補助になった。

     埼玉県の懐事情は厳しい。今年度は事業費を補っているが、来年度以降も教室を現状のまま維持できるかは不透明だ。白鳥さんは「(支援教室では)支援員が社会から孤立した家庭の子どもを継続して訪問することで成果を上げてきた。事業費が縮小されれば、人材の確保が難しくなる」と危惧している。

     子どもの貧困に詳しい立教大の湯沢直美教授は「貧困状態の子どもの背後には保護者の困難がある。家庭に直接アプローチする取り組みは効果が高い」と、学習支援と家庭訪問を組み合わせたこの事業を評価する。

     支援教室は中学から高校まで一貫して貧困家庭の子どもを支援できるのが強みだ。大人の継続的な見守りや寄り添いこそが子どもの自立につながる。財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な地方自治体に頼りきらない、国の継続的な支援が不可欠だと私は考える。

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