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サンデー毎日発

高大接続・大学入試改革シンポジウム「2020年からの大学入試はどう変わる」

7月6日、東京・竹橋の毎日ホールで、高校の進路指導担当教員や大学関係者など約150人を集めて行われたシンポジウム

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 文部科学省は「高大接続改革実行プラン」のもと、教育改革・入試改革の議論を進めている。今の中学1年生の大学受験から新入試が実施される予定だ。駿台予備学校・大学通信・毎日新聞社共催でシンポジウムを開き、文部科学省文部科学審議官の前川喜平、東京大学理事・副学長の南風原(はえばら)朝和、京都工芸繊維大学教授で大学コンソーシアム京都・高大連携推進室長の内村浩、駿台予備学校進学情報センターセンター長の石原賢一の各氏が、改革の課題と展望を語り合った。コーディネーターは大学通信常務取締役の安田賢治氏。

     安田 教育改革・入試改革はどのようになっていくのかを教えてください。

    文部科学省の前川氏

     前川 日本は生産年齢人口の急激な減少、グローバル化などさまざまな問題に直面しており、自ら学び考え、主体的に行動する力をつけるための学習が必要になってきています。高校・大学の学びを時代に合わせた新しいものにしたいという考えが改革の出発点です。そのために、高大の接続部分である入学者選抜のあり方についても見直します。高校教育改革、大学入試改革、大学教育改革を、三位一体の改革として進めていきます。

     安田 高校教育ではカリキュラムの改革が行われます。教育改革のキーワードの一つとしてアクティブ・ラーニングが挙げられていますが、どんな人材の育成が求められていていますか。

     前川 これからは課題解決型学力、探究型学力といった能力の育成が必要になります。これらは大学に入るために必要な能力ではなく、地球市民として生きていくために必要な能力です。知識の量ではなく、自ら課題を意識して解決するために動こうとする力を、真の学ぶ力として重視する教育に変えていきます。

     安田 大学側としては、何を学んだ学生に来てほしいですか。

     南風原 大学は多様性を活力とするために、さまざまな学びの経験を持った学生が来るのを望んでいます。その上で、東京大学では特に、自ら研究を志向する学生を求めています。

     内村 変化の激しい時代では、学校で学んだことがそのまま適用できない場面に数多く出会います。新しい事態で知識を活用できるかどうかが問題となり、これから学ぶために必要な学力、すなわち知的好奇心や、理解力、活用力、表現力、コミュニケーション力が重要になってきました。

     石原 昔は情報が少なかっただけに子どもの知的好奇心が旺盛でしたが、今はネットで全てが与えられる時代です。友達と議論することもほとんどありません。しかし、一歩外に出ればグローバル化の厳しい現実が待っています。アクティブ・ラーニングのような形で、大人が議論の場を提供することも考えなければいけません。

     内村 高校の先生方は、今までの教え方を問い直してみることも大切です。20〜30年前の教え方では、子どもたちの未来を奪う可能性もあります。どういう学力が必要になるのかを幅広く捉えて、考え方を変えていきましょう。

     前川 生徒が将来、必要な知識を自分で学ぶことができるようになるための教育を、高校で行ってほしいと思います。学習指導要領はあくまで最低基準なので、学校ごとにカリキュラムは工夫できます。大学入試をそれほど意識させないような教育が理想ですね。

     安田 改革に合わせて二つのテストを導入されます。

     前川 一つは「高等学校基礎学力テスト(仮称)」です。このテストの目的は、高校教育の学習達成度を生徒自身に客観的に把握してもらい、学習の改善につなげることです。平均的な学力の生徒や学力面で課題のある層を主な対象とすることを考えています。高校生全体の学力の底上げを目指すもので、大学入学者選抜に使うことを直接の目的とはしていません。

     もう一つは「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(新テスト)です。これからの大学教育を受ける上で必要な能力を把握するためのテストです。従来の教科型だけでなく、教科横断的な合教科型の問題や、さまざまな学習の成果を測る総合型の問題の導入を検討しています。また、記述式での試験の実施を目指します。成績提供は1点刻みでなく段階別表示で行うことを検討しています。

    東大の南風原氏

     南風原 数十万人の受験者がいるテストを記述式で実施するのは非常に難しく、挑戦的な取り組みとなるでしょう。破綻や混乱が生じないように、実行可能性について十分な研究時間をとって知的に進めることが必要です。

     石原 新テストの導入によって単に選抜の手段が変わるだけなのか。それとも大きな入試の枠組み自体が変わってしまうのか。それがまだはっきりとは分かりません。私立大入試への影響がどの程度あるのかという点も気になります。

    センター試験の資産をうまく活用したい

     安田 新テストは年複数回実施との記載もありますね。

     前川 CBT方式(コンピューターを用いた試験)での実施を検討していますが、高校関係者の意見を十分に伺いながら実現可能な形で進めなければいけないと考えています。2018年度にプレテストを行い、20年度からスタートする計画ですが、当面は年1回しかできないかもしれません。

     石原 実施面に関して、いつ入試をやるのか、現行のセンター試験のような文理の明確な区別はなくなるのかなど、不安を抱いている方が多いように感じています。

    京都工芸繊維大の内村氏

     内村 多元的な評価によるテストは魅力的ですが、実際に行うのは大変で、専門的な知識を要します。

     安田 先生方や保護者には、これまでの中高の教育では対応できない、全く異なる入試になるのではないかという心配があるようです。

     南風原 新テストは思考力や表現力など複数の能力の評価を目指しています。しかし、全てを一度に測るテストを具現化することは難しいでしょう。導入が検討されているIRT(項目反応理論)は、一点刻みよりもさらに精緻に序列化を行うための方法です。一つの能力について優劣をつけることはできますが、知識・表現力・判断力といった多様な能力を一つのテストで測ることにはIRTは適していません。学習診断や学習指導には生かしにくい方式です。

     また、新テストが何段階の評価になるのかは決まっていませんが、IRTで精緻に刻んだものを10段階程度に分けると、せっかく得た情報の多くを捨てることになってしまいます。大きなテスト改革を行うことで得られるものと、逆に失うものの両方について考えることが重要です。

     石原 受験生にとっては一度だけの大学入試であり、初めての試験でも制度上の不備があってはなりません。実際に実施可能なのかを、もっと具体的に議論するべきです。毎日生徒と向き合っている現場の先生方の意見が不可欠です。

     内村 現行のセンター試験には作問上の制約がありますが、これらを軽減して自由に作問できるようにすれば、マークシート式のテストでも活用力や思考力を問う問題は作ることができます。そうした教科型の問題を中心に据え、オプションで合教科型や総合型の問題も用意する形のテストにすることを提言いたします。

     南風原 センター試験は、幅広い層の人の目にも堪えうる良問が作られ続けていて、そうした試験を作る体制も整っています。良いテストを一から作るのは大変な作業です。現存するものを簡単に壊してしまうのでなく、そうした資産をうまく活用することが大切です。センター試験のような成熟したテストへIRTを導入することも検討できます。

     内村 新テストがCBT方式で実施されることで、試験問題が非公開になるのも課題です。問題には作問者である大学の先生からの、「学生にとって必要となる力は何か」というメッセージが込められています。試験問題を高校の教育改善に生かすこともできなくなってしまいます。

    駿台の石原氏

     石原 問題が非公開になることで、先生方が的確な進路指導をできなくなることを危惧しています。現在の試験制度で大きな混乱が生じていないのは、センター試験の得点と過去のデータを基に、先生方が適切な指導を行っているからでしょう。システムが変わり、段階別評価の中で受験生が好きな大学に出願するようになれば、国公立大にも自由競争が生まれます。私立大のように一部の人気大学に志願者が集中し、国公立大でも定員割れを起こす大学が出てくるような事態が十分に考えられます。

    東京大が推薦入試を実施する狙いは何か

    大学通信の安田氏

     安田 現在の制度設計どおりになった場合の国公立大入試は、大混乱をきたす恐れがあるのですね。

     石原 段階評価が落ち着くまでは、地方大の定員割れや、制度が大きく変わらない難関私立大に人気が集中するなどの混乱が生じる可能性があります。

     前川 さまざまな角度からの懸念があることは承知しており、それらを全て受け止め、今まさに行っている議論に生かしていきます。実施にあたっては、混乱が生じて受験生への影響が出ることがないように進めます。

     南風原 実証的なデータを基に、記述式の導入や試験の複数回実施に問題がないことを確認してから行動に移すことが大切です。

     安田 各大学の個別試験についてはいかがでしょうか。

     前川 大学入学者選抜は、知識・技能に加え、思考力・判断力・表現力、高校時代の活動、意欲や適性を総合的に評価するものに変えていきます。教育改革に沿った形で、アドミッション・ポリシーに基づく多面的・総合的な評価による丁寧な選抜ができるように変わっていくことが重要です。個別入試改革が大学入試改革の中核ですから、各大学の努力を期待しています。国としては、各大学をどのように後押しするかを考えているところです。

     石原 「普遍的な学力を身に着けるための高大接続」「選抜のための入試から大学に合った学生を探す入試へ」という入試改革の方向性は多くの人が賛成しているのではないでしょうか。

     内村 改革によって、大学と生徒が相互理解を深めた上で進学する大学を決めていくようになれば理想的です。

     南風原 各大学が現状の個別入試でうまくできていることは、今後も主体的に続けていくのがいいでしょう。

     内村 京都工芸繊維大学では、ダビンチ入試(AO入試)に早くから取り組んでいます。中央教育審議会の提唱する入学者選抜とよく似たスタイルで、14年前から成果を上げてきました。書類審査、模擬授業、小論文などの丁寧な1次選考で倍率を2倍まで絞り込み、アクティブ・ラーニングを取り入れた最終選考で合否を決めます。試験の実施に手間がかかる、1次選考を丁寧に設計しなければいけないという問題はありますが、優秀な学生が入学してきています。

     南風原 東京大学では16年度から推薦入試を実施します。学生の多様性を促進するのが狙いにあり、高大接続改革の趣旨に合った初めての試みです。特定の分野や活動における卓越した能力や強い関心を持つ志願者を求めています。試験に向けた教育ではなく、総合的な学習の時間など、より探究的な学習の成果を評価します。一般入試の学生と異なり、学部ごとの募集を行い、入学後は前期課程(1・2年生)から関心に合わせて専門教育に触れる機会を設けます。合否判定は、提出書類・資料、面接等、センター試験の成績を総合的に評価して行います。

     内村 個別試験の改革は必要ですが、全ての大学で丁寧な評価に基づく入試はできないでしょう。集団討論を全員に行うのは難しく、ポートフォリオ評価も専門家でないと厳しい。また、大学教育が変わっていないのに、アメリカ型のAO入試を取り入れても機能しません。大学や学科ごとに求める学力は異なるので、それぞれに応じた学力検査を中心に、ポートフォリオ評価や総合型の問題を取り入れるなど多元的な評価を加えるのがよいと思います。そのためには、作問担当者の養成や調査書の改良などの課題解決が必要です。

    学生をどう伸ばすか教育の力が問われる

     安田 高校でアクティブ・ラーニングをしてきた学生は、大学の授業の大半が座学だと失望するということも予想されます。

     内村 これからの大学は、学生の意欲を引き出して能力を伸ばしていくコーチングをいかに行うかが大切です。面倒見の良さを売りにする大学が増えていることに危機感を覚えます。高校と大学では違う育て方をしなければいけないことを意識し、大学自身が本来の姿に戻らなければいけません。

     南風原 大学の教員も、研究だけでなく教育への意識が強くなっています。学問の醍醐味(だいごみ)を学生に味わってもらえるよう、教育改善に取り組んでいるところです。

     前川 大学が社会に対してどのように対応していくかが問われています。高校の学習指導要領のような基準はないので、個別の大学教育については大学が自由に取り組むことができます。多くの学生が職業人になっていく現在の大学の役割をふまえ、出口から先のことも考える必要があると思います。

     石原 今回の高大接続改革で良いのは、アドミッション・ポリシーやディプロマ・ポリシーなどをはっきりと示すことが求められている点だと思います。入学したら何を学べるのか、卒業までにどのような能力を身に着けることが求められるのかを、大学側が具体的に受験生に示すことで、偏差値・立地・学費による大学選びからの脱却が期待されます。

     南風原 これからは大学教育でも、教育機関として卒業までにどれだけ学生の力を伸ばしたかを、さらに問われるようになるでしょう。

     内村 大学入試改革の目的は、高校・大学の教育改善であるべきです。教育に一つの答えはありません。高校・大学・国の関係者が、知恵を出し合い考えることが大切だと思います。

    司会/毎日新聞大学支援センター・中根正義、構成/大学通信・松平信恭

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