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日航機事故30年

羽田の整備士が語る123便 再発防止に「記憶語り継ぐ」

日航の鈴鹿靖史監査役=東京都品川区の同社で2015年7月29日、米田堅持撮影

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 日航ジャンボ機墜落事故が起きてから30年の間に、日本航空は整備トラブルなどを連続して起こしたために業務改善命令を受け、経営破綻にも直面した。一方、世界の航空界では情報技術(IT)を中心にした新技術、格安航空会社(LCC)などの新ビジネスが登場している。環境の激変の中で、事故防止の最前線である整備現場はどう変わったのか。ジャンボ機事故当時は整備士だった鈴鹿靖史・同社監査役(58)が証言する。

圧力隔壁の破壊……驚きと恐怖

 「8月12日の午後6時半ごろだったと思う。工場にいたらJA8119(123便)が『ドアに不具合があり戻ってくる』という連絡があった。だが、いつまでたっても到着したという連絡がない」

 鈴鹿さんは当時、整備士6年目。整備マニュアル作成や、トラブル時の修理方針策定を担当する羽田整備工場技術課に勤務していた。12日夜はドア修理を担当していたこともあり、事務所に待機した。

 「やがて『レーダーから機影が消えた』という連絡がライン(現場整備)から来た。大変なことが起きたのは理解したが、どうすればいいか分からなかった。混乱したまま、会社は事故に突入していった感じでした」

 翌日から多くの整備士も遺族の支援などを命じられた。人手がない中で「もう一度同じことがあったら、とんでもないことになる」という緊張感が現場を支配していた。

 事故の約10日後、鈴鹿さんも現場に派遣された。事故調査委員会に協力して、御巣鷹山付近で落下したジャンボ機のパーツを回収し、場所と落下状況をひとつひとつ記録した。まだ部品には熱が残っていて、事故のすさまじさを実感した。クマザサをかき分けての作業が一カ月以上続いた。

 9月ごろになって、原因は後部圧力隔壁の修理ミスの可能性が高まった。「圧力隔壁の厚みは1ミリ以下。そんな薄い金属が原因で、こんな大事故になってしまうのかと驚き、怖くなりました」

ボーイングにも注文

 修理ミスを招いたのはボーイング社の作業だったため、事故翌年の1986年、新セクション「シアトル米州技術部」が発足した。業務は、ボーイング社に発注した完成機の受領時点検に加え、製造状況にも必要な意見を言うことだった。

 同部に87年に赴任した鈴鹿さんは下請けの製造協力会社も含め、視察に歩き回った。当時のボーイング社では、私服の作業員が足や腕のカバーを着けずに機体を結合する作業をしており、「異物が混入する可能性がある」とカバーの装着を申し入れて実現させた。事故後だったため、ボーイング社、下請け会社とも協力的だった。

 90年代に入ると、ボーイング社は大型旅客機「777」の生産から、運航会社も開発に加わる「ワーキング・トゥギャザー」(共に仕事をする)を本格化させた。JALは85年の事故以来部品の不具合情報を蓄積した「信頼性データベース」を提供し、英語で書かれた「整備マニュアル」に平易な言葉を使うよう申し入れた。

 だが、JALは2004年末から05年にかけ、車輪の部品を間違って使用するなど連続してトラブルを起こし、国土交通省から業務改善命令を受けた。さらに事故から20年の同年8月12日には、福岡空港を離陸直後のDC10機のエンジンが爆発し、部品が人のいる地上に落下する事故を起こした。技術企画部長だった鈴鹿さんは「作業量の増加に、現場の整備力が追いついていかなかった。私自身も責任者として、そうした状況を解決できていなかった」と反省する。

 そこで、エンジンを取り外した上での大がかりな総点検などは、思い切ってシンガポールの会社などに外注し現場の仕事量を減らした。同時に、格納庫で徹底的に「自分の仕事とは何か」を話し合った。

「聞け」を強調

 09年にJALは経営破綻した。整備現場も経費削減を求められたが、「金を使わないでも、ミーティングなどは続けられた」と鈴鹿さん。強調したのは「三現主義」だった。「実際に故障の現場(現地)に行き、飛行機を触って(現物)、パイロットや他の整備士(現人=げんにん)から話を聞く。その繰り返しからしか、信頼性は確保できない」

 特に現場には「聞け」と言ってきた。新人や若手には「(エンジンが過熱したり、車輪に異音が出たりすれば……)、『どうしてこうなったのか』と先輩に聞け」、ベテランやマネジャーには「『どういう狙いでこの作業をするのか』と後輩に聞け」と繰り返してきた。

 この30年で航空機はITなど新技術が導入され、機械としての信頼性は向上した。現場にはコンピューターが入り、飛行機の側から事前に故障や不具合のサインを出してくれるまでになった。だが鈴鹿さんは「こうした状況には危惧もある」と語る。

 「今は経験の浅い整備士でも、電子辞書を扱うようにコンピューターを使って航空機の不具合をピンポイントで特定できるが、修理して終わり。不具合の背景にある危険を見つけようとする人が少ない。危険が認識されていなければ、大きな事故につながる可能性がある」

 「未知の危険」は存在する。13年には最新型機ボーイング787で、日航機、全日空機ともに火災が発生した。火元のリチウムイオン電池は従来の航空機では使われておらず、発火原因の電池内部のショートも想定外だった。「マニュアルを覚え、コンピューターを使うだけではダメだ。己の五感をフル活用して整備に臨む姿勢が必要です」

 JALの社員の9割は既に事故後の入社組になった。「あの事故はまぎれもなく、安全の原点。会社を離れても、安全運航の責任を果たすために、事故の記憶は語り継ぎたい」【黒川将光】

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