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<社説>安保転換を問う 週内採決方針 議会政治壊すつもりか

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 こんな言葉を記したい。

 「ご支持いただけないからといって、安易に数の力で抑えこもうというようなことは、とるべき道ではない。常に自ら謙虚に反省し、額に汗しながら説得につとめ、合意を求めてまいりたい」

 自民党の大平正芳元首相が生前、語った言葉である。「和の政治」「国民と一体の政治」を唱え続けた大平氏は「(自民党を)支持していただけない方々も国民のみなさんであることに変わりはない」とも言っている。時代を超えて政治のリーダーが守るべき姿勢であり、これが議会制民主主義の基本でもあろう。

首相のやじと異論排除

 安全保障関連法案は参院に送付されて60日が経過し、衆院での再可決も可能な段階に入った。与党はこの「60日ルール」の適用もちらつかせながら、週内に成立させる方針でいる。もはや国民に理解されなくても仕方がないとばかりに成立を急ぐ安倍晋三首相は今、大平氏の言葉をどう受け止めるだろう。

 首相が言うように確かに最後は多数決で決するのが議会政治だ。だがこの法案は、むしろ審議の結果、成立させるべきでないことが明白になったというべきだ。第一に憲法違反との指摘に対し、政府は結局、納得のいく説明ができなかった。そしてなぜ集団的自衛権を行使する必要があるのか、法案の目的も審議するほど不明確になったからだ。

 ここに至る手法にも問題がある。

 法案の衆院審議が始まる直前の5月下旬、私たちは異論や慎重論に耳を傾けない首相の姿勢をまず改めよと書いた。残念ながら白か黒か、敵か味方かしかないような首相の「決めつけ議論」は変わらなかった。

 国会の審議では首相が野党に対し「早く質問しろよ」「まあいいじゃん。そういうことは」と乱暴なやじを飛ばして議論をさえぎった。

 側近の礒崎陽輔首相補佐官は地元での会合で「法的安定性は関係ない」と語った。憲法との整合性など二の次だということだ。多くの国民はこれが政権の本音と受け取ったろう。自民党の若手の勉強会では「法案に反対するマスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」との暴言も出た。異論を封殺しようとする傾向は一段と強まっている。

 この法案は昨夏、歴代内閣が長年保ってきた憲法解釈を覆し、限定的とはいえ集団的自衛権の行使を認める閣議決定をしたことに始まる。しかし、昨年末の衆院選で首相は「消費増税先送りの是非」を最大の争点に掲げ、安保法案は自民党の公約に羅列した約300項目の政策の後半に「切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備」などと記されたに過ぎない。

 今国会が始まった今年2月の施政方針演説でも首相は「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする」などと述べただけだ。一方で首相はまだ法案が国会に提出されていない4月末、米議会での演説で「夏までに必ず実現する」と宣言したのだ。

 国会軽視、選挙軽視、国民軽視の極みである。衆院選で勝てば、すべてが白紙委任されたと首相が考えているとしたらあまりにも独善的だ。

独走抑えるのが国会だ

 首相は祖父の岸信介氏が首相だった1960年の日米安保条約改定を例に挙げ、「あの時も戦争に巻き込まれると批判されたが、改定が間違っていなかったのは歴史が証明している」と繰り返す。自民党の高村正彦副総裁も「刹那(せつな)的な世論だけに頼っていたら自衛隊も日米安保改定も国連平和維持活動(PKO)協力法もできなかった」と言う。

 今回の法案に対し、党派や組織を超えて国会周辺を中心に反対デモが広がっている。法案の中身だけではない。多くの参加者は安倍政権の強引な手法に不安や危うさを感じるとともに、首相らの独走を抑えられない国会にも不満を感じているから行動を起こしているのではないだろうか。世論調査でも依然、反対意見が優勢だ。それを刹那的だと語ること自体が、おごりの表れだろう。

 安保政策や社会保障政策は本来、政権が交代するたびに激変していいものではない。だから与野党の幅広い合意が必要なのである。

 日本が初めて自衛隊の海外派遣を検討した90年の国連平和協力法案は憲法との整合性などを説明できず、自民党自ら廃案を決断した。同時に自民党はPKOに限定して自衛隊が参加する検討を始めることを公明党と旧民社党との間で合意し、後に3回にわたる国会審議を経てPKO法を成立させるきっかけを作った。

 今回も集団的自衛権の関連などを除けば、民主党も含め歩み寄りが可能な点はあったはずだ。だが、首相らはすべてに賛成するのか、しないのかの選択を迫るのみで幅広い合意を形成しようという姿勢はついぞ見られなかった。

 このままでは議会政治の根幹が崩れてしまう。成立を断念して出直すよう重ねて強く求める。

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