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<記者の目>静岡 電気柵2人感電死事故=松岡大地(静岡支局)

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自作装置の危険、周知を

 静岡県西伊豆町の川岸に設置された電気柵付近で、7人が感電し2人が死亡した事故から間もなく2カ月がたつ。この電気柵は自作で、法令で義務づけられた安全装置は一切付いていなかった。電気柵は野生動物の食害などを防ぐため、全国各地に約70万台が設置されているという。事故後、関係機関は法令の周知と注意喚起を図っているが、事故前の周知が十分だったとは言い難い。周知への取り組みを一過性に終わらせないとともに、野生動物の食害対策の強化も必要ではないか。

 事故は7月19日、伊豆半島西部の小さな集落で起きた。川で遊んでいた親子らが電線に触れ感電。悲鳴を聞いて駆けつけた家族らも感電した。電気柵は川岸のアジサイ花壇をシカなどから守るため、近所に住む男性が設置していた。友人同士の2家族が一方の親族宅に遊びに来ていた際の事故。男性は事故から約3週間後、自ら命を絶った。

 現場付近は、20年ほど前からシカやイノシシが農作物を荒らす被害が目立っていた。「昼も夜も我が物顔でシカが歩いているから、この辺はみんな電気柵をつけているよ」。近隣でミカンなどを栽培する男性(81)はぼやく。

 野生動物による農作物被害は全国規模の問題だ。農林水産省によると、2013年度の獣類による被害は163億円で、10年前から約4割増。狩猟免許所持者の減少や耕作放棄地の拡大などで、野生動物が増えているのが要因だ。静岡県によると、野生シカが農林業に被害を与えない生息数は1平方キロあたり1〜2頭。ところが伊豆半島は10〜12年度の調査で、21・9頭に上る。

かつて類例2件、国の広報不十分

 田畑の周りに簡易なフェンスを張り巡らせた程度では、シカやイノシシは突破してしまう。電気柵なら、畑の周りに支柱を立てるだけで獣害を防ぐことができ、規模にもよるが通常は値段も数万円と手ごろだ。メーカー団体の日本電気さく協議会の宮脇豊会長は「農家の高齢化や自治体の購入費補助もあり、ここ10年で飛躍的に電気柵の認知度が上がった」と分析する。

 電気事業法は電気柵に関し、電流を3000分の1秒流して1秒以上止める「パルス発生装置」や、漏電遮断装置、危険を知らせる看板の設置などを義務づけている。感電事故を防ぐためで、市販の電気柵にはこれらが付いている。ところが、今回事故が起きた電気柵にはなかった。自作した男性は電気関係の仕事に就いた経験があったが、感電の危険性をどの程度知っていたか。近隣に住む男性は「電気柵設置の安全基準なんて、聞いたこともない。彼だけを責めるのは、あまりにも酷だ」と同情を隠さない。

 法令違反の自作電気柵による死亡事故は、兵庫県で09年と11年に起きていた。経済産業省は10年、電気設備の技術基準の解釈を一部変更し「電気柵の電源装置は人に危険のない出力電流に制限があるもの(パルス発生装置付きのもの)」と明記したが、十分に生かされなかった。一般の家電製品でもぬれた手で触るなどすれば死亡事故になる可能性はあり、経産省は8月を「電気使用安全月間」として重点的に広報活動をしていたが、同省の担当者は「電気柵の注意喚起はほとんどしていない」と認める。農水省が事故後に実施した全国調査によると、約10万カ所の電気柵の7%に当たる約7000カ所で安全対策が適切に講じられていなかった。

 また、電気柵の規制は経産省、農産物対策としての電気柵設置は農水省と分かれていたことも一因ではないか。農水省の担当者は「これまでも適切な電気柵を使うように呼びかけてきた」と話すが、6月に電気柵講習会を開いた山梨県のある自治体の担当者は「安全使用というより、獣害を防ぐには、どう電気柵を効果的に使うべきかという視点が主だった」と話す。

食害招く動物の管理強化も必要

 根本的な対策としては、野生動物の適正な管理が求められる。静岡県はシカを毎年約1万2000頭捕獲しているが、県自然保護課は「シカの繁殖力は強く、現状維持がやっと」と明かす。シカを減らすには、子供を産む雌をさらに捕獲する必要があるが、狩猟者の減少で手が回らないのが現状だ。

 9月3日に改めて現地を訪ねた。設置されていた献花台は撤去され、地域は徐々に日常を取り戻そうとしていた。地区会長の男性は「地域の中で、大きな不幸がありショックだ。何とか地域のみんなで支え合っていきたい」と声を絞り出した。小さな集落では一つの事故が大きな影響を与えかねない。痛ましい事故を繰り返さないためにも、継続的、長期的な取り組みが求められている。

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