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安保法成立

成立へ 立憲主義に大きな傷

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国会議論深まらず

 衆参両院の平和安全法制特別委員会での安全保障関連法案の審議は計216時間を費やしたが、詰め切れなかった課題が数多く、議論が深まらなかったのと裏腹に、特別委の「場外」での政府・与党側の発言が波紋を広げる場面が目立った。

     政府・与党にとって大きな打撃となったのは、3人の憲法学者が出席した6月4日の衆院憲法審査会。自民党推薦の長谷部恭男・早大大学院教授が法案を「憲法違反だ」と明言。野党推薦の2人も憲法違反と主張したことで、法案に対する国民の疑念が一層高まった。

     6月25日に自民党本部で若手議員が開いた勉強会では、出席議員が法案に反対する報道機関を指して「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」と発言。国民の理解が広がらないことへの与党の不快感が露呈した形で、世論の批判が高まり、安倍晋三首相は7月3日の衆院特別委で「最終的には私に責任がある」と陳謝した。

     参院に審議が移った後、安全保障法制を担当する礒崎陽輔首相補佐官が7月26日、大分市内の講演で「法的安定性は関係ない」と発言。政府は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更は従来の解釈と一貫していると繰り返し説明してきただけに、与党の公明党からも強い批判が上がった。

     政府・与党のいらだちの矛先は、国会前で抗議活動を行う市民グループにも向かった。礒崎氏が謝罪した同じ日に、自民党だった武藤貴也衆院議員がツイッターで反対運動に参加する学生らについて「『戦争に行きたくない』という極端な利己的考え」と非難したことが発覚。その後、武藤氏は自民党を離党した。

     特別委審議で首相自らが野党の追及にいら立つ場面も目立った。5月28日には質問する民主党議員に対し、自席に座ったまま「早く質問しろよ」とやじを飛ばした。すぐに謝罪したものの、真摯(しんし)とは言えない答弁姿勢を象徴する光景となった。政府は安全保障の観点から法案の必要性を説いたが、国民の理解は広がらないままだ。【飼手勇介】

    首相、強引さの裏に執念

     「国のかたち」を大きく変えることになる安全保障関連法案をわずか一国会で成立させようという安倍晋三首相の姿勢は「強引」「拙速」など強く批判された。一方、集団的自衛権の限定的行使容認にとどまったことには、首相の支持基盤の保守層にとっては物足りなさが残った。首相のこだわりを読み解くと、「宿願」への強い執念が透けて見える。

     日米安保条約改定を控えた1960年3月の参院予算委員会。岸信介首相は「集団的自衛権の典型は他国に行ってこれを守ることだが、それに尽きるものではない。一切の集団的自衛権を持たないというのは、言い過ぎだ」と答弁した。

     2004年1月の衆院予算委員会で、岸氏の孫で自民党幹事長だった首相はこの答弁を引用。「中核(他国での武力行使)以外の行為について集団的自衛権の行使として考え得る可能性があるのではないか」と述べ、公海上での米艦防護などの今回の法案の枠組みを示唆していた。

     2人に共通するのは、日米同盟の中で日本の果たす役割を拡大しようとする姿勢だ。岸氏は片務的だった旧日米安保条約を改定し、米国が日本防衛義務を負う規定を設けた。首相は、祖父の目指した双務的な関係のためには集団的自衛権が不可欠と考える。今月4日に出演した読売テレビの番組では「同盟の歴史とは、互いに対等な同盟にしていく作業だ」と言い切った。

     首相は小泉政権の官房長官だった06年から、谷内正太郎外務事務次官(現国家安全保障局長)らと集団的自衛権の憲法解釈変更の研究を重ね、第1次政権時の07年5月、私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」に議論を諮問した。同年夏の参院選で惨敗し退陣したが、12年の年末に返り咲いた首相は、早速13年2月に法制懇を再度設置。法制懇は14年5月に集団的自衛権の行使を全面的に容認する報告書を提出した。

     これを受け首相は自民、公明両党に解釈変更の検討を指示した。与党協議の中で限定的容認にとどまり、「実」は失ったものの、14年7月1日の閣議決定で集団的自衛権という「名」を手に入れることができた。

     「宿願」に向かってひた走る首相。ある政府関係者は「首相にとってこの問題は岸氏以来の『歴史問題』だったのではないか。どんなに小さく、限定的でも『集団的自衛権』が取れれば良かったのだろう」と解説する。与党議員も「結局、首相は行使容認という看板がほしかったのだろう」と語った。【高本耕太】

    歴代の解釈、180度変更 法律家から反対続出

     5月末から約4カ月にわたった審議では、集団的自衛権の行使容認が「合憲」か「違憲」かで激しい論戦が繰り広げられた。元最高裁判事、元内閣法制局長官など法律の専門家が、次々に「違憲」との主張を展開。政府は安全保障環境の悪化を理由に「(法案の)正当性、合法性には完全に確信を持っている」(首相)との説明に終始し、違憲の疑いは残ったままだ。憲法が権力を縛る「立憲主義」の観点からも大きな禍根を残した。

     「日本語を普通に理解する人なら、とてもそのような読み方はできない」

     浜田邦夫元最高裁判事は15日の参院中央公聴会で、集団的自衛権の行使は「憲法上許されない」と結論づけた1972年の政府見解を、政府が行使容認の根拠としていることを真っ向から批判した。

     72年見解は、(1)憲法9条は日本の存立を全うするための自衛の措置を禁じていない(2)しかし、自衛の措置は、外国の武力攻撃によって国民の権利が根底から覆される急迫、不正の事態で初めて容認される(3)したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止する集団的自衛権の行使は憲法上許されない−−としている。

     政府は、(1)と(2)を「基本的論理」と位置付け維持したうえで、安全保障環境が厳しさを増していることを理由に(3)の結論を「限定容認」に変更したと繰り返してきた。

     一方、浜田氏は(2)の「外国の武力攻撃」は、当然「外国の日本への武力攻撃」を意味すると指摘。集団的自衛権行使の新3要件が「他国に対する武力攻撃」と表現を変え、日本への攻撃がなくても武力行使を認めていることについて、「強引な読み換えだ」と批判した。阪田雅裕元内閣法制局長官も「基本的な論理そのものを変更するものだと断ぜざるを得ない」と法案の違憲性を指摘した。

     首相は2012年末に政権奪還後、憲法9条改正は困難とみて、まずは憲法改正の手続きのハードルを下げる「憲法96条の先行改正」を模索したが、国民の理解が得られないと断念。内閣法制局長官に外務省出身の故・小松一郎氏を充てる異例の人事に踏み切り、憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認にかじを切った。民主党の辻元清美氏は「何とか自分たちの考える方向に憲法解釈をいじくり回して出した法案だから、矛盾がどっと噴出している」と批判した。

     首相が「限定容認の根拠たり得る」と強調してきた最高裁の砂川事件判決(1959年)の解釈についても疑義が広がった。

     大森政輔元内閣法制局長官は、砂川判決で集団的自衛権行使は争点となっておらず「この判決に行使許容の最高裁の意図を読み込むことはまったくの暴論だ」と指摘。「内閣法制局の任務の懈怠(けたい)だ。後輩は(この言葉を)頭にたたき込んで、もう一度考えてもらいたい」と述べ、憲法解釈変更で重要な役割を担った現職の横畠裕介内閣法制局長官に痛烈なメッセージを送った。

     一内閣の判断で、歴代政権が積み重ねた憲法解釈を180度転換する政府の姿勢に、現在は憲法解釈で許されない「徴兵制」への不安も広がった。

     首相は「徴兵制が合憲になる余地は全くない」と繰り返し否定したが、参院参考人質疑で、伊藤真弁護士は「(今回)やってみせたようにある日突然、(憲法解釈を)変更してしまう可能性を否定できない」と述べ、政府の憲法解釈に対する信頼性が揺らいだことを批判した。

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