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“いかにも手作り”じゃない 程よい止めどころがいい
◆『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』木村衣有子・著(亜紀書房/税抜き1800円)
『はじまりのコップ』は、千葉・九十九里浜の近くで吹きガラスの工房を営む左藤玲朗(さとうれいろう)さんの仕事と生活を、木村衣有子さんが聞き書きしてまとめたものだ。大学卒業後、教職を経て那覇のガラス工場で修業、その後、工房を持ち、自分のガラス作品を見いだすまでの半生と、仕事場での現在が魅力的に語られていく。
「器への興味は、京都の喫茶店でアルバイトしていた頃からありました。文章を書くようになってから、骨董を扱う店を取材しましたが、次第につくり手へと関心が移っていきました」と、木村さんは言う。
左藤さんのことはネットで知り、「居酒屋コップ」というネーミングに惹(ひ)かれた。その後、店での展示で実際に作品を見た。
「手づくりっぽさに寄りかからず、かっちりと仕上げてありながら人間味が感じられる。その程よい『止めどころ』がいいと思いました。左藤さん自身は『繊細ではないけれど、洗練されている』と表現されています。本書でも引用しましたが、左藤さんのブログには『年収200万円の人も買うガラス作家を目指したい』とあります。浮世離れせず、いまを生きようとする姿勢に共感しました」
木村さんは千葉・白子町の工房を何度も訪れ、左藤さんの話を聴いた。
「作業しながら話すと落ち着かないからと、私が行く日には仕事をせずに一緒にいて、ご飯を食べたり犬の散歩をしたりしながら話をしてくれました。左藤さんの中にある言葉をすべてもらった気がしますね」
本書の写真は木村さんの撮影によるもの。左藤ガラスの透明感が伝わる。
「静物や風景を撮りたいと思ってはじめた写真ですが、今回、初めてポートレートを撮ることができて嬉(うれ)しいです」
作品をつくる過程だけでなく、出来上がった製品の販売について語られるのも、本書の特色だ。
「いいものをつくって、それをどう売っていくかに興味がありました。小売店との取引やネットでの販売に関しては、妻・弥子(みつ こ)さんの力も大きいです。毎年秋に多摩川河川敷で行われる『もみじ市』には、昨年私も手伝いで参加して、左藤さんの作品が売れていく様を見ました」
左藤さんは作品を卸す店を絞り、長く深く付き合っている。木村さんは東京・二子玉川や国立(くにたち)、宮城・石巻の店主にも左藤さんについて聴いた。
「左藤さんの言葉を、いわば“B面”から検証したかったんです。スポーツのノンフィクションって、選手の周りにいる人たちの話も重要な要素になっていますよね。ああいう手法の影響を受けているのかも」
ものづくりに関心のない人にも、「職住一致」の生き方の例として本書を読んでほしいと言う。
「生活と仕事の場が一体化している点では、私のようなフリーランスも同じ。だから、左藤さんに感情移入して書いた部分もあります。フリーとして生きていきたいと考えている人の指針になればいいと思います」
聞き書きの可能性を感じているという木村さん。次はどんな人の物語を紡ぐのだろう?
(構成・河上進)
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きむら・ゆうこ
1975年、栃木県生まれ。文筆家。ミニコミ『のんべえ春秋』編集発行人。著書に『京都の喫茶店』『東京骨董スタイル』『もの食う本』『猫の本棚』『銀座ウエストのひみつ』『コーヒーゼリーの時間』など
<サンデー毎日 2015年10月18日号より>