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<記者の目>憲法解釈変更 法制局文書残さず=日下部聡(東京社会部)

衆院平和安全法制特別委員会で質問に答える横畠裕介内閣法制局長官=国会で6月26日、藤井太郎撮影

最低限の責務果たせ

 安倍内閣が集団的自衛権の行使を容認した昨年7月1日の閣議決定に際し、内閣法制局がその経緯を記録した公文書を作っていなかった。

     これは深刻な事態だ。

     取材を始めたきっかけは、横畠裕介内閣法制局長官が今年6月、衆院特別委員会で「法制局内に反対意見はなかったのか」と野党議員に問われ、「ありません」と断言したことだ。

    「反対意見なし」、内部議論闇の中

     「本当だろうか」と思った。内閣法制局は、その法解釈の厳格さゆえに「法の番人」として他省庁から一目置かれ、政治家からは時に疎まれてきた。横畠氏自身、法制局の仕事は「憲法をはじめとする法令の解釈の一貫性や論理的整合性を保つ」ことだと国会で答弁している。その組織が、40年以上も維持してきた「集団的自衛権の行使は違憲」という見解を手放したのだ。

     記録を見れば内部の議論が分かるかもしれないと考え、閣議決定に関する文書を情報公開請求しようと、法制局の担当者に問い合わせた。

     すると▽安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の資料▽安保法制に関する与党協議会の資料▽閣議決定の案文−−の3種類しかないという。自ら作った文書はないというのだ。

     耳を疑った。国の将来を大きく変える可能性のある解釈変更だというのに、あまりにもずさんではないか。同僚と周辺取材を重ね、9月28日の朝刊で記事にした。

     法制局には多くの文書を残さない「文化」があったようだ。「途中経過が外に出ると誤解が広がる。事案が機微なほど、記録は取らない傾向があった」と、法制局に勤務経験のある元官僚は明かす。とはいえ、「集団的自衛権行使は憲法上許されない」とした1972年政府見解の決裁文書は残っている。同年の沖縄本土復帰を前に、米国統治下の制度と憲法との整合性を幹部が議論した会議資料も国立公文書館に保管されている。

     しかも、2011年4月施行の公文書管理法は、行政機関に意思決定の途中経過も含めた詳細な記録を義務づけたはずだった。

     同法の第1条は公文書を「歴史的事実の記録」「主権者である国民が主体的に利用し得るもの」と定義し、それを残すことで、現在だけでなく将来の国民に対する説明責任を全うするとの目的が掲げられている。単なる手続き法ではなく、民主主義の理念が埋め込まれた法律なのだ。

     この法律は福田康夫元首相が導入に道筋をつけた。政府提案なので、原案は内閣法制局の審査も受けたはずだ。

     東京電力福島第1原発事故の際、政府の原子力関係の部署が議事録を作っていなかったことが12年に発覚した。この時、公文書管理法を盾に民主党政権を厳しく批判したのは、自民、公明両党だった。

     今回の憲法解釈変更も同じだ。「あの時、何があったのか」と国会議員や国民が議論しようとしても、記録がなければ闇の中である。

    国民と記録共有、民主主義の根幹

     安全保障や軍事とは真剣に向き合わなければならないと思う。だが、正確な記録が共有されることが大前提だ。

     1945年8月15日の終戦を境に、軍や中央省庁から市町村役場に至るまで、全国各地で戦争関連の公文書が焼かれたという。私たちが失敗から学ぶための資料が大量に失われた損失は計り知れない。

     それを最初から作らないのは、より悪質とさえ言える。

     記事掲載直後から、ツイッターなどインターネット上に「驚いた」「これはまずいでしょ」といった感想があふれ始めた。予想を超える反響に勇気づけられた。情報公開制度を使えば、誰でも公文書の有無をチェックできる。同じことを繰り返させないために、市民の知恵と力が必要だ。

     横畠氏は閣議決定前に与党政治家と非公式に会い、憲法解釈の変更に合意していたようだ。法制局は閣議決定前日に案文を受け取り、翌日には「意見なし」と電話1本で回答している。それはそうした経緯があるからだろう。

     安倍首相が13年8月、内閣法制局の「たたき上げ」を長官としてきた慣例を覆し、集団的自衛権行使容認派の外務官僚、小松一郎氏を長官に任命したことで、その独立性は明らかに損なわれた。安倍首相は主に外国向けにアピールする「法の支配」や「民主主義の価値観」と正反対のことを、自身の足元で進めていると言わざるを得ない。

     内閣法制局の権威は崩れ落ちてしまった。今からでもいい。横畠氏は水面下の経緯を文字に起こし、公文書として残さなければならない。それが、この国の未来に対する最低限の責務ではないか。

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