SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『パック・イン・ミュージック』『民主主義ってなんだ?』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

みんなの夢と思いが詰まっていた

◆『パック・イン・ミュージック』伊藤友治+TBSラジオ編・著(DU BOOKS/税抜き2500円)

 60年代末から70年代、若者たちはみな夜空を見上げ、ラジカセのアンテナを伸ばした。ラジオの深夜放送を聴くためだ。伊藤友治+TBSラジオ編著『パック・イン・ミュージック』は、伝説の人気番組のすべてを書きつづる。

 野沢那智と白石冬美(ナチチャコ)を筆頭に、林美雄、愛川欽也、吉田拓郎など、人気パーソナリティーを生んだ「パック」。音楽を流しハガキを読む。そんなシンプルな構成ながら、当時の若者は、みな熱中したのである。本書は、そんな舞台裏を当時の関係者の証言により再現していく。

 吉田拓郎の最初の結婚式は、「パック」が独占放送、松任谷(当時・荒井)由実を発見し、注目させたのもこの番組だ。聴取者ハガキによる硬派な問題提起など、深夜放送が時代を作っていたことが、これでよくわかった。

 番組終了が決まった時、抗議する若者約200人が、東京でデモ行進をした。「パック」に「夢を馳(は)せた人々の強い思いや情熱」は、星のごとく遠く輝く。

◆『民主主義ってなんだ?』SEALDsと高橋源一郎・著(河出書房新社/税抜き1200円)

 国会前での抗議をはじめ、安全保障関連法案への反対運動をしてきた学生グループ・SEALDsと高橋源一郎が、ともに『民主主義ってなんだ?』で対話する。ギャンブラーの父を持つ牛田、牧師の父を持つ奥田、そしてニューヨーク生まれの芝田。彼らが組んで、SEALDsが始まった。高橋の巧みなリードと理解で、彼らの考えが露(あら)わになる。本当の意味での「民主主義」の復権と、安倍政権の暴走へ異議申し立てをする。熱い言葉に未来を感じる本だ。

◆『本の世紀』信濃毎日新聞取材班編(東洋出版/税抜き2400円)

 信濃毎日新聞取材班編『本の世紀』(永江朗解題)は、副題のごとく「岩波書店と出版の100年」を取材し、考察する。創業100年強の岩波書店の歴史をたどれば、そのまま近現代日本の出版文化と重なるのがすごい。岩波文庫・新書の創刊、検閲と出版弾圧の荒波をのりこえ、戦後、国語辞典の範となる『広辞苑』を刊行した。また、出版不況の現況もつぶさにリポート。街の本屋の減少、電子書籍市場、小出版社の活躍など、出版史を通覧できる。

◆『なにが? 永遠が』マルグリット・ユルスナール/著(白水社/税抜き3400円)

 1987年に物故した世界的作家、マルグリット・ユルスナール。自伝的3部作「世界の迷路」の前2作で、母そして父について書いてきた。いよいよ最後の第3巻本書『なにが?永遠が』が、堀江敏幸の手で訳出された。父ミシェル、産褥(さんじよく)で若くして亡くなった母フェルナンド、そして父が心を寄せた女性の存在が明らかになる。大量殺戮(さつりく)を含む死の予感は、やがて「私」にも及ぶ。古典的たたずまいを生かし、かつ清新な堀江訳はみごと。

◆『ぼくの〈那覇まち〉放浪記』新城和博・著(ボーダーインク/税抜き1600円)

『ぼくの〈那覇まち〉放浪記』の著者新城和博は、沖縄・那覇で生まれ育って半世紀、古い地図と記憶を連れて、自転車で散歩する。アメリカ統治から日本復帰と、大きく変貌しつつあるわが町。街角の本屋、喫茶店、レコード屋にパチンコ屋、失われた風景に、著者の個人的な体験がからみ、さらに妄想で膨らんでいく。すると、生まれ育った町が、まるで遠い見知らぬ町に見えてくるのだ。軽妙かつ哀愁を帯びた文章と、貴重な写真が多数掲載される。

◆『70’HARAJUKU』中村のん・著(小学館/税抜き1200円)

 まさに「出会うことが、青春。」(帯文)。人、ファッション、音楽、流行、風景、あらゆるものとのまぶしい出会いがぎっしり詰まっている。日本初のスタイリスト“表参道のヤッコさん”のアシスタントだった中村のんが、9人の写真家たちから集めた貴重なスナップショットを『70’HARAJUKU』にまとめた。舞台は東京・原宿。最先端のクリエーターが集った喫茶店「レオン」や同潤会アパート。登場する人たちは皆、まなざしが強い。

◆『心が見えてくるまで』早川義夫・著(ちくま文庫/税抜き720円)

 元ジャックス、書店経営を経て、再び歌い出した早川義夫。ありのままの姿をさらけ出す文章にも定評あり。新エッセー集『心が見えてくるまで』は、なんと書き下ろし。妻子がありながら、恋人がいて、その交際もあけすけに書く。「世の中には、こんな僕をわかってくれる人がごくまれにいるのだ。変態は普通を目指す。普通は変態を目指す」と、なんとも自由な文章だ。もちろん音楽の話もたっぷり。やんちゃでチャーミングな60代がここにいる。

◆『円朝なぞ解きばなし』和田はつ子・著(ハルキ文庫/税抜き600円)

 和田はつ子『円朝なぞ解きばなし』の「円朝」は、近代落語の祖となった名人。その師・円生が、成仏できずに、湯島の自宅あたりを幽霊になって徘徊(はいかい)するという噂(うわさ)が流れた。人気のある円朝への恨みゆえ、ともいわれる。円生がいまわの際に呟(つぶや)いた「冥途(めいど)の仇(あだ)討ち」という言葉、円朝に贈られた美しい幽霊画、師匠の家の蔵に住みついた男と、謎は深まるばかり。全3話。いずれも若き円朝が、男女の情けに踏み入って事件を解決する、異色の時代小説。

◆『誘拐された犬』スペンサー・クイン/著(創元推理文庫/税抜き1000円)

 バツイチの元刑事と、大型犬のコンビが織りなすミステリー「名犬チェットと探偵バーニー」シリーズ第2弾が出た。伯爵夫人の愛犬のボディーガードを、高額報酬につられて引き受けるも失敗。ところが、夫人と愛犬が何者かに拉致された。事件を追う新聞記者で、バーニーの恋人スージーまでが姿を消した。必死で探索する探偵と犬に立ちはだかる、大いなる罠(わな)。スペンサー・クイン(古草秀子訳)『誘拐された犬』は、犬好きには見逃せない傑作だ。

◆『損したくないニッポン人』高橋秀実・著(講談社現代新書/税抜き800円)

 人気ノンフィクション作家の高橋秀実は、ある日気付いた。いまの世の中、『損したくないニッポン人』だらけではないか。そして自分も。地元スーパーでも安売りセールに目がくらみ、割引駐車場の時間が気になる。そのほか、エコに節約ブーム、ポイントカードに通販、不動産、リスクヘッジなど、日本人は今や「損したくない」病にかかっている。損得に左右される現場を訪ねながら、持ち前の好奇心と観察眼で、現代日本人の実像を明らかにする。

◆『水の常識ウソホント77』左巻健男・著(平凡社新書/税抜き770円)

 蛇口から飲める水が出る日本。当たり前すぎて、改めて考えることはないが、『水の常識ウソホント77』を読むと知らないことばかり。著者の左巻(さまき)健男は、科学者の立場から、「水」の不思議を77の設問にして読者に教え、考えさせる。なぜ水を飲まないと人は生きられないのか、という根本から発し、水と体の関係をまずは説く。さらに、水道水とミネラルウオーター、井戸水の比較から、浄水器の選び方まで話は及ぶ。これを見ずして水を語るなかれ。

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

−−−−−

おかざき・たけし

 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

<サンデー毎日 2015年10月25日号より>

あわせて読みたい

注目の特集