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Listening

<第69回読書世論調査>明大教授・齋藤孝さん/女優・作家、中江有里さん

 27日〜11月9日は「読書週間」。毎日新聞が毎年実施している「読書世論調査」では、調べ物は今や6割の人がインターネットに頼り、若い人ほどその傾向が強くなっていることが裏付けられた。読書好きのお二人に、好きな本との出会いや付き合い方について聞いた。

    心の「師」出会う場 読書が総合的な思考力鍛える 明大教授・齋藤孝さん

     日本語との親しみ方を説いたミリオンセラー「声に出して読みたい日本語」で知られる齋藤さんは3色ボールペンを用いた読書法など読書の楽しみ方を提唱してきた。その原点は学校での国語教育にあるという。

     中学時代、国語の先生が授業の最初に必ず、現在自分が読んでいる本について語ってくれた。「天平の甍(いらか)」(井上靖)や「隠された十字架」(梅原猛)−−。「僕らも刺激を受けて読んだ」と振り返る。

     高校では、夏休みの国語の課題が「論語」や「孟子」を読むことだった。「その時に孔子の『論語』や司馬遷の『史記』を音読して楽しんだことが『声に出して読みたい日本語』につながった」と語る。「竹取物語」を全文筆写し、現代語訳と品詞分解する宿題も。「すごいハードだったけれど、幸運だった。国語の授業が今の自分につながっている」と感謝する。

     教育学を教える現在、教職課程で教員を目指す大学生たちに、「授業の最初の1分ぐらい、今この本を読んでいる、と語りかけられる先生になってほしい」と、新書や文庫本などを週に3冊以上読み、学生同士で互いに報告し合うことを求める。すると、「それまであまり本を読んでいなかった学生が互いに刺激し合うことであっという間に読書の習慣が身につく」

     自身も本の内容を語り合う「読書会」を大学生時代から重ねてきたという。同時に、孤独の中で「読書」を通じて得るものの大きさを指摘する。「若いときはある種の孤独感を抱きがち。その時、自分の魂の導き手を本の中に見つけることが大切。本を読めば心の中にたくさんの師を持てる。ゲーテおじさんが常に心の中で味方してくれるなんて心強い」とほほ笑む。

     現在、若者たちのスマートフォン依存が問題となっているが、「その時間を読書に充てたら全然違う」と話す。「インターネットで情報は入手できるが、それを活用する総合的な思考力が大事。人間の<知情意体>すべての総合力を鍛えてくれるのが偉大な作家たちとの出会いであり、読書を通じた対話」と強調する。そして、引用力を身につけてほしい、と呼び掛ける。「偉人の本を読んでしみ込ませて、それを引用できることが教養であり、真に身についた知識」と語る。

     スムーズに読書できない悩みを抱える人たちには「読書のギアチェンジ」を勧める。「1冊の本をかばんに入れ続けてじっくり読むのもいいし、とにかく要旨をつかんでパッパと読んでいく読書も必要。本によって読み方のギアを変えるべきだ」と言う。1冊の本を読み終わるまで次の本に進まないのも良くない。「それだと読書が止まってしまう。10冊ぐらいの本を並行して読めば、1冊滞ってもほかの9冊は生きている」

     フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を全否定はしない。「SNSで友達と刺激し合える環境は昔よりずっとそろっている。ならば、フェイスブックやブログで本の話題を書き込んでほしい。ブックリストを作って、印象的な文章を引用する。すると『ああ、こんなこと書いているのか』と分かる。互いに読書の記憶を交換し合うことが引用力にもつながる」

     「読書は壮大な旅。芭蕉の作品を読めば、江戸時代の日本を旅できる」。静かな語り口の中から読書への愛があふれた。【聞き手・木村光則、写真・中村藍】

    生きる想像力育む 読者の数だけ物語は膨らむ 女優・作家、中江有里さん

     女優と作家、書評執筆、さらにテレビや講演などで読書の大切さを易しく語りかける“伝道師”としても活躍している。「本を読んで思索にふけってこそ、生きる楽しみを見いだせます」と力を込める。

     自身の原体験は、幼稚園の頃に歯科医院の待合室で、表紙の女の子の絵にひかれて手に取ったマリー・ホール・エッツの絵本「わたしとあそんで」だ。友達のいない少女が動物たちに「遊んで」と頼んで回るが、逃げられてしまう。寂しい思いでいると、動物たちの方から集まってくる。「私は内気で、友達をつくるのが苦手でした。友達は自然にできるのかもしれない、とホッとしたんです。治療に通う間、何度も読み返しました」

     小学生になって以降は、いわゆる児童文学を次々に読破していった。「自分で本を選ぶのが楽しかった。親からすると、教育的にためになりそうな本を与えたくなるでしょうが、本人に興味がなかったり、背伸びしすぎたりすれば逆効果です」。図書館や書店で、子どもたちがお気に入りの1冊を胸に抱えて目を輝かせている場面を思うにつけ、まずは自主性に任せるのがいいのかもしれない。

     中江さんは高校1年の夏に女優デビュー。まず、文字だけの脚本を読み込んで演技しなければならない厳しさに直面した。「せりふとト書きだけ。なぜ、このせりふを言うのかの理由は何も書いてありません。お芝居のレッスンの先生からは『本を読みなさい』と繰り返し言われました。役柄を造形し、せりふや動きで表現するには、最終的に想像力が要ります。想像力は、たくさんの本を読んでこそ鍛えられると思います」

     そもそも中江さんは、小説は書かれただけでは“未完”と考えている。つまり、読者の数だけ物語は自在に膨らみ、作品を創作した作家自身も思いつかないような、読者それぞれの物語世界が生まれる。「自分だけのオリジナル映画を見るイメージをもっています」

     リアルに役を演じるためには“履歴書”を作るという。どこで生まれ、どんな親の元で育ち、どんな友達がいるのか? 想像力がないとできない。それを立体化したものが芝居なのだという。「ただ、私は俳優は決して特別な仕事とは思いません。よく『男らしく』とか『女らしく』って言いますよね。これらを含めて、会社でも学校でも、すべての方々が何らかの役を演じていると思うのです」。だからこそ、気の合わない人とも協力しないといけない人生において、物語から得た想像力が私たちを柔軟にしてくれるはずだ。

     とはいえ、小説を読む時間が惜しい、学校や職場で直接的に役に立つ本の方が得だとお考えの向きもまた多いが。「私は、文学は実学だと思っています。だって、便利な携帯電話も、ノーベル賞ものの大発見も、すべては人間が『こんなことができたらいいなあ』って夢見た想像力のたまものでしょう」。実用書は内容をすぐに忘れてしまいがちだが、物語世界は何年たっても鮮明に覚えていることを考えても、小説の効果は大きい。

     中江さんお薦めの読書法をひとつ。「併読です。バッグに1冊、リビングに1冊、ベッド脇に1冊という具合に、時と場合に応じて複数の本を並行して読み進めれば、とっつきにくい難解な本も自然に読み終えられますよ」。その達成感こそ無限大だ。【聞き手・鶴谷真、写真・内藤絵美】


     ■人物略歴

    さいとう・たかし

     1960年、静岡県生まれ。東京大法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に「声に出して読みたい日本語」(草思社)、「読書力」(岩波新書)、「大人のための読書の全技術」(カドカワ中経出版)、「本をサクサク読む技術」(中公新書ラクレ)など。TBS「新・情報7daysニュースキャスター」のコメンテーターを務めるなどテレビ番組にも数多く出演している。


     ■人物略歴

    なかえ・ゆり

     1973年、大阪府生まれ。法政大卒。89年に女優デビュー、多くの映画やドラマに出演。NHKBS「週刊ブックレビュー」で長年司会を務め、現在はNHK「ひるまえほっと」(関東ローカル)やフジ系「とくダネ!」などで活躍。読書をテーマに講演も行う。一方、2002年に「納豆ウドン」でBKラジオドラマ脚本懸賞最高賞を受賞。主な著書に、小説「結婚写真」「ティンホイッスル」、エッセー集「ホンのひととき 終わらない読書」など。

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