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<ニュース解説>武器取引、透明性に懸念=田中洋之

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メキシコ・カンクンで8月24〜27日に開かれたATTの第1回締約国会議=榎本珠良さん提供
メキシコ・カンクンで8月24〜27日に開かれたATTの第1回締約国会議=榎本珠良さん提供

国際条約発効から1年、問われる実効性 日本の「輸出拡大」に批判も

 通常兵器の国際取引を規制する武器貿易条約(ATT=Arms Trade Treaty)が発効してから12月で1年となる。8月末には第1回締約国会議がメキシコ・カンクンで開かれ、事務局をスイスのジュネーブに置くことが決まった。しかし、武器の輸出入状況を報告する際のテンプレート(書式)については合意できず、取引の透明性をいかに確保するかが課題となっている。武器輸出の「原則禁止」を見直し、輸出拡大に積極姿勢をみせる日本政府にも厳しい視線が注がれている。

報告書の書式決まらず

 ATTは世界の紛争で年間約50万人の命を奪うとされる通常兵器の取引に初めて規制の網をかける国際条約だ。2013年4月の国連総会で賛成154、反対3(シリア、イラン、北朝鮮)、棄権23で採択され、14年12月24日に発効した。これまでに130カ国が署名し、締約国は77にのぼる。

 規制対象となるのは、戦車▽装甲戦闘車両▽大口径火砲システム▽戦闘用航空機▽攻撃ヘリコプター▽軍艦▽ミサイルとその発射装置▽小型武器と軽兵器−−の八つのカテゴリー。締約国は国連安保理決議に違反したり、虐殺や人道に対する犯罪などへの使用が分かっていたりする場合は武器移転ができない。

 また輸出の際は国際人道法・人権法などに違反する行為に使われる可能性を評価し、その危険性が著しい場合は輸出を許可してはならないと定めている。

 ATTは通常兵器の輸出入について事務局に毎年報告することを義務づけており、第1回締約国会議で最大の焦点となったのは、この報告書の書式だった。取りまとめ役のスウェーデンが提示した書式案は、締約国が報告書を公開するかどうかを選べるチェック欄があった。希望すれば報告書は非公開となる仕様だ。また報告する小型武器・軽兵器は軍用のものに限定され、殺傷能力の高い全自動ライフルでも「民生用だ」と言い張れば報告しなくて済む。

 このほかATTは「報告には商業上機微な情報または国家の安全保障に関する情報を含めないことができる」としているが、書式案は該当情報の有無の記載は任意とされた。これだと「秘密情報」があるのか、ないのかさえ分からなくなる。また武器の取引量は数量と価格のどちらで記入してもいいようになっていた。

 ATTの交渉過程を長年ウオッチし、第1回締約国会議にも出席した明治大学国際武器移転史研究所の榎本珠良(たまら)さんは「書式案は全体的に条文をゆるく解釈しようとするもので、ATTの目的に明記されている武器取引の透明性確保を達成することは難しい」と分析する。ATTは武器移転の可否判断を各締約国の裁量にゆだねている。それだけに「報告書の公開が任意で、書式もバラバラでは、条約の実施状況をモニタリングできず、チェック機能が働かない」(榎本さん)との懸念は大きい。

輸出国とNGOにずれ

 報告書の公開をめぐっては、条約交渉中に一部の国が反対し、最終的に「閲覧できるものとし、事務局が締約国に配布する」ことで決着した経緯がある。あいまいさが残る表現だが、榎本さんは「採択当時、報告書は締約国間で共有されるだけでなく、一般に公開されると広く解釈されていた」という。このため報告書の公開を求めるオランダやハンガリー、チリなどや、ATTを後押ししてきた非政府組織(NGO)は今回の書式案に強く反発した。逆に「そもそも統一した書式で報告する義務は条文に書かれていない」という主張も一部から出た。4日間の会期中に意見はまとまらず、書式は検討を継続することになった。ATT発効後、最初となる今年1年間の武器取引に関する報告書は来年5月末までに提出することになっており、それまでに肝心の書式で合意できない可能性がある。

 こうした動きについて、軍備管理に詳しい佐藤丙午・拓殖大学教授は「ATTで英国など武器輸出国は自国の防衛産業が不利にならないよう取引の国際的なスタンダードをつくることに主眼を置いた。一方、NGOなどは武器移転の制約につながると期待した。双方のずれが顕在化しつつある」と指摘する。また、ATTは主要な武器輸出国である米国、ロシア、中国が未加盟(米国は署名したが批准していない)という問題点を抱える。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、10〜14年の世界の武器輸出で、トップ3にある米露中だけで全体の63%を占めている。「現段階で条約の中身を厳しくすると、米露中などの未加盟国の参加が難しくなり、ATT自体の枠組みが崩壊してしまうという危惧がある」(佐藤教授)との意識も働いているようだ。

疑念を呼ぶ「新三原則」

 日本はATT交渉で、従来の武器輸出三原則に基づき「武器を輸出しない国」という立場から支持を表明。英国、オーストラリア、アルゼンチンなど7カ国でつくる原共同提案国グループの一員として国連採択で主要な役割を果たした。条約への署名は13年6月の開始日に行い、国会承認を経て14年5月に締結をすませた。

 一方で日本政府は同年4月、一定の要件を満たせば武器輸出を容認する「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。今月1日には武器の研究開発や調達、輸出を一元管理する防衛省の外局「防衛装備庁」が発足した。日本経済団体連合会(経団連)も先月、防衛装備品の輸出推進に向けた提言を発表した。ATTの武器取引規制と方向性の異なる動きが“同時進行”した形だが、外務省は「防衛装備移転三原則は(武器の)移転を認める場合の規定を明確にし、目的外使用や第三国移転を適正に管理している。規制の対象範囲もATTより厳しい」と説明する。ATTと新三原則は整合性が取れており矛盾しない、との立場だ。

 ただ、こうした日本のスタンスを疑問視する声が出ている。武器貿易規制を求めるNGOで構成される国際キャンペーン「コントロール・アームズ」(事務局・ニューヨーク)は昨年5月、日本のATT締結を歓迎しながらも、日本が長年保持してきた武器輸出三原則の撤廃に「失望」を表明。「ATTはすべての武器輸出を禁止していないが、武器貿易の増加を正当化するために利用されてはならない」とクギを刺した。榎本さんは「日本はATT交渉時に報告書の公開を強く求め、採択時には条約を厳格に解釈して運用すべきだと論じていた。しかし締約国会議でその姿勢は弱まっており、主張に一貫性がない」と指摘する。スタートしたばかりのATTをより実効性のあるものとするため、日本は世界の模範となる取り組みが求められている。


武器貿易条約(ATT)の経緯と日本の動き

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 2013年 4月 国連総会でATT採択

       6月 日本がATTに署名

   14年 4月 日本が「防衛装備移転三原則」を閣議決定

       5月 日本がATT締結

      12月 ATT発効

   15年 8月 メキシコでATTの第1回締約国会議

       9月 経団連が「防衛産業政策の実行に向けた提言」を発表

      10月 防衛装備庁が発足

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