メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

Listening

<毎日新聞1945>相次ぐ暴露記事 GHQの戦略利用

[PR]

 「『このごろ新聞は面白くなった』と言われる度ごとに、僕は血が逆上して来るようなはずかしさを覚える」。当時、毎日新聞大阪本社社会部のデスクをしていた藤田信勝氏は1945年9月21日、こう日記に書いた。自らも海軍担当記者だった藤田氏は、戦時中の新聞の在り方を深く反省し「このごろの新聞はニュースには苦労しない。戦争中に書けなかった暴露記事が書けるので読者の新聞に対する興味は非常なものであろう」と自嘲気味に記している。

 終戦後、毎日新聞紙上には戦争の内幕を暴く記事が相次いだ。敗戦の理由を分析する記事、米通信社の記者による政府要人や著名な学者らへのインタビュー記事もあった。

 45年10月12日から13回連載された「秘められたる戦記」は、ミッドウェー海戦など主要な戦闘に参加した記者7人が執筆。日米の兵力の圧倒的な差や軍部の無能ぶり、飢餓にあえいだ戦地の凄惨(せいさん)な状況などを描いた。初回冒頭では「(記者たちは)戦線において、基地において、生命を削りつつ荘厳な事実に向かっていた筈(はず)である。今こそ自由のペン先から真実の文字を読みとろうではないか」と連載の意図を説明。国民の間に満ちていた「真実を知りたい」という知識欲も、掲載を後押しした。

 一連の記事の中でとりわけ衝撃的な内容だったのが、同9月15日に掲載された太平洋米軍司令部による報告書「比島解放戦における日本軍の典型的暴行」だ。連合国軍の捕虜や民間人生存者の証言などを基に、フィリピンでの事件を列挙している。

 たとえば「日本軍の公式命令によればマニラ市民の住宅、アパートに放火し組織的に居住を破壊しようとした」といい、典型的な事件として「(日本兵が)銃、槍(やり)とガソリンの壜(びん)を持って現れ、長屋の居住者を一室に狩り集め、残酷な手段で放火殺戮(さつりく)を行った」ことを挙げる。また、各地で刺殺、射殺、餓死、窒息死などの形跡がある遺体が多数見つかるとしたほか、「日本兵が子供の頭に銃剣の刃を突き刺し、ついで拳銃で母を殺した」との看護婦の目撃談を載せた。「種々の国籍人種からなる数百名の婦女子を拉致して連夜暴行した」旨の記述もある。

 当時東京本社社会部長だった森正蔵氏の著書「あるジャーナリストの敗戦日記」によると、報告書は「マッカーサーの司令部から情報局を通じて必ず新聞紙に掲載するようにと押しつけられた」もので、「載せない場合はその新聞紙の発行を抑えるという脅かし文句がついていた」。

 報告書掲載後の同10月7日、毎日新聞は「夥(おびただ)しい投書が集まった」として、その内容を紹介した。「発表を見た瞬間には真実と思えなかった」「国民の眼(め)から真実をかくしていた軍と官(中略)復員に際しての見苦しい軍人の行動、それらを考え合わせると、暴行も十分ありうる」「日本女性として、かかる暴行を働いた軍人を良人(おっと)に持ったことを恥ずかしいと思っている」

 メディア史研究家の有山輝雄氏はこの報告書を、連合国軍総司令部(GHQ)の初期占領政策の根幹をなす「戦争有罪キャンペーン」の一環とみる。「統治を円滑に進めるため、日本の軍国主義者の罪を糾弾してすべての責任を押し付け、国民を『真実を隠蔽(いんぺい)されていた被害者』と位置づけるものだ」としている。

 GHQはキャンペーンの集大成として、太平洋戦争開戦の4年後に当たる同12月8日から、自ら作成した連載「太平洋戦争史」を10日間にわたり新聞各紙に一斉に掲載させた。日本の軍国主義者が国民に隠していた数々の「真実」を暴露する内容で、この歴史観が東京裁判へとつながっていくことになる。

 終戦から一貫して戦争責任による解体を恐れていた新聞にとって、GHQが提示した「軍国主義者対被害者」の構図は都合が良かった。新聞は、GHQの戦略を利用して軍部を糾弾する方向へとかじを切り、生き残りを図っていく。【伊藤絵理子】

コメント

投稿について

読者の皆さんと議論を深める記事です。たくさんの自由で率直なご意見をお待ちしています。

※ 投稿は利用規約に同意したものとみなします。

利用規約

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 東京オリンピック感染対策、難題手つかずで越年 定まらぬ観客対応、膨張する費用

  2. 菅政権への打撃必至 吉川元農相の現金授受疑惑 野党「私物化政治の極み」と批判

  3. 野党4党、会期延長動議提出へ 菅政権「逃げ切り」批判 自民は「しない」明言

  4. 決勝はホンダvsNTT東日本 ともに3回目の優勝目指し、3日対戦 都市対抗

  5. 判決に涙を流した周庭氏 禁錮10月の実刑で初の収監、保釈申請も却下 香港

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです